40代からの「老化の崖」を転落しないために知っておきたいこと
人間は誰でも歳を取ると体のさまざまなところが衰えます。一般的に「老化」と呼ばれる現象ですが、人によって進み方に違いがあったり、見た目にわからない体内の老化があったりします。その秘密はどこに? 40代からの「老化の崖」を転落しないために何ができるのでしょうか。
C型肝炎マーカーの開発によりC型肝炎の輸血による感染を撲滅し、世界的な評価を得た医学博士の飯沼一茂さんが今後、医学の主役となる免疫の最新知見をまとめた『倍速老化』より冒頭の試し読みをお届けします。
はじめに
なぜ急激に衰え老化し、病(やまい)や痛みを抱えてしまう人と、そうでない人がいるのでしょうか。
しっかり睡眠時間を確保したのに疲れが取れない。体があちこち痛む。これまでになかった病気や不調に悩まされている。ふと鏡を見たら驚くほど老け込んだ自分がいた……。どれか一つでも心当たりのある方は、体の内側で激しく、急速に老化が進行しているリスクが高いということを、覚悟してください。
突然このようなことを申し上げたのには、理由があります。
それは、若くして倍速で老化したかのごとく体が衰えた方、あるいは働き盛りで急に亡くなった方が、私のまわりに増え始めたからです。40代で元気いっぱいの編集者が登山に行って山頂で急に倒れたり、50代でがんが発見された経営者が、あっという間に亡くなったり……。彼らはとても元気そうでしたが、それに反してあまりに病状がひどかったため、体の中では急速に老化していたことが考えられます。
こうした経験を重ねるうちに、現代人の体を静かにむしばむ現象に強い危機感を抱くようになり、より多くの方々に、私が長年追い続けてきた人体すべてにかかわる研究の最新情報を知ってほしい、と強く願うようになりました。
医学博士とはいえ医師でもない私がこう考えるようになったのは、どんなに高明な医師や研究者であろうと決して万能な存在ではない、と半世紀ほど前に知ったのが、おそらく最初の契機です。
新卒で入社した放射性医薬品を研究・開発する製薬会社で、私は高精度なホルモン測定の研究・開発をしており、そこは国内でも特に優秀な医師や研究者が測定を依頼しに来るような研究室でした。なぜならホルモンは当時あらゆる病気に関わるものとみなされていたため、多くの研究で測定が欠かせなかったからです。
こうした背景から、多くの医師や研究者と話をするようになります。そのときにわかったのは、彼らはがんや感染症など、ご自身の専門分野については当然ながら非常に優れた見識をお持ちである一方、専門外のことは十分な情報をお持ちではないことでした。私はさまざまな分野における世界でもトップレベルの研究に触れるなか、同じ医学でも、ある分野では常識のことが別の分野ではまったく知られていないことに、とても驚きます。
そして「この病気における知見をあの症状に応用すればいいのに」と考えて分野を横断するアイデアを提案し、そのいくつかで微力ながら研究成果に貢献しました。
二十歳そこそこの若造が、よくノーベル賞を狙うような教授にまで物申したなと思いますが、このときに権威や常識を疑い一歩引いた目線で考えることが、新たな何かを見出すうえでいかに大切かを知ります。そして、それが人の命を守ることにもつながったのです。
たとえば、当時は輸血でC型肝炎ウイルスに感染した方が、のちに肝臓がんを発症し毎年3万~4万人も亡くなっていました。その因果関係を見抜いた私は、開発していたC型肝炎の血液検査の導入を国にかけあいます。しかし国も血液センターも測定にはかなり消極的で、導入が進みません。私は「この検査を導入すれば輸血後感染はほぼゼロになる」と新聞記者発表まで行うも「そんなのは言いすぎだ」などの批判があらゆる方面から集中。
それでも諦めず普及活動に努め、導入が進むと輸血後の肝炎患者は本当にほぼゼロになり、それに伴いC型肝炎から肝臓がんを発症して亡くなる方も3万~4万人減少しました。
またB型肝炎ウイルスに感染した方ががんを患い、抗がん剤治療を受けると、B型肝炎ウイルスが再燃し劇症肝炎で急に亡くなってしまうというケースも多発していましたが、そのしくみにいち早く気づいた私は懸命に検査の重要性を訴え続けたところ、国の免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドラインに明記されるに至りました。
こうした経験があるからこそ私は、患者さんの命と日々向き合う医師をリスペクトしつつも、彼らとは異なる視点から、現代人の体に起きている危険について今日まで、否定や批判をおそれることなく伝え続けられたのです。
見た目の老化と体内の老化は比例しない?
体内で急速に進む老化は、見た目に現れないこともあります。
そもそも外見だけなら、ある程度は最新のスキンケアやメイクなどで取り繕えるようになったからです。しかし体の内側で加速している老化は、残念ながらそうしたケアで抑えることは不可能。先ほど申し上げたような急速な老化が体内で起きた方々は、健康な方からしたら信じがたい速度で血管や臓器が衰えていたからです。
この2倍速で体の老化を進めてしまうような「倍速老化」とでも呼ぶべき現象は、なぜ起こるのでしょうか。
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【著者】
飯沼一茂(いいぬま・かずしげ)
医学博士。純真学園大学客員教授。日本機能性免疫力研究所代表。
1948年生まれ。1971年立教大学卒業後、ダイナボットRI研究所(現:アボットジャパン)入社。1987年大阪大学医学部老年病医学講座にて医学博士取得。1995年、米国アボットラボラトリーズ・リサーチフェロー。2008年よりアボットジャパン上級顧問。2010年より国立国際医療研究センター・肝炎免疫研究センター客員研究員。2012年から純真学園大学客員教授。
ホルモン、腫瘍マーカー、感染症マーカーの測定法の開発に多く携わる。特に、C型肝炎マーカーの開発によりC型肝炎の輸血による感染を撲滅し、世界的な評価を得た。そのほか、HIVマーカーの測定法開発やエイズ撲滅のボランティア活動を積極的に行っている。
著書に『それでは実際、なにをやれば免疫力があがるの?─ 一生健康で病気にならない簡単習慣─』『免疫アップの最強セットリスト─自分で選ぶ健康寿命の延ばし方─』(ともにワニブックス)がある。