骨が強いと自負した50代彼女が骨粗しょう症と診断された意外な理由
骨の量(骨密度)が減少し、骨が脆くなることで骨折しやすくなる「骨粗しょう症」。特に閉経後の女性に多く見られ、寝たきりの原因となる大腿骨頸部骨折や、日常生活に大きな支障をきたす脊椎圧迫骨折のリスクを高めます。日本人の中で1000万人を超える患者がいるとされます。
これまで骨粗しょう症の診断には主に骨密度の測定が用いられてきました。「定期的に検査を受けているから大丈夫」「骨密度が正常値だから安心」と思っている方も多いのではないでしょうか。
しかし、最新の研究では、骨密度の測定だけでは見えてこない重要な要素があることが分かってきました。手やかかとで骨密度を測っているケースにも注意が必要です。「骨粗しょう症」をはじめ骨代謝の診断・研究・治療の世界的権威が、100年健康に生きるための骨の真実を明かした『100年骨』よりお届けします。
自分の「骨粗しょう症タイプ」を知ろう
従来、骨粗しょう症の治療では「50%の壁」という謎の限界が存在しました。薬の投与によって骨密度が改善したにもかかわらず新たな骨折を予防できなかった患者さんが半数近くもいて、整形外科医は「50%の壁」と呼び、突破する術を追い求めていました。
どうして、こんな壁があったのか──何度もお伝えしてきましたが、骨密度だけではなく、骨質も大事であること。人間にさまざまなタイプの人がいるように、骨粗しょう症にもさまざまなタイプがあり、それぞれに合う治療をする必要があったのです。
そこで私たち慈恵医大のチームは、骨の量や密度に加え、骨の質にも着目して骨粗しょう症を3タイプに分類しました。
それが、「骨質劣化型」「低骨密度型」「低骨密度+骨質劣化型」の3タイプです。
「骨質劣化型」……骨密度が高く骨質が悪い
「低骨密度型」……骨密度が低く骨質がよい
「低骨密度+骨質劣化型」……骨密度・骨質ともに低い
それぞれの患者さんの比率を調べると3:5:2で、骨質がかかわる骨粗しょう症は、なんと全体の5割にもおよぶことが明らかになりました。
骨密度だけが問題の人は半数しかいないのですが、そこにだけ着目して治療しても半数しか治せないのは自明の理。「50%の壁」の原因は、こんなところにあったのです。
50%の壁を越えて、100%の患者さんの骨折を予防するには、第一に、自分の骨の状態がどのタイプにあたるのかを検査で見極めることが大切です。ただし、一般に「骨粗しょう症検査」と言われているものでも信頼性には差があります。
なぜ? これまで正常だったのに「いきなり骨粗しょう症と診断」
以前、こんな患者さんがおられました。
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埼玉県在住のタカコさん(50代)は、10代の頃、過度なダイエットから生理が止まってしまったことがありました。反省し、健康に気を付けるようになって生理が再開。結婚して出産した後も気を抜かず、30代の頃から健診での骨密度検査も、スパ施設の骨密度測定も進んで受けていました。
その結果はいつも「正常」。自信満々だったタカコさん。慈恵医大の人間ドックに日本初の「骨ドック」ができたと聞き、「いい骨ですねと褒められるかも」と想像し、受けてみました。
ところが結果はまさかの「G判定(要治療)」。骨密度は若年成人と比較して69%しかなく、「いつのまにか骨折」の形跡はなかったものの、骨粗しょう症状態であることがわかりました。
さっそく慈恵医大の「骨粗しょう症外来」を受診し、現在治療進行中ですが、「今まで一度も骨密度が低いなんて言われたことがなかったのに、どうして突然骨粗しょう症ということになってしまうの」と納得できないタカコさんは、疑問を担当医にぶつけました。
医師は言いました。
「あなたが受けたのは、手やかかとで測る簡易的な検査で、精度が高くない。それに骨密度は、からだの部位によって差があります。やはり骨粗しょう症の検査は専門外来で受けていただくのがいいのです」
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担当医の回答に補足すると、そもそも手やかかとで測る検査は、骨粗しょう症の診断ガイドラインでは推奨されていません。
骨密度はからだの部位によって差があるため、まずは大腿骨と腰椎の骨密度が最優先。測れなかった場合に手を測り、最も低い部位の値を採用することになっています。
かかとの検査は、骨のカルシウム密度を検査しておらず、本来は骨密度検査とは呼べないもの。レントゲン検査と違って被曝がないので、採用しているクリニックや健診センターは多いですが、診断には採用されないのです。
それにかかとは、体重や運動の影響を強く受けているため、検査部位としても不適格です。かかとで測って高い数値が出ても腰椎や大腿骨では低い、逆にかかとは低いけれど腰椎や大腿骨は全然問題がない人がたくさんいます。
かかとの検査が容認されているのは、骨粗しょう症検査のあまりにも低い受診率を少しでも向上させるため。簡単な検査で動機付けしようということなのだと思います。
<本稿は『100年骨』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
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【著者】
斎藤 充(さいとう・みつる)
東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授。同大附属病院整形外科・診療部長。1992年、東京慈恵会医科大学卒。2020年より現職。日本骨代謝学会理事、日本骨粗鬆症学会理事、日本人工関節学会理事などを兼務。骨代謝の診断・治療・研究で国内外を牽引する。