「だるい」と感じた時に私たちの体で起きていること
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「細胞」がエネルギーを止める条件
ミトコンドリアは、かなり前から「細胞の発電所」あるいは「エネルギー発生源」として知られているが、多くの場合、私たちが食べた脂肪と炭水化物を機械的に取り込み、細胞エネルギーとして送り出していると考えられがちだ。
実際のところ、ミトコンドリアはそれよりはるかに複雑なことを行っている。
ナヴィオー博士の著作によると、ミトコンドリアにはエネルギー産生に加え、新たに発見された第2の重要な働きがあるという。「細胞防御機能」だ。
これは、私たちが疲労を理解するうえで大きな意味をもつ発見だ。
ナヴィオー博士の最近の研究が明らかにしたのは、「ミトコンドリアは単にエネルギーをつくり出すだけでなく、ストレスのセンサーであり、さらには細胞を守るものでもある」という発見だ。
ミトコンドリアは、危害を加えてくるものから私たちの細胞を守る際に中心的な役割を果たす。この働きを、ナヴィオー博士は「細胞危機反応(CDR)」と名づけた。
「細胞危機反応(CDR)は、細胞およびその持ち主を危害から守るための、進化の際に保存された代謝反応だ」とナヴィオー博士は説明する。
「この反応は、細胞のホメオスタシス能力を超える化学的・物理的・生物学的脅威が襲ってきたときに起きる。それにより、入手可能な資源と機能的能力とのあいだに代謝上の不均衡が生じ、それが細胞(機能)に一連の変化を引き起こす」
この一連の細胞変化が、頭がぼんやりした状態や心身の能力低下、慢性炎症、解毒能力低下、そして最もよくある症状「疲労」の原因となるのだ。
そして、新たに発見されたミトコンドリアの細胞防御機能は、そうした状況において非常に大きな役割を果たす。もっといえば、この機能はミトコンドリアがエネルギー産生量を決める際の最も重要な要素だ。
ナヴィオー博士は次のように書いている。
「ミトコンドリアは代謝の輪の要にあって、500以上の異なる化学反応を統合する存在であり、細胞の化学的環境を監視しつつ制御する。ミトコンドリアが細胞に対する『危険』を感知すると、まず『ストレスモード』へと移行し、次に『闘争モード』に入って、エネルギーを産生するミトコンドリアの代謝機能の大部分をオフにする。
……エネルギー産生と細胞防御は、同じコインの裏と表である……ミトコンドリアは、エネルギー産生と細胞防御の両方を同時に、100%の容量で行うことはできない」
私たちのエネルギーレベルを本当にコントロールしているものは何かを知るカギがここにある。ミトコンドリアはエネルギー産生と細胞防御という二重の役目を負っているが、その両方を同時にこなすことはできないのだ。
つまり、あなたの体が防御モードに入ると、エネルギーモードのほうがおろそかになってしまうということだ。
ミトコンドリアは非常に感度のよい環境センサーだ。サンプルを集め、あなたの体の状態を確認しつつ、つねにこう問いかける。「私たちはいま安全な状態にあって、エネルギーをつくり出すことに集中していいのか? それとも、攻撃下のストレス状態にあるのか?」
たとえば、こんなふうに考えてみるといい。誰かがあなたの家の外に毒ガスをまいたとする。そんな非常時に、「大丈夫、いつもどおりに過ごそう。窓を開けて新鮮な空気を入れ、あとから散歩にでも出かけよう」なんて悠長なことを言っていたらどうなるだろう?
