記憶力の高い人は「索引づくり」の書き方が上手い
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★ 「記憶の索引」と「記憶の本体」
メモをすると忘れにくくなる「記憶の索引」効果について考えていきます。
正直にいうと、私は患者さんの名前をよく忘れます。しかし、患者さんが診察室に入ってくると、カルテを開かずとも、患者さんの病名、最近の病状、さらには今どんな薬が何グラム処方されているかまで思い出すことができます。
名前も覚えていないのに、薬が何グラム処方されているかまで思い出せるというのは不思議に思うかもしれませんが、これこそが「記憶の法則」なのです。
記憶には、「記憶の索引」と「記憶の本体」があります。患者さんの例でいえば、「患者さんの名前」が「記憶の索引」で「記憶の本体」は「患者さんの病歴や処方歴」ということになります。
「記憶の本体」は、そう簡単に失われるものではありませんが、「記憶の索引」は歳をとるとともに、簡単に失われやすくなっていきます。
例えば、人の名前が出てこない、というのがそうです。先週会ったAさんの名前が思い出せない。顔は覚えているし、職業も、どんな話をしたかも覚えている。でも、名前は出てこない。
記憶の分類にはいくつかありますが、「意味記憶」と「エピソード記憶」という分類があります。「意味記憶」は情報、知識に関する記憶。「エピソード記憶」は、出来事、経験、体験、思い出に関する記憶です。「意味記憶」は覚えづらく忘れやすい、「エピソード記憶」は覚えやすく忘れづらいという特徴があります。
患者さんの名前は忘れやすい「意味記憶」で、患者さんがどんなことを話したのかは忘れにくい「エピソード記憶」です。患者さんの名前は忘れやすいのに、どんな症状でどんな薬を飲んでいるのかは覚えている理由が、これでわかったと思います。
★ 索引がしっかりしていると、思い出すのは簡単
「記憶の索引」は「意味記憶」で、「記憶の本体」は「エピソード記憶」となります。「意味記憶」は忘れやすく、「エピソード記憶」は忘れづらい。では、物忘れしないようにするためにはどうすればいいのでしょうか?
「記憶の本体」については無理して覚えなくても記憶に残っているわけですから、「記憶の索引」のほうを強化すべきなのです。すぐに思い出せるように「記憶の索引」作りをしておけば、「記憶の索引」に紐(ひも)づけられた「記憶の本体」を簡単に思い出すことができます。
「記憶の索引」作りをする方法は、「書く」ことであり、アウトプットすることなのです。
例えば、「5月9日、19時からAさんと食事」と1行、メモしておくことで、Aさんの名前はより強く記憶に残ります。あるいは、Aさんと会ったときの2ショット写真をXやインスタグラムに投稿しておく。そうすると、Aさんの顔と名前が強烈に記憶されますから、忘れにくくなります。
「メモをする」ということには、実は「記憶の索引」の印象を強める、「記憶の索引」を記憶する、という意味があるのです。「記憶の本体」につながるヒント、キーワードが数語でも書かれていれば、そのメモから「記憶の本体」の詳細を思い出せるはずです。
例えば、「5月18日、15時からBさんと打ち合わせ」とだけ書いてあれば、Bさんとどんな内容の打ち合わせをするのか、すぐに思い出せるはずです。
このように、記憶の索引になりそうなキーワードを、メモ帳、手帳、ノート、付箋、本の余白など、いろいろなところにメモとして残すことで、「記憶の索引」の印象が強まり、「記憶の本体」を引き出しやすい、つまり記憶を想起しやすい状態ができあがるのです。
「索引作り記憶術」は、「メモしまくり記憶術」とほぼ同じですが、「『記憶の索引』になるようにメモしておこう」「これは忘れては困るので『記憶の索引』として残しておこう」と、意識的に「記憶の索引作りをしよう」と思うだけで、より強く記憶に残すことができます。
「索引作り記憶術」は、積極的な「物忘れ」「うっかりミス」予防法として活用できるはずです。
★ 「認知症」と「正常な老化」の簡単な見分け方
記憶には、「記憶の索引」と「記憶の本体」があると話しました。これを知っていると、精神科医でなくとも、「認知症」と「年齢相応の物忘れ」を区別できるようになります。
例えば、「昨日の昼ごはん、何食べた?」と急に聞かれると、「えーと」と思い出せないことがあるかもしれません。そこで、「近くの定食屋さんで食べたんじゃないの?」とヒントをもらえば、「そうだ、生しよう姜が焼き定食を食べた」と思い出すはずです。
万が一そこで思い出せなかったとしても、「生姜焼き定食を食べたでしょう」と言われると、「そうそう、生姜焼き定食を食べた、食べた」と思い出せるはずです。
ここで、生姜焼き定食を食べているのに、「いやあ、食べた覚えはない」と言うのなら、認知症が強く疑われます。それは、「記憶の本体」が失われているからです。
「昨日の昼食」=「生姜焼き定食」という記憶の組み合わせ。「記憶の索引」と「記憶の本体」です。正常な老化、年齢相応の老化の場合、「記憶の索引」と「記憶の本体」の連動が障害されますが、「記憶の本体」自体は障害されません。ですから、指摘されると、「ああ、そうだった」と思い出せます。
しかし、認知症の場合は、「記憶の本体」、つまりエピソードが丸ごと失われてしまう、ということが起きてきます。
私たちは、「記憶を引き出せない」ことを「忘れる」といいますが、それは「記憶の索引」から「記憶の本体」を引き出すことが障害されているだけ。「記憶の本体」そのものが失われているわけではありません。
「記憶の本体」が次々と失われていく状態が、認知症(病的な記憶障害)ですから、そうした症状がご家族に認められた場合は、すぐに精神科に相談したほうがいいでしょう。
<本稿は『記憶脳』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>