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「プロセスをちゃんと見てくれる大人がいたからこそ私がいる」“ビリギャル本人さやか”を導いた「才能の正体」

『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(通称、『ビリギャル』)著者・坪田信貴さんと“ビリギャル本人さやか”さんによる対談連載(全3回)の最終回(坪田さんは海外からオンラインで参加)。ビリギャルを育てた坪田さんが、「才能の正体」について明かします。

(司会:武政秀明/Sunmark Web編集長)

◎第1回(「親が子どもにネガティブなことを言うのは勉強に悪影響を与えます」“ビリギャル本人さやか”が自分の体験を交えて断言する理由)はこちら 

◎第2回(「正しい努力と動機と環境がそろえば、勉強は必ず昨日よりできるようになる」“ビリギャル本人さやか”が考える「地頭がいい」の定義)はこちら

徹底的に磨けば、なんであっても「才能」になる

――勉強にも「才能」があるのでしょうか。

坪田信貴(以下、坪田):才能って、博士号に似てるなって思って。博士っていわれたらなんでも知っていそうですけど、本当はめちゃくちゃどうでもいいことに詳しいじゃないですか。めちゃくちゃ細かい、針の穴を通すようなこと。誰も知らないことを研究しているから博士号なのであって、その人たちを1万人くらい集めてやっと何かに使えるかもしれないなっていうのが、僕は博士号だと思うんですね。

ぜんぜん批判しているわけじゃなくて、そこまで細かく、オタクの極みみたいなものを磨きに磨けば、どんなに役に立たないものでも「才能」になるのが、博士号だと思うんです。

――究極、何でもいいわけですね。

坪田:はい。例えば、今おにぎりを食べていて、それを子どもが落としました。落とした瞬間に食べようとしたときに、3秒ルールまでだったらOKっていう、謎の3秒ルールってありますよね? ゼロコンマ何秒から3秒までの間に、おにぎりに付着する細菌がどのくらい増えるか? で、4秒になったら本当にアウトになるのかっていうのを徹底的にいろんな場所で研究したとしたら、それは博士号取れると思うんですね。

――取れそうですね(笑)。

坪田:それが才能。だから、なんでもいいので自分がふと疑問に思ったこと、気になったこと、好きなことを徹底的に磨きに磨けば、なんであっても才能になると思うんです。

例えば、ボールをめちゃくちゃうまく蹴れますっていう人がメッシになるわけですから。

――本来、それだけでは役に立たないはずなんだけどってことですね。

わらしべ長者の才能――坪田氏が思うビリギャルのすごさ

ビリギャル本人さやか(以下、さやか):私の才能って何ですか?

小林さやかさん

坪田:さやかちゃんの才能は……現代の「わらしべ長者」の才能があると思う。

わらしべ長者って、田舎の貧乏で怠惰な男が、ある瞬間に金持ちになりたいな~って思うんですよ。それで何したかっていうと、お寺に行って観音様に三日三晩祈って。お堂に出て最初に手に入れたものを持って、西に向かって歩きなさいって言われて、は~いって出ていったら、お堂出た瞬間にこけて、手に持ったのがわらで。

それを持って西に向かって歩く。途中からあぶが来て、あぶをわらで結んで歩いていたら、向こうから泣いている赤ちゃんとお母さんが来て、赤ちゃんがあぶがほしいというのであげたらみかんをくれて、みかんを喉が渇いた旅人にあげたら、代わりに反物をくれたり……という感じ。

これっていくつかポイントがあって、めちゃくちゃ貧乏でぼーっとしてる人っていうのは普通、金持ちになりたいって思わないです。俺、無理だなぁってなるから。つまり、偏差値30の子が慶應大学行こうってならないんですよ。

――さやかさんは「なんか慶應行ったら面白そう」って思ったことがすごかったと。

坪田:その次に何をしたかっていうと、普通その状態だと、「金持ちになるのはどうしたらいいですかね」っていうのを、まわりの庄屋さんとか親とか友だちとか、お金持ちじゃない人に聞くんですよ。でも、彼が選んだのは観音様っていう、すべての真理を知っているであろう存在。

で、観音様のもとに行って、お金持ちになりたいってお祈りする人なんて全国にたくさんいますけど、わらしべ長者の場合は、「三日三晩」お祈りするんですよ。これ、すごいですよね。

――徹底していますね。

坪田:そうすると観音様もさすがに「あ、そこまで本気なんだ」と教えてくれるわけですよ。

で、お堂出て最初に手に入れたものを西に持って行きなさいって教わったけど、すってんころりんって転んで手にしたものがわらだった場合、ほとんどの人は「あ、これ違うな」って思うはずなんですよ。わらを持って西行ったところで金持ちなんてなれるはずないって思って、勝手にそこで判断して、わらを捨てて次のやつ持って行くみたいな。それって観音様からしたら「ふざけんな! なんで言われた通りにやんねぇんだ」って話じゃないですか。

