誰も逆らえない上司に「ノー」を突きつけた僕の身に起きたこと
仕事でもプライベートでも何かを頼まれたら断りにくい相手。断ることで人間関係が悪くなると恐れてしまうかもしれません。
一方、断ることで人間関係が厳選され結果的によくなることがあります。『なぜか印象がよくなるすごい断り方』よりお届けします。
断ることで、心の関係性が深まる
私は、「断れない関係」など、ほんとうの人間関係ではないと思っています。それは、ただの主従関係です。上司と部下というような上下の関係だとしても、断れる関係であるべきですし、コミュニケーション能力の高い人ほど、ちゃんと断れる関係を築いています。恋人や夫婦の関係ならなおさらです。
もし「なかなか断れない」と感じているなら、ほんとうにちゃんとコミュニケーションをとれているか疑うべきです。
「断れない」と感じていた相手でも、勇気を出して断ることでより関係が深まることがあります。
このことを実感したのは、ブックオフを退職し、都内の日本料理店で働き始めた頃のことでした。
その店は表に看板を出しておらず、知る人ぞ知る隠れた名店。料理も一級ですが、それ以上に接客の素晴らしさが群を抜いていると評判の店で、常連客の中には著名人も多くいました。
両親が京都で喫茶店を営んでいたこともあり、当時は私もいつかは飲食店をやってみたいと思っていました。そんな思いから、修業の場としてこの店を選んだのです。
その店の店長は、オーナーであり、料理長も兼ねていました。私たち従業員は彼のことを「マスター」と呼んでいました。
マスターは、料理にも接客にも、とことんこだわる人でした。
とくに掃除に関してはホールやトイレはもちろん、換気扇の裏の部分などお客様の目に触れないようなところまで、とにかく店の隅々まで徹底的に気を配る人でした。
私はそんなマスターのこだわりと姿勢を尊敬していましたが、ひとつだけ気に入らない点がありました。
それは、開店前のスタッフミーティングで、スタッフに対してとにかく怒鳴り散らすこと。「観葉植物の葉にホコリが溜まっていた」「君のダスターの畳み方はなっていない」など、名指しで一人ひとり怒鳴るのです。間違ったことを言っているわけではありませんでした。
とはいえ、その言い方があまりに横暴なためスタッフは凹みます。開店直前、接客がこれから始まるというときに怒られるというのは、何とも気分のよくないものでした。
ある日のミーティングで、いつもと同じようにマスターがスタッフ一人ひとりを怒鳴り始めました。私は、思い切ってマスターに言ったのです。
「すみません。あのですね、これからお客様を迎えるというときに、そんなふうにあまりに怒鳴られると、僕らの気持ちはとてもブルーになります。そうなると、心からの笑顔でお客様を迎えられなくなります。言っていただくのはいいのですが、オープン前はやめてもらえませんか」
言った瞬間にマスターは「何だと!」と血相を変えました。しかし私は続けました。
「こんなふうにマスターと喧嘩した状態では気持ちのよい接客ができなくなりますから、続きは店が終わってから言ってください」
マスターに「ノー」を突きつけたのです。
何だか堂々と言ったように思われるかもしれませんが、私は内心ヒヤヒヤでした。そして結局その日は、店が終わった後もマスターから声を掛けられることはなかったのです。
「ノー」が関係を深めるキッカケになる
ところが翌日、いつもと同じように開店前のミーティングが始まると、マスターがスタッフに向かっていきなり頭を下げました。そして言ったのです。
「昨日1日いろいろ考えたけれど、津田君の言う通りだと思う。申し訳なかった」と。そして「これからミーティングは津田君に仕切ってもらう」とも言いました。
これをきっかけに私はホールの仕切り役になりました。また、マスターと私は腹を割った話ができるようになり、スタッフの立場・目線からしか見えない店の問題点などもどんどん言えるようになりました。そして気がつけば、店長を任されるようになっていました。
後で聞いた話では、それまで多くの従業員が働いてきたこの店で、私は初めてマスターに反抗した従業員だったそうです。
でも「ノー」と言うことで、マスターとの関係は深まりました。マスターの料理と接客に対する情熱、自ら汗をかき、とことん働く姿勢などを私は尊敬していました。だからマスターとの絆が深まりとても嬉しかったのです。
断ることで壊れてしまう人間関係だってあるでしょう。でもこのように、「ノー」と言うことが関係性をより深める場合もあるのです。
「ノー」と言った瞬間はたしかに気まずくなるかもしれません。
でもそもそも、言いたい「ノー」が言えない関係なんて、とても薄っぺらいものだと思いませんか。
断ると売上が増える!?
「すべてのお客様に平等に相手をすると、顧客不満足度が上がるので気をつけてください」
「お客様の言うことを何でも聞くのではなく、できないことはできない、ダメなものはダメとハッキリ断ってください。そういう店の方が、よいお客様がたくさん来るようになり、結果的には業績が上がります」
私は研修でいつもこう話します。
訳のわからないことを言ったり、わがままを言うお客様の要望をいちいち聞いていたら、ほんとうに大切なお客様に対応できなくなります。
自分でビジネスをしている人や、フリーランスの人の中には「仕事がなくなるのが怖くて断れない」という悩みをもつ人が多くいますが、私はやりたくない仕事は断るようにすすめています。
私自身、仕事でも積極的に断ります。
たとえば予算消化のためだけに企業研修を使おうとする担当者です。
「これとこれとこれを1日でササッとやってくれませんか?」などと、形だけの研修を依頼してくるのです。まるで「払うものは払うのだから、つべこべ言わずにこっちの言う通りにやってくれ」と言わんばかりの態度です。
でもそんな研修を実施しても、社員のためにならないことは目に見えています。そもそも私のモチベーションも上がりません。ですからこういう場合は、たとえ高額なお金を積まれてもお断りしています。
気の乗らないお客様を断ったことで、ほんとうに大切にしたいお客様のために時間を使うことができます。その時間に全エネルギーを注ぐのです。
すると、「前回の研修はとてもよかったので、次回は全社員を対象にやってくれませんか」「新入社員向けとして毎年お願いできませんか」などというお話をいただける。結果、断った金額以上の売上が発生するのです。
<本稿は『なぜか印象がよくなるすごい断り方』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock
【著者】
津田卓也
株式会社キューブルーツ代表取締役
日本トップクラスのクレーム研修講師
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