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引き抜かれてきた転職者が新職場で「疎外感」を持たないために必要な3つの対処

 ヘッドハンティングやスカウトといった引き抜きによって転職を果たしたビジネスパーソン。次の職場でも意気揚々と活躍しているケースはもちろん少なくないですが、一方で、新しい職場に馴染めず疎外感を持ってしまうケースも。

 なぜなのでしょうか。そうならないための対処法は?

「変化への不安」の根底心理を探り、「行動できる」自分に変わる方法を解いた『命綱なしで飛べ』よりお届けします。

『命綱なしで飛べ』 サンマーク出版
『命綱なしで飛べ』

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【著者】
トマス・J・デロング(Thomas J. DeLong)
ハーバード・ビジネススクールのベイカー基金教授、フィリップ・J・ストンバーグ記念講座元教授(組織行動領域の経営手法を担当)。専門は個人および組織の成功要因。
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「質問」で重力を発見する

 マイク・マーティンはウォール街で指折りの有能トレーダーだった。

 当時私が働いていたモルガン・スタンレーは、このマーティンを大手銀行から引き抜いた。

 モルガン・スタンレーの上層部とスタッフは社内で祝杯を上げた。最高だ。いちばんの競争相手からいちばん有能なトレーダーを引き抜いたのだ。

 1か月後、マーティンから電話をもらった。

「トム、僕は戻ることにしました」と彼は言う。前の銀行に戻るというのだ。

「え? 戻るってどういうこと?」と私はたずねた。

 マーティンの話を聞いているうち、建物がガラガラ崩れ落ちていくような気がした。

「モルガンにいた1か月、僕の部屋に来て挨拶してくれたのはトムだけです。上層部のほかの人たちは自己紹介もしてくれませんでした。アシスタントをつけてほしいと何度お願いしても、誰も対処してくれませんでした。こんな扱いを受けたことはありません。これ以上、無理してモルガンで働く必要はないと思います」

 私はマーティンに謝罪した。ほかの経営幹部であるパートナーたちに代わって、謝罪の言葉を伝えた。

 マーティンは私に、謝罪の言葉などいらない、もう決めたことだから、と言った。

 そして、モルガン・スタンレーに移籍したのは、自分のキャリアで最悪の決定だったと、私との会話を終えた。

 どうやら、私たちはマーティンを島にたどり着く前から孤立させてしまっていた。

 迎える前から私たちから排除し、切り捨てていたのだ。

 組織としても、組織の一員としても、恥ずかしいことをした。

 意図的なものではなかった。どんな組織も社員を、とくに有能な社員を排除することなど望んでいない。

 自分は組織につながっていないと感じてしまうと、誤った認識にたちまち引き寄せられる。

 自分は無視されている、意図的に排除されているというストーリーを頭の中で書き上げてしまう。

 人と話してみることはせず、ひたすら不安にとらわれてしまう。

 組織とつながっているという感覚を失い、いきり立ち、狼狽する。

 こうなると、自分のやり方を変えられないし、できるかどうかわからないことは引き受けたくないし、指導を受けることもむずかしくなる。

 代わりに殻に閉じこもり、うまくできることだけをやろうとする。

 これである程度不安は和らぐが(自分の得意なことをすれば気分がよくなる)、組織のほかの人たちを引きつけることはできない。可能性を求めて成長し、さらに野心的な目標を成し遂げる代わりに、その場にとどまるだけだ。

