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こむら返りが減ったアスリートが選んだ食事の秘密

ランチの後、しばらくして「眠くなる」「だるくなる」。あるいは十分に食べたはずなのにすぐに小腹が減る、集中力が途切れる、イライラする、首の後ろがずんと重くなる――。

こんな症状が出ている人に対して警鐘を鳴らすのは、北里大学北里研究所病院副院長・糖尿病センター長で『糖質疲労』の著者、山田悟医師。山田さんは食事をとった後に、血糖値の上がり幅が大きい「食後高血糖」、その後に急激に血糖値が下がる「血糖値スパイク」の影響で、食後に感じている体調不良を「糖質疲労」と名づけています。

糖質疲労の段階ではまだ病気とは言えず、今すぐに薬を飲む必要があるわけではないものの、放置しておくと、いずれドミノ倒しのように糖尿病・肥満・高血圧症・脂質異常症に至る可能性があるといいます。

一方、運動をしっかりやっている人であれば糖質疲労とは無縁かというと、そんなこともありません。本書『糖質疲労』より一部抜粋、再構成してお届けします。

『糖質疲労』

ボディビルダーの糖質摂取は理にかなっているが身体を傷つける?

 フルマラソン(42.195km)を走るような長距離ランナーが試合前に大量の糖質を摂取し、筋肉内のグリコーゲン量を上げ、持久力の最大化を狙う「カーボローディング」という食事法を実践することがあります。

 ただ、カーボローディングはやり方次第で糖質疲労になってしまうこともあります。(詳しくは3月7日配信の「42.195kmに挑むランナー『直前の食事』何が適切か」で解説しています)

 マラソンやトライアスロンのような持久系スポーツだけでなく、ボディビルダーの中にも(時期的に)カーボローディングのような食事をする方がいらっしゃいます。

 ボディビルディングにおいては、もちろん、筋肉をつけるためにたんぱく質の摂取が必要ですが、その際に、インスリンをたくさん分泌させていると、より筋肉がつきやすいので、たんぱく質に加え、糖質をかなり摂取するのです。

 確かにより筋肉がつきやすくなることは確かなのですが、同時に脂肪細胞にも糖質が取り込まれて中性脂肪に変換されるので、太ります。

 ボディビルダーの世界では、試合直前まではたんぱく質と糖質で栄養をとり(極力油脂の摂取を控え)、試合直前になると徹底してたんぱく質と油脂で栄養をとるという食べ方が一般的だそうです。

 確かにたんぱく質と油脂で栄養をとっていると、ファットアダプテーションと同様に脂肪を燃やそうとします。しかし、まだ4週間もたたないうちはアダプトしきれないので、脂質を利用しきれません。

 そうなると、体脂肪を分解し、ケトン体という物質に変化させて燃やそうとします。結果として、脂質を食べていても(食べているからこそ)体脂肪を減らしてきれいなボディを作るということになるわけです。

 これは、確かにボディビルディングのためには一見理にかなっています。しかし、糖質疲労(食後高血糖)を生じている場合には、頻回に血糖値スパイクを生じていることになります。気づけば若いのに動脈硬化症が進行しているということになりかねません。

 一般に、オリンピック選手(オリンピアン)は同年代・同性の人に比較して寿命が長いことが報告されています。運動そのものは寿命の延伸効果があるわけです。

 しかし、同じオリンピアンであっても、持久系のスポーツ(マラソン、競歩、自転車競技、クロスカントリースキーなど)に比較して、パワー系のスポーツ(重量挙げなど)では、そうした効果が小さいことも報告されています。ボディビルディングそのものはオリンピック競技にはありませんが、持久系スポーツ以上に食後高血糖を生じているのかもしれません。

 ボディビルディングまでいかずとも、糖質入りのプロテインドリンクを飲んで食後に倦怠感を感じているビジネスパーソンの方は、ぜひ、糖質の入っていない(人工甘味料で甘味づけされた)プロテインドリンクに替えていただきたいと思います。

プロアスリートでも糖質疲労がある

 実は、ファットアダプテーションの食事法をこれまで何人かのプロアスリートの方にお話ししてきました。

 数年前の書籍でご一緒したサッカーの長友佑都さん、最近、新聞の記事で対談させていただいたプロ野球の和田毅さんは、いずれも高い意識で自身の身体に向き合う中で、いまなら糖質疲労と呼べる体調不良を感じていらっしゃいました。そして、糖質の摂取がカギになっていることを(実は私がファットアダプテーションのお話をする前から)うすうす感じていらっしゃいました。

 そして、私がカーボローディングでは糖質疲労を生じて、かえって体調を悪くするアスリートがいることや、ファットアダプテーションと呼ばれる(内容としてはロカボの)食事法でパフォーマンスを改善させたアスリートがいることをお伝えしたところ、すんなりとその概念を受け入れてくださったのです。

 お二方が口をそろえておっしゃるのが、疲れなくなったのでパフォーマンスを向上できたことと、足のこむら返りが減ったことです。

 お二方のパフォーマンスの向上については、すでに欧米のアスリートでの糖質制限によるパフォーマンス向上の報告がありましたし、また、持続血糖モニタリング機器でのお二方の血糖変動の改善も確認していましたので、十分に予測ができました。

 しかし、こむら返りの改善はこれまでの論文や書籍での報告がありません。ただ、口をそろえておっしゃっているので、間違いのないことだろうと期待しています。

 考えてみれば、こむら返りはその機序の解明がまだまだ不十分です。ことによると細胞の内外での様々な物質の濃度の差異(たとえば筋肉細胞内のブドウ糖濃度と血液中のブドウ糖濃度の差異)が大きいと、筋肉の細胞膜が不安定になり、こむら返りを起こしやすくなるのではないかと想像しています。

 その意味では、パフォーマンスの向上だけでなく、ケガの予防にもよいのではないかと思います。

<本稿は『糖質疲労』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>


【著者】
山田 悟(やまだ・さとる)
医師。医学博士。北里大学北里研究所病院副院長、糖尿病センター長。
1994年慶應義塾大学医学部卒業。糖尿病専門医として多くの患者と向き合う中、2009年米医学雑誌に掲載された「脂質をとる食事ほど、逆に血中中性脂肪が下がりやすくなる」という論文に出会い衝撃を受ける。現在、日本における糖質制限のトップドクターとして患者の生活の質を高める糖質制限食を積極的に糖尿病治療へ取り入れている。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医、日本医師会認定産業医。著書に『糖質制限の真実』(幻冬舎新書)、『運動をしなくても血糖値がみるみる下がる食べ方大全』(文響社)など。「ロカボ」という言葉の生みの親でもある。

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