野口悠紀雄「ChatGPTの文章校正、翻訳は驚異的」
2023年に全世界へと一気に広がったChatGPT。生成AIの登場によって社会が大きく変わる可能性があります。
ChatGPTは何ができて何ができないか? 経済学者として日本経済を観測し続け、大ベストセラー『「超」勉強法』をはじめ、独自の勉強法を編み出してきた経済学の大家、野口悠紀雄さんは、翻訳や要約、文章の校正などができる半面、創造には向かないと指摘します。
野口さんが「デジタル機器」「加齢」「残り時間」をも味方につける「人生100年時代の勉強法」を伝授した新刊『83歳、いま何より勉強が楽しい』よりお届けします。
翻訳などに使える
「ChatGPTは、ITに強い若者なら使えるが、高齢者には難しい」と考える人がいるかもしれません。しかし、少しも難しいところはありません。少なくとも、最初の設定だけ誰かにやってもらえば、簡単に使えます。
スマートフォンで使えば音声でもできるから、自分でキーボードを打たなくてもできます。「技術的に難しい。高齢者には難しい」という考えは、全く見当違いです。だから、ChatGPT が高齢者向きでないという批判は、間違っています。高齢者こそ使うべきです。
何に使えるか? 今の段階で、知的な作業の効率化に使えます。第1には、翻訳ができます。日本語の定型的なメールなら、ウェブにいろいろな雛形があります。けれども、どうもぴったりしないという場合が多いのですが、内容を指定して「メールを書いてください」とChatGPTに頼めば、きちんとしたメールを書いてくれます。
英語のメールを書かなければならないのはどうしてもおっくうで、ついほうっておきがちですが、メールは早く返事を出さないと、どんどん書きにくくなるものです。ChatGPTに日本語を英語に直してもらって書けば、すぐ返事ができます。これは決して無視できないことです。
2番目は、文章の要約です。長い文章を示して、「これを何字の文章に要約せよ」というと、やってくれます。かなり適切な要約です。翻訳と併せると、英語の文献を要約してくれという使い方もできます。だから、例えば英語の文献を指定して、この文献を500字の日本語に直してくれということができます。
この使い方は非常に有効です。特に日本人にとってはそうです。英語の長い論文を速読することが日本人には大変難しいからです。ですから、たくさんの論文がある場合に、いったいどれが読むに値する文章かという判断は非常に難しい。
ところが、そういう論文を取り上げて、これを500字の日本語にしてくれと言えば、あっという間に中身が分かります。したがって、真面目に取り組んでいい論文かどうかという判断ができるわけです。
これはGoogle翻訳ではできなかったことです。この機能が使えるようになって、私の情報収集能力が飛躍的に拡大しました。これから中国語の文献がどんどん増えてくると思いますが、中国語の勉強をするというのは大変です。この機能に期待できます。
驚嘆すべき校正能力
もう一つは長い文章の校正です。メールなどよりもっと長い文章を校正してもらうことができます。
私は、原稿を書く際に音声入力で執筆しているのですが、変換のミスがあります。今までは誤字脱字の修正は手作業でやらざるを得ず、そこに一番時間がかかっていました。しかし、AIに頼めば、あっという間にできてしまいます。
これまで1時間かけて行っていた退屈な仕事が、準備作業を含めても5分位で終わってしまいます。これによる作業効率の向上も驚異的なものです。
創造はできない
それでは、クリエイティブな仕事ができるでしょうか?
多くの人が生成AIに期待をしているのはこのことです。つまり、クリエイティブAIに頼めば面白い小説を書いてくれたり、あるいは論文を書いてくれたりする、そういう能力を持っているのではないかと考えていることが多い。では、はたしてそういうことができるのでしょうか?
私はこのことに非常に関心がありましたので、幾つか実験をやってみました。最初にやったのが、小説の続きを書いてもらうことです。
短編小説や映画を指定して、この続きを書いてくれということを頼んだわけです。これは見事に失敗しました。一応書いてはくれるけれども、箸にも棒にもかからない。まったく価値がないストーリーしか書いてくれません。
世の中ではこういうことに対する要求が大きい。そして、例えばSF短編のコンテスト、星新一賞にAIの書いた文章が入賞したということが報道されています。ですから、こういうことが既にできているのであろうと考えている人も多いと思います。
そういう入賞作があることは事実ですが、それは、「これこれの小説の続きを書け」というような指示ではできないはずです。もっと詳しく指示しているはずです。詳しく指示をして、それに従った文章を出させているはずです。
しかも、それを何度も繰り返しやっているに違いない。つまり、ストーリーを書いているのは人間なのです。生成AIは、人間の書いたストーリーに、いわばちょっとだけ肉づけをしているということにすぎない。ストーリーを書く基本は人間でなければできない。それはAIの原理からして当然のことです。
<本稿は『83歳、いま何より勉強が楽しい』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
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【著者】
野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
1940年、東京に生まれる。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専攻は日本経済論。経済学者としての著作のほか、大ベストセラーとなった『「超」整理法』『「超」勉強法』シリーズをはじめ、学びについての著作も多数。近著に『「超」創造法』(幻冬舎新書)、『生成AI革命』(日経BP)など。