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ニュースを読んで「わかった気」になっていませんか

 戦争が勃発した。株式市場が暴落した。画期的な新技術が開発された。スポーツの勝敗が決した。殺人事件が起きた――。

 こうしたニュースが報じられた時、その理由が短く記されているケースがあります。それを頭から信じ切っていないでしょうか。

 何年も前から「ニュースなしの生活」を送っている著者が、みずからの体験をもとに、「ニュースダイエット」の方法と効用について語り尽くした『News Diet』よりお届けします。

『News Diet』(サンマーク出版) ロルフ・ドベリ
『News Diet』

「短いニュース」ほど危険性が高くなる!?

 世界は複雑で躍動的で、混沌としている。

「原因」と「結果」は、それぞれ直線で結びついているわけではない。必ずといっていいほど、何百、ときには何千という原因が融合し、ある特定の結果を生じさせている。そして多くの場合、結果は原因一つひとつに対して反作用を及ぼしてもいる。

 2008年に起きた「世界金融危機」を例にとってみよう。

 このときの金融システムの崩壊は、さまざまな要因が混じり合い、有毒なカクテルとなって引き起こされた。

 株式市場の高揚感。抵当貸付利用者数の増加。世間に蔓延した、住宅価格はけっして下がらないという思い込み。銀行の負債比率。怪しげな有価証券(「不動産担保証券」や「債務担保証券」といった謎めいた名前がつけられていた)。いかがわしい有価証券に対する保険(こちらにはもっとひどい名前がついていた)。格付け会社の悪質な行為。抵当貸付の貸し手の悪質な行為。ヨーロッパの投資家の、アメリカの債券への完全に度を越した購買意欲。大西洋のあちら側とこちら側での、銀行に対する手ぬるい監視。不適切なリスクの計算式。金融機関に対するほぼ国家レベルの保証など。

 いま振り返ると、どれも大問題につながりかねない要素であることは明らかなように思える。その結果私たちは、「この金融危機は当然の帰結で、予測可能だった」という錯覚に陥ってしまう。

 この傾向は「後知恵バイアス」と呼ばれている。ものごとが起こったあとで、「そうなると思っていた」と思ってしまうのだ。

 だが当時、台風の目のなかでは何ひとつわからなかった。そして残念ながら、次にまた何かの危機のただなかにいたとしても、私たちはやはり何が起きているかをまったく把握することはできないだろう。

 もちろん、ニュースなしでも私たちが「後知恵バイアス」に陥ることはある。だがニュースを消費すると、この思考の誤りはエスカレートする。消費するニュースが短ければ短いほど、その危険性は高くなる。

 ニュースは極端に短くなければならないにもかかわらず、起きた出来事についても綴らなくてはならない。それを可能にするには、ものごとを容赦なく簡潔化するしかない。

 ちょっとした自転車事故だろうが世界規模の経済危機だろうが、何が起きたかとは関係なしに、常にひとつ、ふたつの原因だけを挙げるしかない。そのほかにもある多くの原因や、それらの原因が重なり合ってその結果が引き起こされたことや、結果と原因のあいだで起きた反作用について(それが強化作用であっても鎮静化作用であっても)語られることはない。

 ニュースを消費すると、「世界は実際よりも単純で説明可能だ」という錯覚に飲み込まれ、あなたの「決断の質」は損なわれてしまう。

「たったひとつの理由」など存在しない

 ニュースを断ち、そのかわりに特定のテーマについて書かれた長文記事や本を読んだり、専門家と議論したりすれば、複数の出来事のつながりに関してずっと現実に忠実なイメージを持つことができる。それに、未来をたやすく予測できるという錯覚に陥ることもない。

 だが、言うは易く行うは難しだ。なぜなら私たちの脳は、起きたことに〝意味づけ〟できる物語を求めるものだからだ。それもできるだけ早く、シンプルに。その物語が現実に即しているかどうかは二の次だ。

 ニュースジャーナリストは、私たちにそうした類の偽りの物語を提供する。株式市場が一パーセント下落したと報じるかわりに、レポーターは「市場はXという理由から一パーセント下落しました」と解説する。

 このXというのは旧知の要因である場合がほとんどだ。収益予想の変化、ユーロ不安、公表された労働市場調査結果の影響、発券銀行の決定、テロ、地下鉄職員のストライキ、大統領間の取り決めなど。

 だが実際には、Xというたったひとつの理由など存在しない。短くまとめるために、ニュースでは理由をでっち上げざるを得ないのだ。

 そう考えたときに私の頭に浮かぶのは、ギムナジウム[ドイツ語圏にある中高一貫の進学校]時代のことだ。

 私の歴史の教科書には、フランス革命が起きた原因が3つ(ふたつでも7つでもなく)挙げられていた。それがなんだったかは忘れてしまったが、大事なのはその中身ではない。なぜならその3つは、本当の原因を構成するほんのわずかな一部だったに違いなく、そのうえその本当の原因がなんだったのかも、正確にわかる人はいないはずだからだ。

 なぜフランス革命が起きたのか、確実なことは私たちにはわからないし、なぜそれが1789年に起きたのかはもっとわからない。

 同様に、株式市場がなぜいまのような値動きを見せているのか、その理由も私たちにはほとんどわからない。影響を与えている要因が多すぎるからだ。戦争が勃発する原因も、画期的な技術の進歩が起きる理由も、サッカーの試合でバルセロナがマドリードに勝つ理由も、私たちには確実にはわからない。

「市場はXという理由でこう動いた」や「Yという理由からこの企業は破綻した」などと書くジャーナリストは全員、愚か者か読者を欺こうとしているかのどちらかだ。確かにXやYは影響要因ではあるのだろうが、それはけっして証明されているわけではないし、もっと大きな影響を与えた要因はほかにあったかもしれない。

 ニュースレポートは、ある出来事に対する「分析」のようなていで売られている場合が多い。だが実際には、ただの逸話にすぎないのだ。

 こうしたいい加減な方法で世界について知る手ほどきを受ける誘惑に抗おう。その方法は完全に間違っている。そんなふうに解説を受けても、本当の、真剣な思考の妨げになるだけだ。そのうえ、世界に対する理解を少なくとも少しは深められるまたとないチャンスまで失うことになる。

▼ 重要なポイント …………
 ニュースを消費すると、あなたは、世界は実際よりも単純で説明可能だという錯覚に飲まれてしまう。短いニュースが提供するでっち上げの理由を受け入れるより、自分で考えをめぐらせよう。

<本稿は『News Diet』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
ロルフ・ドベリ(Rolf Dobelli)
作家、実業家

【訳者】
安原実津(やすはら・みつ)

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