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野口悠紀雄「ChatGPT恐れるに足らず、を改めた理由」

 ChatGPTなどの生成AIがビジネスに取り入れられ始め、私たちの働き方が大きく変わりそうです。全く新しい技術のため、どのような変化が起こるかは正確に見通せないものの、産業革命に匹敵、あるいはそれ以上の大きな変化を世界にもたらす可能性があります。

 ミドル以上の世代、特に高齢者にとっては戦々恐々とする事態かもしれません。私たちは生成AIの時代にどう備えたらいいでしょうか。日本経済を観測し続け、大ベストセラー『「超」勉強法』をはじめ、独自の勉強法を編み出してきた経済学の大家、野口悠紀雄さんが提案する豊かな暮らしのための「学び方」を説いた『83歳、いま何より勉強が楽しい』よりお届けします。

『83歳、いま何より勉強が楽しい』(サンマーク出版) 野口悠紀雄
『83歳、いま何より勉強が楽しい』


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AIにはできないことが人間の役割

 生成AIの出現は高齢者の勉強という問題に関しても大きな影響を与えます。

 多くの人が、「これから生成AIの時代になるから、それをどうしたらうまく使えるようになるかを学ばなければいけない」と考えています。しかし、この考えは間違いです。

 なぜなら、生成AIとは、われわれが日常的に話している言葉でコンピュータを操作できることを意味するからです。つまり、コンピュータの使い方を勉強しなくても、多くの人が普通のこととしてコンピュータを操れるようになるのです。したがって、その時代において必要なのは、コンピュータができないことをすることです。これが最も重要な点です。

 ChatGPTはホワイトカラーの仕事を代替します。しかし、すべての仕事を代替できるわけではありません。特に重要なのは、相手の気持ちを思いやったり、共感したりすることです。

 これは、高齢者が長い人生経験の中から、若い人たちよりも適切に行うことができる分野です。

 例えば、教師の役割を考えてみましょう。知識を教える役割は、ChatGPTが人間より効率的にやってくれるでしょう。したがって、生徒や学生の人格形成が教師の最大の役割であると考えられるようになるでしょう。

 子供だけではなく孫まで育てた経験があるというような人こそが最適だと考えられるようになる事態は、十分にありえます。そうなれば、小中学校の先生については、定年制を見直して、定年を引き上げると言うことになるかもしれません。

 一般的な知識を教えるのは生成AIの役割になり、人間は個別の体験に応じた知識や経験を伝えていく。生成AIには伝えられないことを伝えるのが人間の教師の役割だ、と言うことになるかもしれません。

 これは学校制度の中だけではなく、例えば地域の集まりにおいても、そうした要請が高まるでしょう。さまざまな経験を経てきた高齢者は、いろいろな集まりで引っ張りだこになるという事態が十分に考えられます。

高齢者は生成AIを無視したり軽視したりしてはならない

 このような観点から言えば、ChatGPTの時代は、高齢者に比較的有利な社会になると考えることができます。

 ただし、ChatGPTにできないことを高齢者はうまくできると言いましたが、それは、高齢者がChatGPTに無関心でいてよいということではありません。全く逆であって、ChatGPTを使うことを通じて、ChatGPTに何ができて何ができないかを正しく把握することが必要です。その見分けができる高齢者が、最も強い存在になることができるのです。

 そして、テレビ会議などを利用して、どんな遠くの人との集まりにも自由に出られるようになれば、仮に身体の自由が利かなくなったとしても、人と人とのコンタクトを失わずに行動を続けることができます。デジタル技術は、人間と人間との交流を維持し、社会的な活動をいつまでも続けていくために必要な技術です。

 ChatGPTは新しい技術であるために、その利用可能性が具体的にどのようなものであるかを、まだはっきりとは識別することができないのですが、上に述べたような方向に進んでいくのは、ほぼ確実に予測されるところです。こうした変化に備えて、高齢者も、そして高齢者の予備軍も、新しい時代に備えた行動を今すぐに開始することが必要です。

