投資なんて自分には無関係と思う人に知ってほしい「あなたも投資をしている」という事実
あなたは投資をしていますか?
新NISAが始まり、デフレからインフレへの転換が進む中、投資を始めるには絶好の機会と言われています。
一方で、これまで投資をしたことがなく、興味はあってもなかなか踏み出せない人も少なくないようです。そもそも「投資」とは何でしょうか?
複眼経済塾という投資・経済スクールの塾長を務め、1冊で2000ページに及ぶ株式情報誌の定番中の定番『会社四季報』を27年間で108冊全ページ読破する渡部清二さんの新著『そろそろ投資をはじめたい。』より一部抜粋、再構成して、その問いへの答えを探ります。
投資をしたことがない人なんていない?
そもそも「投資」とは何か、あなたは説明できますか? 私なりの答えは後ほど紹介します。まずは一言で考えてみてください。
Q.「投資」をひと言で説明してください。
「投資とは・・・」
どんな答えが思い浮かびましたか?
参考までに、教科書的な答えをお見せしましょう。
投資とは、何らかの見返りを期待して、金銭を投じる行為。
なるほど。「見返り」と「金銭」がセットになっていますね。この説明は間違えてはいないのですが、誤解が生まれやすいと思います。
なぜ、この説明では誤解が生まれてしまうのか。それは「見返り」を「儲け(お金)」と捉えて、投資を「儲けを期待して、金銭を投じる行為」だと思ってしまいやすいからです。
子育てや自分へのご褒美は何を目的にしている?
別の角度から考えてみましょう。
「何らかの見返りを期待して、金銭を投じる行為」は、日常に溢れています。
あなたが親元にいたときのことを考えてみてください。あなたの親はあなたのために、さまざまな機会に金銭を投じてきました。衣食住のように生活に欠かせないものから、教育費や習い事の月謝まで、あらゆる出費は親や保護者が担っていたはずです。
さて、先ほどの投資の説明になぞらえて考えてみましょう。親はあなたに「儲け」を見返りとして求めて、金銭を投じていたでしょうか? それよりも、あなたが健康でいることやあなた自身の自己実現などを願っていたのではないでしょうか?(少なくとも、私は一人の親として子どもにそう期待しています)
また、「自分へのご褒美」という言葉もありますよね。
仕事をがんばったから週末に温泉旅行に出かける。バッグや時計といった、少し高価なものを買うなど、誰でも一度は経験があるのではないでしょうか。
こうした自分へのご褒美も、見返りを期待して金銭を投じている行為、つまり投資です。この場合の見返りとは、ストレスの解消だったり、仕事のモチベーションアップだったりします。
手に職をつけるために国家試験を受ける。そのために学校に通ったり、問題集を買ったりする。資格取得や就職という見返りを求めて、金銭を投じている行動です。これらも投資ですよね。
世界は投資でできている
このように「見返りと金銭」をセットにして考えると、世の中の至るところに投資が存在していることがわかります。こうした例を踏まえて、私は投資を次のように定義しています。
投資とは、
未来の自分のために
お金を使うこと。
この定義では、見返りは儲けやお金ではなく、「未来」です。
親が子どものためにお金を使う、自分へのご褒美を買う、国家試験を受けるための学校に学費を投じる。これらは、望む未来に近づくための方法にすぎません。
こう考えると、私たちは日頃から投資をして暮らしているといえるでしょう。
投資をしているのは、個人だけではありません。
国のインフラも、先人が未来の国民のためにお金を使った投資です。
例えば、日本はロシアに比べて国土の面積が45分の1しかありません。しかし、鉄道輸送量は3倍もあります。現代の日本では、電車での通勤や帰省は当たり前で、思い立てばすぐに遠方に行くことができますが、その当たり前も先人の投資の賜物なのです。
私の元同僚でトルコ出身のエコノミストであるエミン・ユルマズは、こうした日本の先人の投資を「日本で生まれたのは黄金の上で生まれたのと一緒。感謝した方がいい」と評しました。この言葉を思い出すたびに、日本は先人の投資の上に成り立っている国なのだと実感するのです。
1玉100円のキャベツは安い? 高い?
投資を身近に感じていただくために、もう一つ例を出しましょう。
私は「買い物上手は投資上手」という説を提唱しています。
この場合の買い物とは、スーパーで食料品を買うような日常の買い物を想定しています。そもそも買い物は生きていくために必要な行為です。まさに、未来の生のためにお金を投じているのです。
買い物にも、「上手な買い物」と「下手な買い物」があります。
上手な買い物とは、値段や産地、鮮度などを瞬時に見極めて適切に買う行為。下手な買い物はその逆です。
買い物上手な人は、ものの価値を見極める力を持っているのです。
例えば、ある日のスーパーでキャベツ1玉の値段が100円だったとします。その値段を見たときに、「今日のキャベツは高いのか安いのか」を買い物上手な人は瞬時に判断できます。
店舗の規模にもよりますが、スーパーには数千〜数万点の商品が陳列されており、それらは毎日値段が変動します。
この状況は、株式市場で各銘柄(=商品)の株価を見ているのと似ています。毎日株価の動きを見ている投資家のように、商品の値段を見て価値を判断しているわけです。
また、買い物前にチラシを見て予習をするのも、株式投資と同じです。チラシを見て商品を選び、その値段の感覚を摑むことは、銘柄を選んで投資する行為に似ています。『会社四季報』(東洋経済新報社)に掲載されている上場企業は3926社(2024年4集秋号)ですが、それよりも多い商品を買い物上手の人は日常的に見ているのです。
つまり、日常の買い物の経験が、投資のセンスを磨くことにつながっているのです。毎日のように商品を見て価値を判断することは、株式投資においても非常に重要なスキルです。株価の変動を見極め、価値のある銘柄を選ぶ力を養うためには、日常の中で価値を見極める経験が役立つのです。
投資を特別なものだと恐れる必要はありません。
誰もが投資を経験して生きています。むしろ、投資と無縁でいられる人など、一人としていないのです。
<本稿は『そろそろ投資をはじめたい。』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
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【著者】
渡部清二(わたなべ・せいじ)
複眼経済塾 代表取締役・塾長
1967年生まれ。1990年筑波大学第三学群基礎工学類変換工学卒業後、野村證券入社。野村證券在籍時より、『会社四季報』を1ページ目から最終ページまで読む「四季報読破」を開始。25年以上継続しており、2024年秋号の『会社四季報』をもって、計108冊を完全読破。2013年野村證券退社。2014年四季リサーチ株式会社設立、代表取締役就任。2016年複眼経済観測所設立、2018年複眼経済塾に社名変更。清泉女子大学にて就職講座を6年担当するなど、投資家以外への教育にも熱心に取り組んでいる。『会社四季報の達人が教える10倍株・100倍株の探し方』(東洋経済新報社)がベストセラーになり、その後著書多数。