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稲盛和夫「生きている意味、目的はどこにあるか」

京セラと第二電電(現KDDI)を創業、経営破綻した日本航空(JAL)の会長として再建を主導し、「盛和塾」の塾長として経営者の育成にも注力した稲盛和夫さん。

2022年8月に90歳で逝去された稲盛さんは数々の著書を残されましたが、2004年7月にサンマーク出版から刊行した『生き方 人間として一番大切なこと』は稲盛さんの代表作の一つ。同書が100万部を突破したのは、2013年3月のことです。

ほぼ10年かけて本がミリオンセラーになるのは珍しいことですが、これは5年や10年では色あせない、人生における本当に大事なことが記されているからこそで、現在は日本国内で150万部を突破。大々的な宣伝活動をしなくても売れ続けています。海外16カ国へも翻訳版が届けられ、中国では600万部以上の大ヒット作となっています。

時代が変わっても変わらない普遍的な言葉の数々。本書からプロローグを一部抜粋、再構成してお届けします。

『生き方 人間として一番大切なこと』(サンマーク出版) 稲盛和夫
『生き方』


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混迷の時代だからこそ「生き方」を問い直す

 私たちはいま、混迷を極め、先行きの見えない「不安の時代」を生きています。豊かなはずなのに心は満たされず、衣食足りているはずなのに礼節に乏しく、自由なはずなのにどこか閉塞(へいそく)感がある。やる気さえあれば、どんなものでも手に入り何でもできるのに、無気力で悲観的になり、なかには犯罪や不祥事に手を染めてしまう人もいます。

 そのような閉塞的な状況が社会を覆いつくしているのはなぜなのでしょうか。それは、多くの人が生きる意味や価値を見いだせず、人生の指針を見失ってしまっているからではないでしょうか。今日の社会の混乱が、そうした人生観の欠如に起因するように思えるのは、私だけではないと思います。

 そういう時代にもっとも必要なのは、「人間は何のために生きるのか」という根本的な問いではないかと思います。まず、そのことに真正面から向かい合い、生きる指針としての「哲学」を確立することが必要なのです。哲学とは、理念あるいは思想などといいかえてもよいでしょう。

 それは砂漠に水をまくようなむなしい行為であり、早瀬に杭(くい)を打つのに似たむずかしい行為なのかもしれません。しかし、懸命に汗をかくことをどこかさげすむような風潮のある時代だからこそ、単純でまっすぐな問いかけが重い意味をもつのだと私は信じています。

 そのような根幹から生き方を考えていく試みがなされないかぎり、いよいよ混迷は深まり、未来はますます混沌(こんとん)として、社会には混乱が広がっていく――そうした切実な危機感と焦燥感にとらわれているのも、やはり私だけではないはずです。

 私は本書(『生き方 人間として一番大切なこと』サンマーク出版)の中で、人間の「生き方」というものを真正面からとらえ、根幹から見据えて、思うところを忌憚(きたん)なく説いてみたいと思っています。生きる意味と人生のあり方を根本から問い直してみたい。そうしてそれを時代の急流に打ち込む、ささやかな一本の杭としたいと考えています。

 読者の方々が、生きる喜びを見いだし、幸福に満ちた充実した人生を送るための何らかのヒントを本書から得ていただければ、この上ない喜びです。

魂を磨いていくことが、この世を生きる意味

 私たち人間が生きている意味、人生の目的はどこにあるのでしょうか。もっとも根源的ともいえるその問いかけに、私はやはり真正面から、それは心を高めること、魂を磨くことにあると答えたいのです。

 生きている間は欲に迷い、惑うのが、人間という生き物の性(さが)です。ほうっておけば、私たちは際限なく財産や地位や名誉を欲しがり、快楽におぼれかねない存在です。

 なるほど、生きているかぎり衣食が足りていなくてはなりませんし、不自由なく暮らしていけるだけのお金も必要です。立身出世を望むことも生きるエネルギーとなるから、いちがいに否定すべきものでもないでしょう。

 しかし、そういうものは現世限りで、いくらたくさんため込んでも、どれ一つとしてあの世へ持ち越すことはできません。この世のことはこの世限りでいったん清算しなくてはならない。

 そのなかでたった一つ滅びないものがあるとすれば、それは、「魂」というものではないでしょうか。死を迎えるときには、現世でつくり上げた地位も名誉も財産もすべて脱ぎ捨て、魂だけ携えて新しい旅立ちをしなくてはならないのです。

 ですから、「この世へ何をしにきたのか」と問われたら、私は迷いもてらいもなく、生まれたときより少しでもましな人間になる、すなわちわずかなりとも美しく崇高な魂をもって死んでいくためだと答えます。

 俗世間に生き、さまざまな苦楽を味わい、幸不幸の波に洗われながらも、やがて息絶えるその日まで、倦(う)まず弛(たゆ)まず一生懸命生きていく。そのプロセスそのものを磨き砂として、おのれの人間性を高め、精神を修養し、この世にやってきたときよりも高い次元の魂をもってこの世を去っていく。私はこのことより他に、人間が生きる目的はないと思うのです。

 昨日よりましな今日であろう、今日よりよき明日であろうと、日々誠実に努める。その弛まぬ作業、地道な営為、つつましき求道に、私たちが生きる目的や価値がたしかに存在しているのではないでしょうか。

 生きていくことは苦しいことのほうが多いものです。ときに、なぜ自分だけがこんな苦労をするのかと神や仏を恨みたくなることもあるでしょう。しかしそのような苦しき世だからこそ、その苦は魂を磨くための試練だと考える必要があるのです。労苦とは、おのれの人間性を鍛えるための絶好のチャンスなのです。

 試練を「機会」としてとらえることができる人――そういう人こそ、限られた人生をほんとうに自分のものとして生きていけるのです。

 現世とは心を高めるために与えられた期間であり、魂を磨くための修養の場である。人間の生きる意味や人生の価値は心を高め、魂を錬磨することにある。まずは、そういうことがいえるのではないでしょうか。

<本稿は『生き方 人間として一番大切なこと』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

【著者】
稲盛和夫(いなもり・かずお)
1932年、鹿児島生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミツク株式会社(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長。また、84年に第二電電(現KDDI)を設立、会長に就任。2001年より最高顧問。2010年には日本航空会長に就任。代表取締役会長、名誉会長を経て、2015年より名誉顧問。1984年には稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった人々の顕彰を行う。2022年逝去。
著書に『京セラフィロソフィ』『心。』(ともに小社)、『働き方』(三笠書房)、『考え方』(大和書房)など、多数。

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