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記憶力に自信がない人に知ってほしい「AI時代の覚えない記憶術」の真髄

 物忘れ、うっかりミス、覚えられない……。

 記憶力に自信がないと考えている人は少なくありません。一方で、必死に暗記して、がむしゃらに記憶する必要など全くない「記憶術」が存在します。そして、AI時代のいま、記憶力の定義も変わってきています。

 脳の仕組みを研究した精神科医・樺沢紫苑さんがAI時代の新しい記憶術を伝授した『記憶脳』(新版・覚えない記憶術)より冒頭の試し読みをお届けします。

『記憶脳』 サンマーク出版
『記憶脳』

※本書は、2016年1月に小社より刊行された『覚えない記憶術』を加筆・再編集したものです。


新版に寄せて

「AI時代に記憶力なんか必要ない」という大ウソ


「わからなければ、ネットで調べればいい」
「スマホがあれば、細かい数字などいちいち記憶しなくてもいい」「ChatGPTに聞けば何でもわかる」
「AI時代に、記憶力なんて必要ない」

 もし、そう思うとしたら、あなたは「記憶力」の本当の仕組みをご存じないのかもしれません。

 インターネット時代、AI時代では、スマホ1台あれば、いつでも必要な情報を引き出すことができます。例えば、統計の数字を1つ1つ丸暗記する必要はありません。

 しかし、どんな検索キーワードを使えば、瞬時に検索されるのか、情報を引き出せるかというスキルがなければ、ネット上に蓄積された膨大な情報から必要な情報にアクセスできません。単なる宝の持ち腐れとなります。

 ほとんどの人は、「記憶」というとき、脳に情報を保存すること、記憶を「保持」することしか考えませんが、学習科学的には、記憶には3つのプロセスがあります。

「記銘(コード化)」
「保持(貯蔵)」
「想起(検索)」

 記憶の「入口」「保持」「出口」と言うとわかりやすいかもしれません。

 真ん中の記憶の「保持(貯蔵)」は、いまやデジタルやネットで代用され、パソコンやスマホなどのデジタル機器、あるいはネットのクラウド上に情報を保存できるようになりました。ChatGPTの登場で、インターネット上に蓄えられた「集合知」を、自分の記憶のようにすぐに引き出すこともできます。それは凄いことで、記憶できる情報の総量は膨大となり、人間の脳をはるかに凌駕しています。

 しかし、記憶を「保持(貯蔵)」することは記憶の1パートにすぎません。

 記憶の「入口」と「出口」の精度と質はどうでしょうか。個人の情報や記録といったものは、パソコンやスマホに情報を「入力」しておかないと、後でアクセスすることはできません。入力に膨大な時間がかかったり、どこに情報を保存したかわからなくなってしまっては、むしろ不便です。

 あるいは、ネットで検索する場合も、「検索が上手な人」と「検索が下手な人」がいます。1つの情報に到達するのに、30秒でできる人と、10分かかる人がいますし、30分かかっても、必要な情報に到達できない人もいます。

 最近では人工知能、ChatGPTに適切な質問をなげれば、たちまちに「最適解」を返してくれます。しかし、こんな便利なサービスがあるというのに、活用できている人は非常に少ない。つまり、「記憶の出口」である「想起(検索)」のスキルを磨かないと、全体としての「記憶力」はアップしないのです。

記憶の「入口」と「出口」を鍛えれば記憶ポテンシャルは無限化する

 今、ここにスマホがあります。「入力すること」と、「出てきた情報を読むこと」は、間違いなく人間の仕事です。

「情報の保持」は、デジタル、インターネット、AIのおかげで、ほぼ無限の情報が得られるというのに、「入口」と「出口」の人間パートの効率が悪ければ、どんなに素晴らしい情報も効率的に活用できません。10億円の銀行預金を持っているのに、ATMから1日1000円しか引き出せないようなものです。

 この、「入口」と「出口」を強化すると、記憶力は「無限に」そのポテンシャルを高めることができます。

 インプットとアウトプットを上手に回して、人間の脳とデシタル脳を一体化させた「記憶脳」を手に入れることができれば、仕事や学びの効率は、10倍、いや100倍以上も変わってくるでしょう。

 一昔前の記憶力の定義は、「どれだけたくさんのことを覚えられるか」でしたが、これが大きく変わりました。

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【著者】
樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医、作家