やる気をずっと保てる人と長続きしない人「そもそもの動機」の決定的な差
「地道な作業を積み重ね続ければ、誰でも目標に近づいたり、夢に近づいたりできます」
こう言うのは脳神経外科医の菅原道仁さん。菅原さんによると脳科学の見地から「続ける」のに必要なのは成功体験によって、あるホルモンをドバッと分泌させること。それがドーパミンです。
菅原さんの著書『すぐやる脳』では、「①自己暗示をかける→②スモールステップに分ける→③ドーパミンを分泌させる」という3つを1サイクルとして循環させ、それを繰り返して習慣化する「ドーパミン・コントロール」によって、「やりたくない脳」が「やりたがる脳」に変わる方法を詳しく解説しています。
ただし、そこには注意点も。本書よりお届けします。
モチベーションが続かない人に、共通する理由
ドーパミン・コントロールについて
「なんだか、私にもすぐできそう」
「僕でも大きな目標が達成できるのではないか」
そう感じる人もいるでしょう。しかし、ひとつ注意してほしいことがあります。
ドーパミン・コントロールを、どのような目標達成のために使うのか、よく確認をしてほしいのです。
踏み込んで言うと「どのような動機で設定された目標なのか」、自分の胸に手を当てて考えてみてください。
「高年収だから」「世間体がいいから」「会社の業務命令だから」「親の希望だから」「叱られたくないから」……。
このような動機を「外発的動機づけ」(extrinsic motivation)と呼びます。
報酬面や「罰を回避したい」という理由が、動機となっているパターンです。
外発的動機づけで目標を設定した場合、いくらドーパミン・コントロールの手法をもってしても、長続きしない可能性は高くなります。
混ざってもいいが大事なのは「自分自身が欲しているか」
ではどんなケースが長続きしやすいかというと、その動機が「自分自身が欲している」純粋なものである場合です。
「収入にならなくても、楽しいからやりたい」「社会的な認知度は低いけれども、私の〝使命〟だからやりたい」「微力でも人の役に立ちたいから、やりたい」……。
このような動機を「内発的動機づけ」(intrinsic motivation)と言います。
心の内面からあふれるピュアな思いが、動機となっているパターンです。
内発的動機づけから生まれた目標ほど、長期的に見ると強い、つまり続きやすいのです。
もちろん他人から見れば、その人の動機が外発的動機づけか、内発的動機づけかは、わかりにくいものです。
「どんな動機だっていいじゃないか」という見方もあるでしょう。
けれども実現の度合いに大きな差が出やすいので、その動機の種類について、時折振り返って確認してみてください。
もちろん、2種類の動機がミックスされていることもあります。でも、その配合の比率が問題なのです。
また時間が経つにつれ、2種類のブレンド具合が変わることもあります。
最初は外発的動機づけで始めたのに、いつしか内発的動機づけのほうが優位になっていることもあります。(とくに若年層は、この傾向が強いです)
これは、お子さんと勉強の関係についてあてはめてみると、よくわかります。
外発的動機づけだけでは、いつまで経っても積極的に学ぶ姿勢は身につきにくいもの。たとえば、「勉強のあとにお菓子(報酬)をあげるから」というような教育の手法が推奨されないのは、そのような理由からです。
しかし、「最初は外発的動機づけで勉強の習慣をスタートさせ、内発的動機づけが優位になるよう誘導していく」という方法が有効なこともあります。
「ご褒美がもらえるから」が常態化すると頑張れなくなる
私自身の体験談を回想してみましょう。
小学生だった当時、私の住んでいる学区では「公立中学に進学する際は、丸刈りにしなければいけない」という規則になっていました。
その事実を知った私は、「丸刈りはイヤだ」という強い動機から、中学受験をみずから望むようになります。
高学年ともなると、放課後の受験勉強はもちろん、朝の登校前の数十分にいたるまで、寸暇(すんか)を惜しんで勉強をしていました。丸刈りを強いられることが、それほど恐ろしかったのです。これが、外発的動機づけです。
しかし、時間が経つにつれ「勉強することで、将来いい大人になれればいいなあ」という純粋な思いも湧いてきたことを記憶しています。
これが、内発的動機づけです。
結果、慶應義塾中等部に合格することができました。
もっとも、今は昔とは時代が違いますから、私のように「丸刈りがイヤだ」という理由で勉強に向かうお子さんは少ないかもしれません。
脳はマンネリをいやがる
このエピソードからは、「最初は外発的動機づけだけでもよい」という原則を理解していただければと思います。
ただし、「途中から内発的動機づけを強める」よう、誘導することが重要です。
実際、「外発的動機づけだけに頼りきると、やる気が出なくなる」という知見がいくつかあります。
「成功体験のあとに、ご褒美がもらえる」ということが常態化すると、頑張れなくなってしまうのです。
もちろん、これもマンネリをいやがる脳の性質ゆえです。このような状態を「アンダーマイニング効果(抑制効果)」(undermining effect)と呼びます。
アンダーマイニング効果については、M・R・レッパー氏、D・グリーン氏、R・E・ニスベット氏らによる「報酬の隠れたコスト実験」(1978年)という有名な研究があります。幼稚園児を3つの群に分け、絵を描いてもらうという実験です。
◆A群「『絵を描いたらご褒美をあげる』と約束をして、実際にご褒美を与える」
◆B群「事前の約束なしに、単に絵を描いてもらい、あとでご褒美を与える」
◆C群「事前の約束なしに、単に絵を描いてもらい、ご褒美を与えない」
実験の結果、A群は自発的に絵を描く時間が短くなりました。つまり、ご褒美につられすぎると、人は自発的な欲求が弱まってしまうのです(ちなみに、B群もC群も、自発的に絵を描く時間は長くなりました)。
ピュアな動機を保てるかどうかが、ドーパミン・コントロールを持続させるカギとも言えます。
<本稿は『すぐやる脳』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
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【著者】
菅原道仁(すがわら・みちひと)
脳神経外科医