「プチうつ」認定の彼女が自分を「ダメだ」と責め続けた1週間の記録
40代女性ライター・高木が心理カウンセラーの下園壮太先生に心の悩みをぶつけた『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』。
前回(全3回)までの下園先生との対話で「がんばりすぎる傾向が強い」と知った高木には宿題が出されました。「自分がどんなときに、どんなことで“自分を責めているか”」を観察。今回(第4回)はその報告から始まります。
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自然に触れてリフレッシュが逆効果!?
下園:高木さん、こんにちは。今回もよろしくお願いします。
高木:先生! 「気分転換に自然に触れるといい」「自然に触れるだけでストレスが軽減する」ってよく言うじゃないですか。あれって嘘ですか?
下園:突然どうしたんですか? でも、とてもいい質問ですよ。世間一般によく言われる「メンタルにいいこと」が効く場合と効かない場合があるんです。
高木:え、そうなんですか!
下園:そうなんですよ。みなさん、よく勘違いされます。運動することや自然に触れることがメンタルにいいと思って、外に出て、落ち込んで帰ってくるパターンはよくあります。
高木:まさしくそのパターンです。先週の宿題ですが自分にダメ出ししまくりでした。
下園:ということは宿題をやってきてくださったんですね、ありがとうございます。〝「今の自分のメンタルの状態」を理解してもらうための宿題でもありました。自分がどんなことで〝自分を責めているか〟この1週間注目してもらいました。読者のみなさんもこの1週間を振り返りながら読んでもらえればと思います。でも高木さん、なんかお疲れですね。今週も相変わらず、お仕事がお忙しかったかな。
高木:はい、仕事が立て込んでいるところに、さらに急な仕事が舞い込んでしまって。だから、ほんとうはがんばらなきゃいけない時期なんですけれど、なかなか思うようにがんばれなくて。もう自己嫌悪の1週間でした。
下園:このご時世、忙しいのは大変結構なことなんですけれどもね、疲れている方にとって、忙しさってものは予想以上に負担になりますから、ほんとうはよくないんですよ。
高木:はい。いっぱいいっぱい考えて、なんだか「闇が深くなった」っていう表現がぴったりの1週間でした。
下園:「闇」ですか。それは大変だ。まずは、この1週間のことを話してみてください。話したくないことがあれば、話さなくてもいいですよ。話してラクになりそうだと思ったら、ぶっちゃけてみてください。話すだけでも心がラクになりますから。
自分のことをどんどん「ダメだなあ」と感じるように
高木:ありがとうございます。実はですね、自分がどんなダメ出しをしているか、を続けるほど苦しくなってしまったんです。なぜかというと、毎日自分の「ダメだなあ」と感じるところばかりが気になりすぎて、「いろんなことができない自分」がイヤになって。
下園:確かに、先週課題をお伝えしたときは、「自分が無意識のうちにダメ出ししたくなるポイント」を観察してみてくださいとお伝えしました。でも、「ダメだと感じることを観察し始めたら、苦しくなりすぎてしまった」という感じでしょうか。
高木:はい。でも1日目は、「ダメだ」と感じることは何もなかったんです。次の日からいろんな出来事が重なってしまって。弱りっぷりに、自分でも驚いてしまいました。時間の流れに沿って、お話を聞いていただいてもいいですか?
下園:もちろんです。無理のない範囲で、ゆっくり聞かせてください。
下園:変化を感じたのは2日目からです。自分のことをどんどん「ダメだなあ」と感じるようになってしまいました。まず朝、起きてから体がなかなか動かず、「ボーッと過ごしてしまったこと」をダメだなあと思いました。
実は1日目に、ちょっと衝動的に、流されるようにテレビを買ってしまったんです。「やっぱりいらない買い物だったなあ」という後悔が湧き上がってきて、クヨクヨしてしまったんですが、そんな「クヨクヨしている自分がダメだなあ」と責め続けてしまいました。それに加えて、「仕事が増えているのに、コンスタントにアウトプットができていない自分がダメだなあ」と。
下園:そうだったのですね。ボーッと過ごしたことや、いらないものを買ってしまったかもしれないことや、コンスタントに仕事をしていないことに対して、ダメ出しをしたんですね。それだけ客観的に観察できれば立派なものですよ。では3日目は?
