日本の読み方、「にほん」「にっぽん」どっちが正解?
「日本」という漢字の読み方は「にほん(ニホン)」? 「にっぽん(ニッポン)」?
咄嗟に聞かれて正確に答えられる人はどれほどいるでしょうか?
『教えて! 宮本さん 日本人が無意識に使う日本語が不思議すぎる!』よりお届けします。
なぜ「ニホン」と読むほうが多い?
アン・クレシーニ(以下、アン):宮本さんはよく、日本のことを「ニッポン」と言ってる気がする。でも、巷では「ニホン」だったり「ニッポン」だったり両方あるよね。
宮本隆治(以下、宮本):私が在籍していたNHKでは、正式な国号として使う場合は「ニッポン」、その他の場合は「ニホン」と「ニッポン」とを読み分けています。1934年に放送用語に関する委員会が立ち上がり、第1回の議題が「ニッポン」と「ニホン」の読み方についてでした。
委員会には文部省や国語の研究者らが集まり、国号として使用する場合は「ニッポン」にすると決めました。外国語表記も「JAPAN」ではなく「NIPPON」とする案が示されましたが、正式決定はされませんでした。
さらに2009年には、政府が「統一する必要はない」としています。
アン:では、どっちかわからない、どっちでもいいの?
宮本:そうなります。
アン:アメリカでも、USAと言ったり、アメリカ合衆国と言ったりするから、そういう感じなのかな。でも、国名が2つあるなんて、アンちゃんは愕然とする。
宮本:実際、かなり曖昧に使われていて、固有名詞も両方使用されています。たとえば、東京にある日本橋はニホン橋ですが、大阪の地名の日本橋はニッポン橋です。日本大学はニホン大学ですが、日本体育大学はニッポン体育大学です。また、どちらでもよいとされる場合、NHKは次のように読んでいます。
【ニッポンと読む語】
日本(国号)・日本永代蔵・日本国・日本国民・日本賞・日本放送協会など
【ニホンと読む語】
日本画・日本海・日本海溝・日本海流・日本髪・日本酒・日本書紀・日本脳炎・日本料理など
【どちらも読む語】
日本一・日本記録・日本犬・日本三景・日本時間・日本男子・日本刀・日本晴れなど
アン:固有名詞はそれぞれ、覚えるしかないってことだ。難しいなぁ。
宮本:「ニホン」か「ニッポン」か。日本人もかなり感覚的に使い分けていますからね。でも、どちらでもいい場合は「ニホン」と発音されることが圧倒的に多いようです。「ニッポン」と発音する場面を数えてみると、そう多くないことがわかるでしょう。
アン:圧倒的に「ニホン」と読んでいるというわけだね。
宮本:言葉というのは、時代を超えて、省エネを目指す傾向があるのです。ニッポンという発音は破裂音でニホンよりも発音にエネルギーが必要ですね。そうすると、時代を経て、ニホンのほうが使われるようになっていくのは自然な流れとも言えます。
アン:なるほど! 省エネ! それは、若者たちが使う和製英語や略語にも言えるね。
宮本:その通りです。NHK放送文化研究所も、過去に何度か調査しています。『東京ふしぎ探検隊』(日経プレミアシリーズ)によれば、国の名前は「ニホン」がいいか、「ニッポン」がいいか尋ねたところ、最も古い1963年の調査では、ほとんど差がなかったそうです。ところが、1993年の調査では、「ニホン」が58%、「ニッポン」が39%。2003年の調査でも、「ニホン」61%、「ニッポン」37%とニホン優勢になったそうです。
1964年の東京オリンピックでは、日本選手のユニフォームの国名は「NIPPON」でした。今は「JAPAN」ですね。
アン:言葉の省エネが止まらない!(笑)。でも、どちらでも正解なら、どうして宮本さんは「ニッポン」と言うの?
宮本:NHKで国号としては「ニッポン」と決められていたことと、略語や省エネではなく、言葉を発するときには、エネルギーを使って正しく美しく話したいと思うからです。
アン:さすが、日本語の門番の宮本さん! アンちゃんは、超省エネの若者言葉もいっぱい使うけど、きちんと話す場面ではエネルギーをいっぱい使って「ニッポン」と言うことにする。ニッポンもニッポン語も大好きだ!
オリンピックを「五輪」と呼ぶようになったわけ
宮本:言葉を略すのは日本語の特徴でもありますね。特にカタカナ語は長いから、新聞など、文字制限がある原稿では書きづらかった。オリンピックを「五輪」と呼びますが、これは1964年の東京オリンピックがきっかけです。
アン:オリンピックの「オリン」と「ごりん」は音が似ているけど。
宮本:そうですね。実は、オリンピックが「五輪」と言われるようになったのは、当時の読売新聞の記者によるものでした。新聞の見出しに、6文字も使うのは長すぎる。何かいい略語はないかと考えたのがきっかけだったそうです。
アン:そうなんだ! 「オリンピック」と「五輪」、なんだか響きもあっていてしっくりくるね。
宮本:五つの輪がオリンピックのシンボルですから、漢字がそれを表わしていますし、当時その新聞記者は、宮本武蔵の「五輪書」の記事を読んでいたこともあり「これだ!」と思ったそうです。五輪という言葉は略語とはまた少し違いますが、短くする感性を日本人は持っているということでしょう。
アン:それは本当にそう思う。若い人たちと話しているととくに、略語ばかりで目が回りそうだよ!
宮本:今は、一般の人たちの間でも多くの言葉が省略されていますね。地名では、二子玉川を「にこたま」と呼び、さらに、字数制限があるSNSの普及で、長い言葉、呼びにくい言葉は、どんどん略されるようになりました。これは人間が、いかにエネルギーを使わず生きていくか。無意識で、それを実践していることのあらわれだと思うと、とても興味深いものです。
<本稿は『教えて! 宮本さん 日本人が無意識に使う日本語が不思議すぎる!』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
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【著者】
アン・クレシーニ
北九州市立大学准教授
宮本隆治(みやもと・りゅうじ)
元NHKアナウンサー
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