AIが文章を書く

 アメリカのOpenAIというベンチャー企業が作ったGPTによる文章作成は、しばらく前から、ウェブで普通の人が使えるようになっていました。

 これに対して、当然、私は危機感を持っていました。文章を書くという仕事をAIに取られるのではないかという危機感を持っていたのです。

 実際、絵を描くグラフィックの分野では、すでにそれが起こっています。2022年の夏頃から、非常に急速に、AIが絵を描いてくれるようになってきています。だから、アーティストは非常に強い危機感を持っていると思います。

 そこで私は数年前から、GPTによる文章作成アプリを幾つか試しに使ってみました。けれども、22年の夏ごろまでの段階では、まったく役に立ちませんでした。GPT3・5は、ほとんど役に立たなかったのです。ほとんど意味のないような文章を吐き出してくる。

 だから、それが何らかの用に役に立つというようなことは、およそ考えられませんでした。役に立つのは、10年以上先のことだろうとたかをくくっていました。文章はまだ大丈夫と思っていたのです。

ChatGPTやBingが登場

 ところが、2022年の11月に、ChatGPTが発表されました。これは、それまでのものとは画期的に違うものでした。

 ChatGPTは、人間の指示に従って文章を出力します。この文章は、知的な人が話している文章とまったく見分けがつきません。ですから、これで対話をしていると、知的な人間と対話をしているような錯覚に陥ります。多くの人はここで仰天してしまいます。

 私もそれを早速確かめたのですが、答えはまったくの間違いでした。それを見て、私は、ChatGPT、恐れるに足らず、と思ってしまいました。

 ところが、2023年2月初めに、Microsoftがそれまでの検索エンジンBingにこの機能を搭載しました。これも私は早速確かめました。確かめたのは同じ質問です。すると、驚くべきことにBingは正しい答えを出しました。これまでの技術とはまったく違うものが現れた、これは大変なことが起こったと思ったのです。

 GoogleとMicrosoftが、いま壮絶な争いをしています。これまでは、検索のキーワードを入れると、候補のサイトを示してくれるだけでした。ところが、質問に対して、直接に答えてくれるようになった。

 文章は、人間の基本的なコミュニケーションの手段であるし、記録を残す基本的な手段です。人間は物を考えるときに言語で考えています。つまり、言語は、人類にとって最も基本的なものです。この技術にうまく適応できなければ職を奪われる、没落する、うまく適応できたら成長できる。こういうことが現実の課題になったのです。

 世界がひっくり返るかもしれないような大変化が起きています。いったいどうなるのか。最初に方向感覚がなくなって狼狽してしまう。いったい自分の仕事はどうなるのか。急に見極めがつかなくなったというのが実感です。

AIは「ハルシネーション」で間違う

 ただ、しばらくやっていると、Bingも間違えることが分かりました。時々、甚だしい間違いをする。事実の誤りがあります。それだけではありません。数学の誤りもしますし、論理の誤りもします。これは、ハルシネーション(幻覚)と呼ばれる現象です。ですから、最初の驚愕から冷める段階が来る。

 しかし、生成AIが非常に高い能力を持っていることも事実なのです。「このデータはどこにありますか」と聞くと、例えば、「財務省のサイトのここにあります」と教えてくれる。だから、どうやって使いこなせるか、それが問題になったのです。どういう用途に使えるのか。少なくとも、今の段階で使える用途は何か。使いようによっては非常に仕事の効率を高めることができるだろうと期待されるわけです。

<本稿は『83歳、いま何より勉強が楽しい』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)


【著者】
野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
1940年、東京に生まれる。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専攻は日本経済論。経済学者としての著作のほか、大ベストセラーとなった『「超」整理法』『「超」勉強法』シリーズをはじめ、学びについての著作も多数。近著に『「超」創造法』(幻冬舎新書)、『生成AI革命』(日経BP)など。

『83歳、いま何より勉強が楽しい』(サンマーク出版) 野口悠紀雄

Photo by SHutterstock

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