43歳の彼女が「いくら休んでも休めた気がしない」本当の原因
夜なかなか寝付けない。朝起きたときに疲れが取れていない。それらによって気分が晴れない――。
睡眠になんらかの問題、悩みを抱えている人は少なくありません。眠りたくても眠れない理由とは? 43歳のメーガンさんの事例をもとに考察。『回復人 体中の細胞が疲れにつよくなる』よりお届けします。
「体内時計」を修復する
メーガンはぐっと涙をこらえた。43歳になる彼女は、いくら休んでも休めた気がしない。
「最後にぐっすり眠れたのがいつだったか、思い出せないくらい」と、最初のコーチング・セッションのときにメーガンは言った。
彼女はありとあらゆる「快眠のコツ」を試した。寝室の窓には遮光シェードをつけ、ベッドに入る1時間前にはスマホの画面から離れ、寝る直前20分は日記をつけたり、瞑想したり、ただ静かに座ってみたりする。
ところが、何一つとして効果がない。
毎朝5時45分に目覚まし時計が鳴ると、おそらく5時間ほどしか寝られなかったメーガンは、重い体をベッドから引きずり出す。3人の子どもたちのために使えるエネルギーも忍耐力もまったくない。頭はいつもぼんやりして、記憶力も満足に働かず、それでもつねに注意を怠らないようにしなければならない。
だがそうした数々の問題のせいで、弁護士補佐として働く彼女にとって、仕事はいっそうストレスだらけのつらいものに感じられた。夫との心のつながりも感じられなかったが、夫婦関係を修復するエネルギーも涸れ果てた状態だった。
「私のなかで、何かがものすごくおかしくなっている気がします。でも、それを直せる気がしないんです」とメーガンは言った。
「自然のリズム」が人体に深く影響する
多くの人が睡眠に問題を抱えている。
アメリカ睡眠医学会およびアメリカ睡眠学会によると、私たちには一晩につき7~8時間の睡眠が必要だという。それより少ない睡眠時間は健康に害を及ぼし、心血管や代謝、精神面での健康の悪化や、免疫機能と身体能力の低下、苦痛を引き起こすと言われている。さらに死亡リスクも増える。
だが、アメリカの成人の約30%が、6時間以上の睡眠を取れていない。つまり7500万人以上の成人が、十分な睡眠を取れていないことになる。また3人に1人が、寝つきが悪い、眠りが途切れる、眠っても疲れが取れない悩みを抱えている。
現代人は健康な睡眠を取るのが非常に難しくなっていて、アメリカ人の20%が少なくとも1種類の睡眠導入剤を服用しているという。
もちろん、みな眠りたくないわけではない。眠れないのだ。その原因は、体内時計の機能不全(いわゆる概日リズム調節障害)だ。
概日リズムは、健康で生き生きとした生活を楽しむための重要なカギとなる。近年、多くの研究が行われ、概日リズムがさまざまなものをコントロールする力をもつことがわかってきた。気分ややる気、体脂肪、代謝、ホルモンのリズム、神経伝達物質のバランス、細胞再生、睡眠の質、ミトコンドリアの健康──そのすべてが、エネルギーに大きな影響を及ぼすものばかりだ。
概日リズムを整えれば、次のような効果が得られる。
・深く途切れない睡眠(真夜中に目が覚めたり、寝つけなかったりしない)
・不眠症がなくなる
・穏やかな心
・気分の向上
・脳の機能の向上(頭がはっきりして、集中でき、創造性も上がる)
・心臓病や糖尿病、ガンのリスクが減る
・エネルギーがあふれ、1日中元気でいられる
私の相談者のうち、概日リズムが乱れている人の多くがほかの病気にも苦しんでいて、それらが疲労をいっそう悪化させている。
概日リズム調節障害は、現代の慢性疾患の原因としておそらく最も研究が進んでいる障害の1つだ。ある国際的な研究チームは、メタボリック・シンドローム(高血圧、高脂血症、高血糖、体脂肪過多を含むさまざまな症状群)の名称を「概日リズム・シンドローム」に変えることを提案しているほどだ。
また研究によると、最も一般的な健康問題のなかには、概日リズムの乱れと明らかにつながりのあるものも少なくないとわかっている。たとえば次のようなものだ。
・肥満
・2型糖尿病
・心血管疾患
・神経変性疾患
・精神障害
・慢性的な低悪性度の炎症
・酸化ストレス
・ミトコンドリア機能不全
・ガン
「太陽」「気温」「運動」「食事」があなたの時計を決める
