「感情に引きずられる判断」が意外と不的確でもない理由
大きなことにしろ小さなことにしろ、人生は判断の連続です。その決断が「感情的」だった場合、的確性に欠けるのではというイメージを持っている人は少なくないかもしれません。
しかし、意思決定をすべて「理性的」に行っていいかというと案外そうでもありません。脳神経外科医、菅原道仁さんの著書『すぐやる脳』から一部抜粋、再構成してお届けします。
「感情」と「理性」は対立する、はウソ⁉
歴史をさかのぼると、「感情」と「理性」は、しばしば対立項で語られてきました。相反し、拮抗(きっこう)するものとしてとらえる見方が主流でした。
たとえば、古代ギリシャの哲学者プラトンは、「感情」と「理性」の関係を「馬と御者(ぎょしゃ)」にたとえたことで知られています。「馬のような〝感情〟を、〝理性〟が御者としてコントロールしようとしている」。そのように位置づけたわけです。
現代の私たちも、プラトンのたとえには共感できるのではないでしょうか。
たとえば、仕事帰りにコンビニに立ち寄ったときのことを想像してみてください。
働いたあとなどで脳が疲れているときは、理性よりも感情のほうが優先されやすいものです。その結果、「体に悪そう」と感じていても、ついついスイーツなどを買ってしまいがち。
つまり、「脳が疲れている場合、理性よりも感情が優先される」ことになります。
これは、多くの実験で立証された傾向ですし、体感的にも納得いただけることでしょう。それほど感情の力は強いもの。
したがって、ヘルシーに過ごしたいときは「コンビニに寄っても、スナック菓子やスイーツのコーナーには近づかないようにしよう」、もしくは「コンビニではなく総菜屋に寄り道しよう」などと、行動を抜本的に変えることが重要です。それほど、感情が意思決定に及ぼす影響は大きいのです。
感情があるからこそ判断が理性的に?
「感情なんかに引きずられなければ、より的確な判断ができるのに」
そう痛感したことがある人もいるでしょう。
確かにそうかもしれません。
けれども人間から感情を排除して、サイボーグのようになれたからといって、的確な判断が瞬時にくだせるわけではありません。
ひとつ、示唆に富む事例をお話しさせてください。
高名な脳神経科学者、アントニオ・ダマシオ氏の患者、エリオット氏にまつわる、よく知られたエピソードです。エリートビジネスパーソンだったエリオット氏は、脳腫瘍の切除手術を受けることになります。その際、前頭葉と感情を結びつける「眼窩前頭皮質」(がんかぜんどうひしつ)という部分を切除されました。
すると手術後、エリオット氏は感情がまったくない人になってしまいました。
さらに驚くべきことに、「感情がない=論理的、合理的に決断できる」というわけではないことが判明しました。エリートビジネスパーソンだったはずのエリオット氏は、何ひとつ決断できない人になってしまったのです。
脳神経学の世界では、この事例から、
「感情が、理性的判断の基礎をつくっている」
という見方が定説となっています。
感情がないと、人は決断をするどころではなくなってしまうのです。
エリオット氏の事例を知ると、感情の大切さがおわかりいただけることでしょう。
決断上手になるためには、「感情を排除する」という方向ではなく、「感情を常にポジティブに保てるようにしておくこと」が大事なのです。
<本稿は『すぐやる脳』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by shutterstock
【著者】
菅原道仁(すがわら・みちひと)
脳神経外科医
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