「脳」を賢く騙し、大人の記憶力をグンと上げるワザ
大人になると丸暗記はできなくなります。学生時代に丸暗記が得意だった人の中には、大人になってから勉強しようとして、物覚えが悪くなったと愕然としたケースも少なくないはずです。
ですが大人になっても記憶力は衰えることはありません。変わったのは記憶するための脳のシステム。どのように使いこなせば大人でも暗記ができるのでしょうか。
大人には大人の勉強法がある。そのカラクリを解き明かした、累計11万部超のベストセラーで脳内科医・加藤俊徳さんの著書『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』から一部抜粋、再構成してお届けします。
喜怒哀楽で記憶力がぐんとアップする
記憶の調整役「海馬」には、記憶の一時的な保管庫としての役割があります。
では、一時的とは具体的にどのくらいの期間だと思いますか?
人それぞれ海馬の元気度が違いますし、記憶する内容によってバラつきはありますが、2~4週間が一つの目安です。
たとえば、昨日のランチのメニューは思い出せても、3週間前の水曜日に何を食べたのかはなかなか思い出せませんよね。
3週間前の、いつもと同じ顔ぶれでよく行く定食屋の日替わりメニュー。突出した情報がなければ海馬はこれを重要な情報ではないと判断し、短期記憶から消去します。昨日のメニューも同様に、あと数週間もすれば海馬から消えてなくなるでしょう。
では、質問です。
ここ3カ月以内で記憶に残っているランチはありますか?
テレビで見て行こうと決めたイタリアン。休日にパートナーや家族と出かけた観光地のレストラン。仕事が一区切りしたご褒美にと奮発した寿司。
何か特別な出来事があったときのことなら、何カ月経っても覚えていますよね。
テレビで見た、休日に出かけた、仕事のご褒美などストーリー性のある出来事には、楽しい、嬉しい、悲しいなどの感情がともないます。
こういった記憶は、いつもと変わらぬ日常とは区別され、「エピソード記憶」に分類されます。
実は、記憶の調整役・海馬の隣には感情系脳番地の中心である扁桃体があり、感情が大きく動く出来事があると感情系と記憶系をつなぐ脳番地ルートが刺激されて、海馬はそれを重要な情報だと判断します。
つまり、エピソード記憶は無条件で長期記憶へと送られるという仕組みになっているのです。
これを活かさない手はありません。
この脳の特性を活かすカギは、感情を動かすこと。勉強に感情がともなうようにするだけで、記憶力はぐんとアップします!
ワクワクしたポジティブな感情に海馬はだまされる
「これが好き」「この作業は楽しい」。ワクワクとしたポジティブな感情を浴びると、海馬からシータ波と呼ばれる4Hzから8Hz未満の周波数を持つ脳波が出ます。
このシータ波が出ているときは海馬が活発に働き、入ってきた情報を「これは重要だ!」と判断します。
長期記憶へとつながるルートを開放してくれるのです。
だから、苦手なことも好きになれないことも、どうにかして「好きかも?」くらいには持っていきたいし、勉強の効率化を図るのならばそうすべきです。
昇格試験に必要だから、仕方なくやっている。これでは楽しくないばかりか、イヤイヤ勉強に取り組んでいるとストレスホルモンが分泌され、海馬が萎縮して記憶力の低下を招き、余計にやる気をなくすということにもなりかねません。
そうはいっても、やりたくないことを楽しいと思うなんて無理、という声も聞こえてきそうです。
好きなことばかりやりたがるけど、飽きっぽく、ご褒美が用意されているとわかると頑張れる──これが脳の本質的な性格で、誰にでも共通している部分です。基本、脳はだまされやすいという特徴があります。もちろん、やりたくないことも楽しいと思ったり、好きになったりするのがいちばんですが、それをしなくても大丈夫。
そう、脳をだまして、楽しいと錯覚させればいいんです。
では、具体的にどうやってだましていくか。
忘れてはいけないのは、ワクワクとした前向きな感情で勉強に向かうことであって、勉強そのものを好きになる必要はない、ということ。
たとえば、大好きなカフェラテを飲みながらハッピーな気分で勉強に取り組む。試験に合格した自分へのご褒美を決めておき、そのご褒美を思い出してからテキストを開く。あるいは、好みのタイプの先生のオンラインレッスンを受けるというヨコシマな気持ちでワクワク感を高めていくのもアリです。
シータ波が出ているときは、学習速度が2倍から4倍になるという行動上のデータ(テキサス大学、学習と記憶センター ホフマンら)もあるほど。
普通に勉強するよりも25~50%の時間と体力で欲しい知識が記憶に入るわけです。
苦手なものに取り組むときほど、「好き」を近くに置いてセット化することで、脳が働きやすい環境を作ってあげるのが大切です。
<本稿は『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
【著者】
加藤俊徳(かとう・としのり)
脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。
昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニング、脳活性音読法の提唱者。14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年に、現在、世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。独自開発した加藤式MRI脳画像診断法(脳相診断)を用いて、小児から超高齢者まで1万人以上を診断・治療。脳の成長段階、強み弱みの脳番地を診断し、薬だけに頼らない脳番地トレーニング処方を行う。著書に、『脳の強化書』(あさ出版)、『脳の名医が教える すごい自己肯定感』(クロスメディア・パブリッシング)、『不安を力に変える』(扶桑社)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)など多数。