高木:3日目も散々でした。なんとなく買ったテレビを自宅に配送してもらい、設置してもらったんですが、いざひとりになって録画をしようとすると、設定や操作がうまくできなかったんです。
下園:ああ、わかりますよ。ちょっとややこしいですし、新しい機種ならなおさら手間ですよね。説明書と首っ引きでやらなきゃいけないやつですね。
高木:わかっていただけます? うれしい。私もトリセツを見ながら一生懸命、時間をかけて格闘したんですけれど、結局できなかったんです。
下園:おやまあ。
高木:それだけなんですが、無性に悲しくなって、涙が出てしまいました。以前、スマホを買い替えたとき、データをうまく移行できなくて残念な思いをしたことがあるんですが、そのときと同じ気持ちが出てきた、というか。それが引き金になって、もうすべてがイヤになりました。それで仕方がないのでワインに逃げて、酔っぱらって寝てしまいました。
下園:そうでしたか。大変な1日でしたね。で、次の日は?
高木:はい。4日目は「私って、やっぱりダメだなあ」というしんどさの中で、なんとか1日をやり過ごしました。
下園:うん、うん。わかりますよ。
5日目のトレッキングから、歯車が狂い出した
高木:そして5日目。ちょっとリフレッシュしたくて、仲間とトレッキングに行きました。
下園:ええっ、ちょっと待ってください。それは急な展開じゃありませんか?
高木:下園先生もそう思われます? 私も、「ちょっと急に決めすぎた」とは思ったんですが、最近「体力をつけたいな」と思い始めていたので、エイヤッと気合いを入れて外に出ることにしたんです。だって、最近ずーっとデスクワークしかしていなかったので、まずいと思いまして。それにトレッキングは数年前から楽しんでいて、1年ほど前にも山に出かけているんです。外を軽く歩くのは、弱っている今の自分にとって、最高のリフレッシュになりそうな気がして。
下園:それで、大丈夫でしたか? 歩き通せました? 何か変化はありませんでしたか?
高木:それがですね。最後まで歩けたものの、帰宅後、急に自己嫌悪が始まってしまって。「仕事が山積みなのに、なぜ遊びに行ってしまったんだ」と、また自分がイヤになりました。
下園:そうですか。次の日はどうでした?
高木:それが、大変だったんです! トレッキングの翌日の6日目は、なんと片道3時間もかかるところまで、取材で出かけることになっていたんですが。その移動だけで疲れ果ててしまいました。おそらく、トレッキングの疲れが残っていたんだと思います。帰宅後は、もう倒れるように寝てしまいました。トレッキングに行ったことでリフレッシュになるどころか、仕事の能率が余計に悪くなったんです。これには、ほんとうに参りました。それでお決まりの自己嫌悪、というわけです。
下園:大変でしたね。「無事に家に帰ってこられただけでも、よかった」、そう考えるといいかもしれません。
高木:なるほど、そうですね。
同窓生への嫉妬と自責感
下園:で、次の7日目は?