生き残りたければ、すぐさますべてのドアと窓を閉め、家のなかにこもらなければならない。
これこそまさに、ミトコンドリアが脅威を感じたときに取る行動だ。
ミトコンドリアは危険を感知すると、細胞をロックして、外部のものが侵入できないようにしたうえで、通常機能(エネルギー産生など)をオフにする。ナヴィオー博士の説明は次のとおりだ。
「私たちが吸いこんだ空気、食べ物や飲み物から摂り入れた栄養素はすべて最終的にミトコンドリアへと運ばれ、私たちが動いたり考えたり働いたり遊んだりするのを助ける。
ミトコンドリアはつねに細胞の化学的環境を監視し、危険が起きたら即座に反応する。自らの活動を健康時の機能(エネルギー産生)から細胞防御モードへと切り替えるのだ。
戦争が始まったとき、細胞は人間が戦時に行うのと同じことをする。細胞危機反応が発動すると、細胞は国境を固め、隣人を信用せず、隣人との資源のやりとりを制限するのだ」
「だるさ」は細胞の防御モード現象
覚えておいてほしいのは、多くのミトコンドリアが細胞危機反応に移行するほど、エネルギー産生モードにあるミトコンドリアの数が減ることだ。そしてミトコンドリアが細胞防御モードに入るにつれて、あなたの気分は悪化する。
これは白か黒かではっきり線引きできるものではないことにも留意してほしい。100%元気なエネルギーでいっぱいという状態もなければ、100%慢性疲労症候群で弱りきった状態もない。スイッチオン、スイッチオフで切り替えられる機能ではなく、調光スイッチのようなものだ。
だから、正しいインプットをたくさん受け取るほど、ミトコンドリアは「平時の代謝活動」ができるようになり、エネルギーを豊富に産生しようとする。そして脅威を感知すると、その脅威の度合いに従ってエネルギー産生を減らし、細胞防御に自らの力の大部分を回して「戦時の代謝活動」に入る。
この活動の程度によって、軽い疲労を感じるか激しい疲労を感じるかが決まる。
ではミトコンドリアは、エネルギーを大量に産生するか、エネルギー産生をやめるかをどうやって決めているのか?
答えは簡単だ。「自分がいまどんな環境に置かれているか」を判断し、それに反応している。
この答えでは抽象的でわかりづらい人もいるかもしれないので、個人の経験に当てはめて説明しよう。インフルエンザや風邪にかかって、具合が悪くなったときを思い出してほしい。そういうときに表れる大変な症状の1つに、疲労がある。
体中がだるくて、ふだんと比べてエネルギーがほとんどないように感じたのでは?
これは、あなたの体が細胞危機反応モードに入ったことを示す典型的なサインだ。エネルギーがないと感じるのは、あなたの体がエネルギー産生のしくみの大部分をまさにシャットダウンしているからだ。
日常的によくあるこの単純な現象こそが、疲労を理解する大きなヒントになる。
すべては「生き残る」ための人体の戦略
ストレスや危機(過酷な環境)のサインを受けると、体は生き残る確率を上げるためにエネルギー産生のボリュームスイッチを下げる。そうやって、細胞防御に向けて資源を確保しようとする。
この視点で考えると、疲労とはすなわち、過酷な環境下において生き残るための、力強く、賢く、適応力に富んだすぐれたメカニズムということになる。
また、過剰なストレスやがんばりすぎ、無理なエネルギーの需要に対処するためのすぐれた反応でもある。このモードに入れば、働きすぎてしまう傾向を抑え、体内の資源を回復や防御、細胞再生に回せるようになるからだ。
病気になったり、過剰なストレスを受けたり、がんばりすぎて睡眠不足のときに疲労を感じるのは、あなたの体が回復と再生に焦点を合わせ、健康を取り戻そうと努力する姿勢が自然に表れた結果なのだ。
これこそが疲労の正体だ。疲労とはつまり、エネルギー産生量が落ち、細胞が脅威から身を守らざるをえなくなった状態といえる。
以上をふまえて、自分の疲労の本当の理由と解決策を知りたいと思うなら、次の言葉をよく心に刻んでほしい。
あなたのエネルギーレベルは、ミトコンドリアが自らの置かれた環境をどう理解するかで決まる。
つまり、疲労を克服し、エネルギーを取り戻すためには、ミトコンドリアに「もう安全だからエネルギー産生を正常に戻して大丈夫」という信号を送ればいいのだ。
そのためにはまず、ミトコンドリアに信号を送っている私たちの環境や生活習慣にかかわる要因を理解し、そのうえで危険信号を排除して、よい信号をたくさん出すようにすればいい。
日常生活のなかで、ときどき立ちどまって自分に問いかけてみよう。
「私のミトコンドリアはいま、エネルギー産生モード? それとも防御モード?」「この食べ物はミトコンドリアのエネルギーレベルを上げるもの? それとも下げる?」
こうした質問をつねに問いかけることで、自分の体に意識を向ける能力が高められ、ミトコンドリアが必要とする食べ物を自然と選べるようになる。
<本稿は『回復人 体中の細胞が疲れにつよくなる』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
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