概日リズムがなぜ乱れているかを理解するには、少し時間をさかのぼる必要がある。私たちの祖父母、あるいはもっと前の先祖が生きていた時代と現代とでは、世界はずいぶんと違っているように思えるかもしれないが、1つだけ変わらないことがある。24時間ごとに、日が昇り、沈み、ふたたび昇るというリズムだ。
現代生活のせいで、私たちは24時間の太陽の周期とのつながりを忘れているかもしれないが、生物としての私たちの体はそのことを忘れていない。日の出と日没は、ホルモンや神経、行動が織り成すシンフォニーを指揮し、私たちの代謝と食欲、ストレスレベル、病気になるリスク、加齢、睡眠と目覚めのサイクル、エネルギーレベルを左右する。
光と闇が移り変わる外の世界と、私たちの内にある生化学の世界とのあいだにあるつながりが、体内時計あるいは概日リズムと言われるものだ。概日リズムには次の2つの構成要素がある。
・脳の時計。これは視床下部の視交叉上核にあるマスタークロックで、環境からの外的信号を受け取り、ホルモンと神経伝達物質を通して体の反応を調整する。
・体の時計。これは組織や器官、脂肪細胞、消化管、筋肉組織内に存在する多数の時計で、細胞レベルで起きているプロセスを調整する。
私たちの脳と体に備わる時計は、一緒に働き、「エントレインメント(同調)」と呼ばれるプロセスを通して体内のしくみを外の世界と同期する。
腕時計の針を時間にあわせてセットするように、「同調因子(ツァイトゲーバー)」(ドイツ語で「時を与えるもの」の意)と呼ばれる外的・環境因子が、私たちの体内の生物学的時計をセット(つまり同調)する。
最も影響力のあるツァイトゲーバーは、光、気温、運動、食事などだ。
人間の「元々の設計」に近づく
このツァイトゲーバーは、それぞれ違う時計に影響を与える。
たとえば光は脳のマスタークロックに大きな影響を与えるが、肌のようなほかの時計にはまったく影響しない。同じように、食事は肝臓や膵(すい)臓といった消化器には強い影響力をもつが、マスタークロックにはそれほど影響しない。
それぞれ働きは違うが、脳の時計と体の時計はつねに連絡を取り合っていて、私たちの概日リズムをつくり出し、睡眠/覚醒サイクルとエネルギーレベルを決めるのだ。
実際、睡眠とエネルギーは、概日リズムによりつながった、1枚のコインの裏表のようなものだ。私たちの睡眠の質を決める最大の決定因子は概日リズムであり、どれほど深い眠りが得られたかによって、睡眠の量や質、どんな細胞再生プロセスが行われるか(あるいは行われないか)が決まる。
現代人が抱える最も大きな問題は、私たちの発する信号が、脳の時計と体の時計が同調することを前提として設計されているのに、現代社会はそういうふうにできていないということだ。
生物学的には、人の体は日の出・日没と同調するように──日の出とともに目覚め、日没とともに眠るように──設計されている。ほぼ1日中室内にこもり、日が沈んでからもさまざまな人工の光を見つめるようには設計されていないのだ。
日がまだ高いうちに食事をし、暗くなったら食事をやめてファスティング(断食)・サイクルに入り、夜中にがっつりした夕食を食べたりおやつを摂ったりしないのが、私たちのもともとの設計だ。
自然の24時間の昼夜サイクルから切り離されて暮らすと、脳の時計と体の時計に間違った信号が送られ、時計の設定がズレて「概日リズム調節障害」が起こる。
概日リズムの乱れは睡眠の質の低下につながり、体はいつ活動を終えて休息モードに入ればいいのか、いつエネルギーを補充し、警戒モードをオンにして目覚めればいいのかわからなくなる。
さらに、睡眠の質の低下もまた概日リズムの乱れにつながるため、あっという間に悪循環が完成。両方がお互いの足をひっぱりあいながら、さらなる疲労と苦しみのどん底へと引きずり込んでいく。
<本稿は『回復人 体中の細胞が疲れにつよくなる』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock
【著者】
アリ・ウィッテン Ari Whitten
ライフスタイルとサプリメントを総合的に考えるシステム「エナジー・ブループリント」の創始者
アレックス・リーフ Alex Leaf(理学修士)
栄養学の専門家および研究者、作家、学者
【訳者】
加藤輝美(かとう・てるみ)
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