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リーダーは自分をよく見せようとしないほうが慕われる

 尊敬できる上司と残念ながらそうではない上司。その違いはどこにあるのでしょうか?

 部下は、上司の人間性をこそ見ています。ロングセラー『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』よりお届けします。

『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』 サンマーク出版
『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』

尊敬できた上司と比べて、今の私はどうなのか?

 大学を卒業して、最初に入った会社は日産自動車でした。今なお私にとっての心の師匠ともいえる存在の上司に出会ったのは、入社2年目のときです。まずは範を示してくれて、教えてくれて、かつ任せてくれた。この上司から、私は多くのことを学びました。

 10歳ほど年上でしたから、上司はちょうど33歳くらい。私は自分が33歳になったとき、その上司と比べて今の自分はどうなのかと見つめ直し、自分の至らなさに愕然としたことを覚えています。

 その上司は、高校卒業後に会社に入った人でした。大学卒業者も多い日産自動車では、残念ながら出世に学歴が影響していました。私から見れば、まわりにいるどの課長よりも仕事ができたにもかかわらず、係長のままでした。誰もがそのおかしさに気づいていたと思います。

 それでも本人は、そんな不満は一切外に出すことなく、自分が果たすべき仕事に取り組まれていました。どうして私は、その人に尊敬の念を抱いたのか。後にはっきりと気づくことになりますが、その上司には、私利私欲がまったくなかったからです。

 上司としての自分をまわりによく見せるためとか、自分の出世のためとか、部下に自分を大きく見せるためとか、そういうところが微塵(みじん)もなかった。その人にあったのは、日産自動車にとってどうか、それは日産自動車のためか、何を会社は求めているか、ということだけでした。心の底から日産自動車を愛していました。

 強い愛社精神のもと、自らの仕事に誇りを持ち、人一倍勉強をして日々を過ごす。部下に仕事を委ね、任せ、最後は責任を取る。私は、いずれは自分もそうしなければいけないのだ、と思いました。部下を持つようになったときも、真っ先にイメージしたのはその人でした。

 部下は上司をよく見ています。そして見ているのは、仕事ぶりばかりではありません。

 その人間性こそ、しっかり見ていると私は思います。カリスマ性があるとかないとか、リーダーシップがあるとかないとか、そういうことは上辺だけのことだと私は思うのです。

偉い人が、「謙虚でいること」はかっこいい

 日産自動車ではもう一人、強く印象に残った上司がいました。私は入社3年目、販売応援で1年半、販売会社で車の飛び込みセールスを行う仕事をしていました。車というのは、簡単に売れるものではありません。来る日も来る日も飛び込み訪問を続け、100軒回ってようやく1人のお客様に巡り合えるかどうか、という仕事です。

 その販売会社の社長が、一所懸命頑張っていた私をよくかわいがってくださったのでした。日産自動車本社から出向されていたのですが、「オレはこの販売会社に骨を埋める」とおっしゃっていました。多くの人が日産自動車本社での出世を目指し、出向しても早く本社に戻りたがる中で、この発言に覚悟を感じました。でも、それだけに販売会社の人間にはうれしい言葉だったはずです。かっこよく、素敵な人だ、と私も思いました。

 やっぱりこういう人格者は、まわりがしっかり見ているのでしょう。後にこの人は本社に呼び戻されて販売トップの常務になられました。ところが、それだけのポジションになっても、偉ぶるところはまるでなく、セールス時代と同じような感覚で私に声をかけてくださっていたのでした。

 突然電話がかかってきて、「ちょっと来てくれ」と言われ、何かと思ったら、「これがよくわからないから、意見を聞きたい」と言われたりする。日産自動車の営業のトップです。当時の私にとっては、雲の上のとんでもなく偉い人です。私が教えることなど何もないはずなのですが、謙虚にそう問われる。

料亭よりも安居酒屋

 そしてもう一人、直接の上司ではなかったのですが、日産自動車を離れ、コンサルティング会社を経て入社した日本コカ・コーラ時代のボトラーの役員の方でした。

 最初はパーティでお会いしたのですが、とにかく腰が低いのです。当時の私は30代。偉い人ばかりですから、明らかに「この若造が」という態度で接してくる人も少なくない中で、驚くほどの低姿勢で声をかけてこられました。

 後で知ったのですが、実は大変な実力者でした。後に、その力を発揮して、経営者として、とても難しいと言われていたM&Aのプロジェクトを次々に推し進めていかれたのでした。それでも、腰の低さと謙虚さは、まるで変わりません。社内外に多くのファンがいました。

 今もよく覚えているのは、「ちょっとメシでも食いに行こう」と誘われてついていくと、そこは学生がたくさんいそうな安居酒屋なのです。何千億円企業のトップですから、料亭でもどこでも行けたでしょうに、安居酒屋。そして、ごちそうしてくれるのです。領収書ももらわずに。

 つまり、ポケットマネーなのです。人の心をつかむのがうまいなぁ、と思いました。料亭で会社のお金でごちそうになるより、はるかにうれしい食事でした。

 リーダーになったら、威厳がないといけない。何でも知っていないといけないし、何でもできないといけない。そんなふうに思っている人も多いかもしれません。しかし、そんなことはまったくないのです。

 むしろ最初から自分を大きく見せる必要はないと思います。なぜなら、次第に本当のことはバレてしまうからです。

 何よりもありのままの自然体を見せたほうがいいのです。そうすると、「意外にこの人は」ということになる。どちらのほうが印象がいいか、あなたにはもうおわかりだと思います。

<本稿は『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


【著者】
岩田松雄(いわた・まつお)
株式会社リーダーシップコンサルティング代表取締役社長。元立教大学教授、早稲田大学講師

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