高木:はい、「自分のダメなところ」を軽い気持ちで観察するうちに、自分の醜い嫉妬の感情に気付いてしまったんです。それで決定的に、深い闇に落ちてしまいました。
下園:どういうことですか。
高木:トレッキングで、久しぶりに高校のときの仲のよかった同窓生に再会したんです。彼女は現在女医さんで、開業医として活躍しています。そして、同じく医者で開業医として働いているご主人と、大学生や高校生のお子さんたちと、幸せな家庭を築いているんです。
下園:ほう。
高木:つまり、彼女は私と同じ年齢なのに、私にないものをすべて持っているんです。「医師」という社会的地位、優しくて理解のあるパートナー、そして優秀な子どもたち。
下園:まあ、人それぞれですから。
高木:そうなんですが、あまりに自分が情けなくて。だって、私の場合、自分の存在理由と言えるものは「仕事」しかありません。でも「仕事」に没頭できる環境にあるくせに、その1週間は調子が悪くて、まったくはかどらなかったわけです。職業人としてだけでなく、妻としても母としてもがんばっているスーパーマンのような彼女に比べたら、能力が低すぎる。そう考え始めると「すべてを持っている彼女が羨ましい」という嫉妬と、「私はなんてダメなんだろう」という自責感のダブルパンチで、深い闇に落ちてしまいました。
下園:気持ちはわかります。人間って弱っているときほど、他人と比べやすいんです。
高木:同じ年齢の同性ですから、特に気になります。そのときは、あまりに落ち込みすぎて、「私、死にたくなってはいないかな」と、確認したほどです。
下園:そうでしたか。それはつらかったですね。そういうときは、対処法があるんですが。まあ、話を最後まで聞かせてください。
高木:最後の8日目は、体中が痛くなりました。トレッキングの影響で、時間を置いて筋肉痛が出てきた感じです。それがけっこうハードな痛みで、また仕事ができなくなってしまい、横になってゴロゴロしていました。その日の反省点は「また、仕事もせずに怠けてしまった」という点です。
下園:詳しくありがとうございました、よくわかりました。自分自身をしっかり観察できていますよ。総括すると、1日目は「ダメなところ」なんて気にならなかったのに、2日目から「ダメ出しの嵐」になり、自責感が強くなっていったという感じですね?
高木:はい。テレビを買ったことや、操作がうまくいかなかったことが引き金になって、急に「自分責めモード」に切り替わったという感じです。そして、リフレッシュのつもりで出かけたトレッキングで、なぜか疲れが加速して、ひいては仲のよかった同窓生を羨んで、ひとりで闇に落ちてしまったと。私は先週、いったい何をしていたんでしょうか(笑)。
下園:高木さん、よく話してくださいました。お話を伺って、よくわかりました。単刀直入に、ズバリ言っていいですか。
高木:はい。
突然の「プチうつ」認定
下園:明るくハキハキとお話ししてくれるので、前回の対談だけでは気付かなかったのですが今のお話を聞くと、高木さんは、〝プチうつ〟状態だと思いますよ。
高木:ええーっ、そんなはずはないですよ。確かに昨年コロナで自粛して家からほとんど出なかったときは、うつっぽいかな、と思ったことはありましたが。
下園:うん、どうもそのうつっぽさから完全に抜け出せてないような気がしますよ。そんな状態の中で先週提示した「自責」の観察課題は高木さんにとっても大変な課題だったと思います。ごめんなさいね。ただ、今の高木さんの苦しい状態を改善するには何らかの対処をしたほうがよいです。
高木:え、対処ですか? 寝耳に水です。私、うつになってる場合じゃないんです。納品しなきゃいけない仕事が、山ほど。いやあ、どうすればいいんでしょうか。自分が「うつ」だと認めたくない、というか。薬とか飲まないといけないんでしょうか?
下園:私は、医者ではないので、薬を出したりはしません。それに高木さんは、深刻なうつではなく、「プチうつ」の状態ですので、イヤなら薬を飲む必要はないでしょう。ただ、このまま放っておいても改善しません。何らかの対処をしたほうがいいレベルだと思ってください。
高木:対処が必要なレベルですか。
(さて、どのような対処が必要なのでしょうか? この続きは後日公開します)
<本稿はとにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
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【著者】
下園壮太(しもぞの・そうた)
NPO法人メンタルレスキュー協会理事長。元・陸上自衛隊衛生学校心理教官