気持ちが下がっていないかチェックしたい6つの「引力」

 自分が作り出した重力に引き込まれているかどうか判断するために、次のことで気持ちが下がったことはないか、考えてみよう。

①ミーティングで「なんだか自分は無視されている」「避けられている」「排除されている」と感じる

②誰にも相談せず、組織内で自分の重要度が減っているのではと疑い、ひとりであれこれ考える

③疑念が生じても上司やまわりの人に話してどういうことか確認せず、たちまち大きくしてしまう。ついには疑念を超えて、確証にいたる

④上司の身振りや同僚のそっけない発言にいたるまで、あらゆることに「自分が排除されている」動かしがたい事実を見出そうとする

⑤不安を解消するために、自分がいちばんうまくできることで能力を示そうとする。自分が「まずい」と思われかねない仕事は一切引き受けないようにする

⑥状況はよくなるどころか、自分はさらに孤立していると思えてしまう。ついには別の仕事を探すか、気持ちよくできる仕事だけしようとする

 これらの「引力」を感じたことがあるなら、そこから完全に逃れられることを認識してほしい。

 どうすれば、この負の重力から逃れられるか、見てみよう。

重力を解く3つの対処法

 あなたが仕事で結果を強く求めるタイプで、その自分が無視されていると思うのであれば、この負の重力を逃れ、組織に属している感覚をまた持つことができる。

 ただし、「いつ」「何を」「どのように」行うかが鍵を握る。

 まずは、①「いつ行うか」から考えてみよう。

すぐ動く

・孤立感にとらわれてしまう前に、何か行動を起こすこと

「いつ組織から除外されていると感じたか?」をたずねると、会社やチームに入って早い段階で経験したことから話し始める人がほとんどだ。

 だが、組織が意図的に誰かを排除することは考えられないし、その人の一定期間の仕事から判断してそうするとも思えない。

 そうではなく、じつはある人物や出来事に対しての個人的な反応から、「自分は排除されている」と思うことが多いのだ。

 誤解によることもある。たとえば、上司がなんとなく口にしたことを、新しく入ったやる気のある部下は曲解してしまったりする。

 どちらにしろ、新しく入った人たちも起こってしまったことはそのままにせず、しっかり対処すること。気にする必要のない発言をいきなり突きつけられたとき、すぐに確認すれば、不安に駆られずにすむ。

 誰かに否定的な判断を突きつけられたら、早い段階でその事実を明らかにしよう。あなたがミスを犯したのであれば、それを正すために何をしたらいいか考える。そうすれば、自分はふたたび組織に属していると感じることができる。

 一方、新しく入った人に対して組織が即座に判断を下し、決してその〝決めつけ〟が改められなかった事例も目にしたことがある。

 ある会社の部長は言う。

「1か月半か2か月で、その人物が社を背負って立つ人になるか、いい仕事ができずに終わるか、大体わかります」

 それはどうなのか──新しい人たちをどう見て、どう評価したのでしょうか、とたずねると、部長は答えた。

「感覚でわかります。あと、彼らと楽しく過ごせるかどうかもあります」

 仕事の能力に基づいて判断したかたずねると、部長は頭の後ろに手をまわし、ゆっくりと笑みを浮かべてから、苦しそうに答えた。

「……彼らの仕事をもっとよく見るべきだと思います。でも、ずっとこのやり方で来たので、変えることができません」

 まわりに否定的な印象を持たれたなら、あなたの自尊心を保つためにも、修正をはかる必要がある。そんな印象を持たれて組織で孤立していると思ったときには、次の方法ですぐに対処してほしい。