――そんな人に本当のことは教えてくれないですね。

坪田:「この参考書やったほうがいいよ」って言っても、「なんか好きじゃないんですよね」ってやつ、いるんですよ。なんでお前の好き嫌いで決まんねんって話なんですけど(笑)。

で、ここからがさらに重要で、西に行ったら、あぶが飛んできてくくりつけて……ってやるんですけど、これって観音様の指示にプラスアルファのことをやっているんです。自分なりに「こうやったほうが面白いな」って。ここがポイントで、観音様の指示通りであるんだけども、かつプラスアルファのことをやっているんです。

――自分なりのやり方を加えている。

坪田:そう、自分も楽しめるように。ただわら持って歩いてても楽しくないけど、あぶがぶーんと飛んでいたらなんか面白いし、暇つぶしになるというように。

ちなみにさやかちゃんは、僕の指示プラスアルファで古典の勉強をしたりもしていたんですよ。

さやか:うん、やってました。

坪田:話をわらしべ長者に戻すと、そこから自分なりに歩いて行ったら、泣いている子どもがいる。で、その子がわらを欲しがったからあげているんですけど、これも、困った人がいたり、自分よりもそれを欲している人のために、まず与えるということをやっている。そうすると、リターンでより良いものをもらえる。これを繰り返している。

さやかちゃんの人生って、そんな感じだなってすごく思うんです。最終的にわらしべ長者になってここまで来て、いつのまにかアイビーリーグでA取りましたとか言って、出版社で取材受けて、本って面白くないと思いますとか言ってるわけです(笑)。

さやか:違う、本が面白くないって言ってるんじゃないの。面白くないと読めないくらい、私が本が苦手だって言ってんの(笑)。

――素直に聞いて、自分なりに工夫もして、人に与えてもらって、また与えてもらってという繰り返しをして今の地位を得ているところが、わらしべ長者そのものであるということですね。

坪田:そう。現代のわらしべ長者だなと思いながら、いつもさやかちゃんを見ているし、それが才能。素直さだけとはちょっと違うんですよね。

――柔軟ですしね。そもそも、「なろう」と思ったのも重要なポイントですよね。

坪田:そう、みんななれないと思っちゃうんでね。みんな、自分が本当になりたい姿っていうのを、そもそも思い浮かべもしないっていうね。

いっそドアホのほうが勉強に飛びつける!?

――自己肯定感や自己効力感という言葉が、さやかさんの新刊『私はこうして勉強にハマった』(著:ビリギャル本人さやか/サンクチュアリ出版)にも出てきました。

坪田:最近、さやかちゃんも賢くなってきてそういうことを言うんですけど、僕はさやかちゃんがなんでできたかっていうと、めちゃくちゃシンプルだけど、めちゃくちゃアホだったからだと思うんですよ(笑)。

さやか:えーそうかなぁ。

坪田:櫻井翔くんとか山Pとかに会えたらいいなぁって動機で受験してるんだから、自己肯定感とか自己効力感とかじゃなくて、アホだからですよ(笑)。

さやか:そうなの!? 知らなかった!! じゃあアホなやつほど可能性が高いってことだね?(笑)

坪田:そういうことだと思うよ、だってそのほうがかわいいじゃん(笑)。中途半端に小頭が小賢しいやつを量産すんなよ(笑)!

さやか:はっはっは(笑)。いっそのこともう、ドアホみたいな人のほうが飛びつけるってことだね。

坪田:いやね、みんな真剣に教育っていうけれども、あなたがイーロン・マスクやビル・ゲイツだったらそのテンションでやってもいいと思うけど。でもみんな、小頭が小賢しいだけじゃないですか! 実際はみんなアホなんだから、アホでいいじゃないですか。

さやか:いや、アホでいいよねぇ。たしかに。

――かっこつけなくていいってことですね。

坪田:そうです。本当にすごい人の話を聞きたければ、そのために本があるわけですし。

プロセスを見てくれる「子どもにとって憧れられる大人」の存在

さやか:私が坪田先生にいちばん感謝しているのは、「プロセスを見る」っていうのを教えてくれたことです。それを受験期間の1年半ですごい学んだと思っていて。その後、認知科学の論文を死ぬほど読みましたけど、結果として、坪田先生にすごく感謝があふれてきたんですね。

