こむら返りが減ったアスリートが選んだ食事の秘密
ボディビルダーの糖質摂取は理にかなっているが身体を傷つける?
フルマラソン(42.195km)を走るような長距離ランナーが試合前に大量の糖質を摂取し、筋肉内のグリコーゲン量を上げ、持久力の最大化を狙う「カーボローディング」という食事法を実践することがあります。
ただ、カーボローディングはやり方次第で糖質疲労になってしまうこともあります。(詳しくは3月7日配信の「42.195kmに挑むランナー『直前の食事』何が適切か」で解説しています)
マラソンやトライアスロンのような持久系スポーツだけでなく、ボディビルダーの中にも(時期的に)カーボローディングのような食事をする方がいらっしゃいます。
ボディビルディングにおいては、もちろん、筋肉をつけるためにたんぱく質の摂取が必要ですが、その際に、インスリンをたくさん分泌させていると、より筋肉がつきやすいので、たんぱく質に加え、糖質をかなり摂取するのです。
確かにより筋肉がつきやすくなることは確かなのですが、同時に脂肪細胞にも糖質が取り込まれて中性脂肪に変換されるので、太ります。
ボディビルダーの世界では、試合直前まではたんぱく質と糖質で栄養をとり(極力油脂の摂取を控え)、試合直前になると徹底してたんぱく質と油脂で栄養をとるという食べ方が一般的だそうです。
確かにたんぱく質と油脂で栄養をとっていると、ファットアダプテーションと同様に脂肪を燃やそうとします。しかし、まだ4週間もたたないうちはアダプトしきれないので、脂質を利用しきれません。
そうなると、体脂肪を分解し、ケトン体という物質に変化させて燃やそうとします。結果として、脂質を食べていても(食べているからこそ)体脂肪を減らしてきれいなボディを作るということになるわけです。
これは、確かにボディビルディングのためには一見理にかなっています。しかし、糖質疲労(食後高血糖)を生じている場合には、頻回に血糖値スパイクを生じていることになります。気づけば若いのに動脈硬化症が進行しているということになりかねません。
一般に、オリンピック選手(オリンピアン)は同年代・同性の人に比較して寿命が長いことが報告されています。運動そのものは寿命の延伸効果があるわけです。
しかし、同じオリンピアンであっても、持久系のスポーツ(マラソン、競歩、自転車競技、クロスカントリースキーなど)に比較して、パワー系のスポーツ(重量挙げなど)では、そうした効果が小さいことも報告されています。ボディビルディングそのものはオリンピック競技にはありませんが、持久系スポーツ以上に食後高血糖を生じているのかもしれません。
ボディビルディングまでいかずとも、糖質入りのプロテインドリンクを飲んで食後に倦怠感を感じているビジネスパーソンの方は、ぜひ、糖質の入っていない(人工甘味料で甘味づけされた)プロテインドリンクに替えていただきたいと思います。
プロアスリートでも糖質疲労がある
実は、ファットアダプテーションの食事法をこれまで何人かのプロアスリートの方にお話ししてきました。
数年前の書籍でご一緒したサッカーの長友佑都さん、最近、新聞の記事で対談させていただいたプロ野球の和田毅さんは、いずれも高い意識で自身の身体に向き合う中で、いまなら糖質疲労と呼べる体調不良を感じていらっしゃいました。そして、糖質の摂取がカギになっていることを(実は私がファットアダプテーションのお話をする前から)うすうす感じていらっしゃいました。
そして、私がカーボローディングでは糖質疲労を生じて、かえって体調を悪くするアスリートがいることや、ファットアダプテーションと呼ばれる(内容としてはロカボの)食事法でパフォーマンスを改善させたアスリートがいることをお伝えしたところ、すんなりとその概念を受け入れてくださったのです。
お二方が口をそろえておっしゃるのが、疲れなくなったのでパフォーマンスを向上できたことと、足のこむら返りが減ったことです。
お二方のパフォーマンスの向上については、すでに欧米のアスリートでの糖質制限によるパフォーマンス向上の報告がありましたし、また、持続血糖モニタリング機器でのお二方の血糖変動の改善も確認していましたので、十分に予測ができました。
しかし、こむら返りの改善はこれまでの論文や書籍での報告がありません。ただ、口をそろえておっしゃっているので、間違いのないことだろうと期待しています。
考えてみれば、こむら返りはその機序の解明がまだまだ不十分です。ことによると細胞の内外での様々な物質の濃度の差異(たとえば筋肉細胞内のブドウ糖濃度と血液中のブドウ糖濃度の差異)が大きいと、筋肉の細胞膜が不安定になり、こむら返りを起こしやすくなるのではないかと想像しています。
その意味では、パフォーマンスの向上だけでなく、ケガの予防にもよいのではないかと思います。
<本稿は『糖質疲労』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>