 これが負の重力から逃れるために、②「何を行うか」だ。

「確認」と単刀直入な「コミュニケーション」を

・一歩引いて、自分は何かが見えなくなっているかもしれないと認める→「視野の狭窄(きょうさく)」に陥っていないかの確認

・そのように思うにいたったきっかけをもたらした人物と、単刀直入に話してみる→ダイレクトでクリアなコミュニケーション

 新人、ベテラン問わず、この2点を誰かと話すのは容易ではない。とくに、仕事で結果を強く求める人は、いちばんおそれていることを現実として受け入れるのは怖いはずだ。

 上司や会社に直接確かめるようなことをすれば、出世が遠のく気がする。

 だが、上司や同僚に率直に話してみれば、気持ちが落ち着き、不安が解消することがほとんどだ。

 注意してほしいのは、くどくどと自分がおそれていることを話したり、自分の立場を守ろうとしたりしないこと。

 何が不安なのか、手短に要点だけ伝えよう。

 結果は大抵、自分がチームの重要なメンバーであると言ってもらえて安あん堵どするか、親切な提案を受けるかだろう。いずれにしろ、これまでの孤立感は和らぐ。

 人に言われるからではなく、言われないから孤立感を感じてしまうこともあるかもしれない。

 たとえば、ゴードンは、10年間で2つの中小企業に勤務したのち、フォーチュン社に加わった。ゴードンは最高の教育機関でMBAを取得し、前の2社で大変な業績を上げた。フォーチュンでも大活躍が期待された。

 だが、ゴードンは会社の要職から外された。

 何かミスをしたわけではない。だが、大きな組織で居場所を失ったのだ。

 まず、入社直後に所属部署の再編があり、新しい上司のもと、新しいチームで仕事をすることになった。

 新しい上司も新しいチームメンバーも気持ちのいい人たちだったが、昼食に誘われることはほとんどなかったし、(ゴードンにすればこちらがもっと衝撃的だった)重要な仕事をまわされることはなかった。

 ゴードンはこの状況で2つの間違いを犯す。

 上司とすぐに話さなかった。上司のオフィスに行き、勇気を奮い起こして「自分は仲間に入れてもらっていない」と感じていると相談するまでに、数か月が経過していた。

 そして数か月置いたことが2番目の間違いだった。ようやく上司と話したとき、最初の20分間は不満をあげつらうことに終始した。

 上司は衝撃を受けた。ゴードンがそんなふうに感じているとは思いもよらなかった。

 だがそのうちゴードンにいらつき、「もし君がそんなふうに感じるなら、ここは君にとって望ましい職場ではない」と言い放った。

 この上司はのちに、「ゴードンにそんな厳しいことを言うべきでなかった」と自分の上司に報告している。一方で、ゴードンの態度に感情を抑え切れず、冷静さと礼儀を欠いてしまったとも述べている。

 自分の不安を伝えることは感情的に健全で、原因を正直に知りたいということにほかならない。だとしても、少し時間を置いて、次の質問を考えてみよう。

 これが負の重力から③「どのように」逃れるかのヒントになる。

冷静に、ちゃんと「空気」をとらえる──「CEO」を見る

・自分は「過剰反応」していないだろうか?

・明確な言い方であれ、何気ない言い方であれ、誰かからのフィードバックをあまりに「個人的」に受け止めていないか?

・組織、とくにCEOが、社員を受け入れようという方針で、それを実践しているか確認しよう

 3番目の「組織、とくにCEOが、社員を受け入れようという方針か確認する」のはむずかしくない。

 自分たちはCEOに好きなようにしていいと奨励してもらっている、自分は組織に属していると感じられるのであれば、結果を出そうとする者にはよい働き場だ。

「CEOが社員にさまざまな意見を求める」「熱心に働き、(自分の仕事で結果を出すだけでなく)ほかの人にも影響を与える社員に高い報酬を出そうとする」「どのレベルの社員も学び成長できるプログラムを導入しようとしている」なら、組織はおそらく社員全員を受け入れようとしている。

 もちろん、社員がCEOや企業を常に選べるわけではない。

 ここで言いたいのは、CEOの姿勢をよく見れば、その会社が社員を受け入れようとしているかしていないか一目瞭然ということ。

・CEOが一部の内輪の関係を重視し、ほかのものは一切受け入れない

・従業員が自分も貴重な戦力だと感じることもなければ、知識とスキルを磨ける研修期間もない

・CEOが社員に受け入れられていない

 こんなときは、別の会社を探したほうがいいかもしれない。

 では、結果を出したい、成功したいと強く思う者たちに不安とストレスをもたらす3番目の原因を考えてみよう。

 それは、「自分が重要だと思えなくなってしまうこと」だ。

<本稿は『命綱なしで飛べ』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
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