東アジアの文化って、ものすごく結果重視です。受験だと不合格=失敗だととらえてしまうことが多い。例えば、私の講演を聞いてくれた高校生が、私のところに来て「私、中学受験に失敗してるんです」って泣き出しちゃったりすることがあるんですね。その子は親に「あんたを信じた私がバカだった」「あんたにどんだけ金使ったと思ってんだ」と言われたのがトラウマで、「もう受験が怖いんです」って。

――この10年間、そういう子たちにたくさん会ってきたんですね。

さやか:私がそういう環境だったら無理だったなぁって思います。私の母は、別に慶應大学に受かろうが受からなかろうが、坪田先生と毎日楽しく学んでくれていたらそれでいいっていう人だったし、坪田先生もすごくプロセスを常に見ようとしてくれた人だった。だから、「ちゃんと見てくれている」っていう安心感が原動力になって努力ができました。

もちろん、失敗したらどうしようって挑戦しているときは思うけど。私は坪田先生のせいで文学部落ちましたけど。

坪田:すいません!(笑)

さやか:不合格になったときに何を思ったかというと、「いや~でも私、ものすごいところまで来たな」だったんですね。

ギャルのときには到底想像が及ばなかった世界に自分の力で歩いてこれたっていう感覚がすごくあったから、そのときにすでに挑戦しなかったら到達しなかったところに上れていたんですよ。明治大学も関西学院大学も受かっていたから。どこにも受からないと思われていたビリでギャルの私が、そんなドリーム校を滑り止めにしてもっと上に行こうとしてるって、これだけでもものすごいことだった。

――遠くまで来た感じですね。

さやか:コロンビア大学に留学したときも同じ感覚。私、オリエンテーションで何言ってるかぜんぜんわからなかったんですよ(笑)。オリエンテーションって説明受けるところなのに、何もわからないやつ私しかいないだろうなと思って、感動して泣けてきたくらい(笑)。私、本当によく頑張ったなぁと思って(笑)。

――よくここまで来たなぁと。

さやか:でもやっぱ、そこまで行けたのは、私の周りに、本当にありがたくもプロセスをちゃんと見てくれる大人がいてくれたからだって思う。だから、私がこれからやりたいことは、そういう大人を増やすことです。子どもたち一人ひとりに最低一人はそういう大人がいないと、私みたいには頑張れないと思うから、そういうことをやっていきたいし、この本はそのロールモデルとなるような「憧れられる大人」を量産するための大プロジェクトの走りだと思っています。

一人でも多くの方に読んでほしいし、これからも坪田先生に教えてもらったことを、今度は私がもっと多くの方に伝えていきたいです。

子どもが勉強をやる気になるモチベーションの高め方

坪田:さやかちゃんとは、もう20年近い付き合いです。その間、本人は勉強にハマっていないと言うんですが、周りから見るとハマっているようにしか見えない行動をとり続けているんですよ。

ここ数年だって、1日15時間とか、コロナ期間中も死ぬほど勉強をして、TOEFLも何回受けたんだ? ってくらい。逆にハマってなければ、そんなに勉強できないんじゃない? って思います。

――本人的には違っても、行動はそうなっている。

坪田:これって第2回(「正しい努力と動機と環境がそろえば、勉強は必ず昨日よりできるようになる」“ビリギャル本人さやか”が考える「地頭がいい」の定義)で話した「私は英語をしゃべれません」「いやいやしゃべってるじゃん!」っていうのと近いと思っているんですよね。

僕、親御さんからよく「うちの子ぜんぜん勉強しなくて、やる気にさせてください」って言われるんですけど、それって逆で、やってたらやる気になっていくんですよ。それが心理学的な答え。やるからこそ、やってるうちにやる気になっていく。

――順番が逆なんですね。

坪田:親って「なんで勉強が必要なのか?」とか、説教的な感じでやらせようとしたり、「なんでやらないの」とか聞いたりするんですけど、そういうものではない。まず、とりあえず、小さなステップから始めてみる。そのときに「こんなこともできないの」じゃなくて「すごいね」って「ペン持って頑張ってるね」みたいに、ちゃんと認めてすぐ行動を促す。

それをフィードバックするようにしていけば、勉強じゃなくて、学習でもなくて、楽しいことや趣味みたいになっていくんです。趣味って、好きでもなくて、ただやっていること。「これやらないとしっくりこないんです」という感じになれば最高だなと思う。

――理想ですね。

坪田:親は子どものためって思っているから説教だと思ってないんですけど、長時間説教しがちなので、5分を超えたらすべて説教だと思ってください。子どもと話して何かを促したりするときは、コーヒーが冷めないうちにやってくださいね(笑)。

(構成:吉原彩乃/編集者、撮影:今 祥雄、編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)