自分は運がいいと思い込む人こそ「運がいい」根拠
「自分は運が悪い」と思っていませんか? 「運」とは、その人がもともと持っていたり生まれつき決まっていたりするものなのでしょうか?
運のいい人には共通した考え方や行動パターンがあり、運をよくするための振る舞いがあり、そして運はコントロールできる――。これらを脳科学的見地からつきとめて自分の脳を「運のいい脳」にするためのヒントを紹介したのが、脳科学者の中野信子さんによる『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』です。
運をよくするメカニズムの一つが、「自分は運がいい」と決め込んでプラスの自己イメージを持つこと。本書から一部抜粋、再構成してお届けします。
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運のいい人は「自分は運がいい」と思い込む
自分は運がいい人間だ、と決め込んでしまう。
これが運をよくするコツのひとつです。
何の根拠もなくていいのです。これまでに、自分にはこんなにツイていたことがあった、という過去の実績がなくてもかまいません。とにかく「自分は運がいい」と決めてしまうのです。
以前、直感力に関する調査結果を見たことがありました。
パートナーの浮気を見抜くのは男性よりも女性のほうが得意、というイメージがありませんか。
この調査を行った人も、女性のほうが男性より直感力がすぐれているという仮説のもとに調査を開始しました。実際、「自分は直感力がすぐれていると思うか」という質問に対して、「すぐれていると思う」と答えたのは女性のほうが多かったのです。しかし、いざ噓うそを見抜かせる実験をすると、わずか1%程度の微妙な差でありながら、男性のほうが噓を見抜いた人が多い、という結果になりました。
この実験で、主観的な直感力の尺度と客観的な直感力の尺度には開きがあることがわかったのです。
これは、自分で「直感力がすぐれている」と思っている人に、その根拠がほとんどないことがわかった、ともいえますね。
運についても同じようなことがいえるのではないでしょうか。
世の中には「自分は運がいい」と思っている人と、「自分は運が悪い」と思っている人がいますが、「運がいい」と思っている人に明確な根拠がある場合は少ないように思います。
つまり、これから「自分は運がいい」と決めようとしている人にも特別な根拠はいらないのです。
根拠はなくても「自分は運がいい」と決めてしまったほうが、実際に運はよくなるのです。
運がいいと思っていると努力の余地が生まれる
ではなぜそういえるのでしょうか。
たとえば仕事でうまく契約がとれなかったとしましょう。自分は運がいいと思っている人は、「自分は運がいいのに契約がとれなかった。ということは、準備の段階で自分にミスがあったのかもしれない。あるいは自分に勉強不足のところがあるのかもしれない」などと考えます。
一方、自分は運が悪いと思っている人は、「自分はこんなに努力しているのに、運が悪かったから契約がとれなかったのだ」と考える。
運がいいと思っている人には努力の余地が生まれますが、運が悪いと思っている人にはその余地は生まれないのです。
運がいいと思っている人は、努力次第で次回の契約がとれる可能性が高まりますが、運が悪いと思っている人はそうはなりません。
あるいは、夫婦や恋人同士などの人間関係。
運がいいと思っている人は、「私は運がいいからこの人と一緒にいられるのだ」と考えます。ケンカをしたとしても、「自分に至らないところがあったのではないか」などと思える。
しかし運が悪いと思っている人は、「自分はこんなに努力をしているのに、相手はわかってくれない。こんな人を選んだ自分は運が悪い」などと考えてしまう。
運がいいと思っている人は、パートナーとの仲をいっそう深めるチャンスが生まれますが、運が悪いと思っている人には生まれない。それどころかますます不仲のほうへと舵かじを切ってしまうのです。
実は、運がいいと思っている人も悪いと思っている人も、遭遇している事象は似ている場合が多いのです。しかしその事象に対するとらえ方、考え方が違う。対処の方法も違う。長い年月を積み重ねれば、おのずと結果は大きく変わってくるでしょう。
だからやはり、何の根拠もなくても「自分は運がいい」と決め込んでしまったほうがいいのです。
運のいい人はプラスの自己イメージをもつ
「自分は運がいい」という思い込みとセットにしてもち合わせたいのが、プラスの自己イメージです。
何か課題を与えられたとき、試験に挑戦するとき、スポーツの試合に出るときなどにプラスの自己イメージをもちます。するとそれが、結果によい影響を与えるのです。
たとえば会社で、難易度の高い、しかも重要なプロジェクトを任されたとしましょう。そんなとき、自分に対するよいイメージを思い浮かべるのです。
前回のプロジェクトも成功できたのだから、今回も成功できる。
むずかしいプロジェクトを任されたということは、日ごろの努力と成果が認められたということだ。
難関といわれる試験にも自分は合格できたのだから、今回も大丈夫! などというように。
あるいは、自分ならやれる、私ならできないはずがない、などでもいいのです。
プラスのイメージに特別な根拠はいりません。根拠のない自信さえあればいいのです。そのほうが、プロジェクトが成功する確率が高まるのです。
このことを証明する実験が、イギリスで行われたメンタルローテーションタスクの実験です。
メンタルローテーションタスクとは、ひとつの図形(平面の図形の場合もあれば、立体の図形の場合もあります)が示され、それと同じ形のものを羅列された5、6個の図形の中から選ぶ、というもの。羅列された図形のほうは回転して示されているために、ひと目で同じ図形を見つけるのは至難の業です。
「運がいい」という思い込みとセットで好循環に
メンタルローテーションは日本語で「心的回転」という意味ですが、文字どおり、元の図形を見つけるためには、頭の中で図のイメージを思い浮かべて回転させる必要があるのです。そしてこのメンタルローテーションは、一般的に男性のほうが女性より早くしかも正確に答えを出せる、とされています。
この実験では、アメリカ人の大学生にメンタルローテーションテストをやってもらうのですが、テスト前に簡単なアンケートが実施されました。実は、このアンケートがこの実験の肝なのです。
そのアンケートで性別の質問をされた場合、女子学生の正答率は男子学生の64%でした。一方、アンケートで自分の所属大学を質問された場合、正答率は男子学生の86%まで上がったのです。
被験者の多くは有名校のエリート学生でした。アンケートで所属大学を答えることで、私は有名大学のエリート学生だというプラスの自己イメージがわき、それがテストによい影響を与えたのです。
このように、プラスの自己イメージはパフォーマンスに直接影響を与えます。
そこで、何かに取り組むとき、何かに挑戦するときには、マイナスの自己イメージはなるべく排除する努力をして、できるだけプラスの自己イメージをもつようにするのです。
そして、このプラスの自己イメージは、「運がいい」という思い込みとセットにするとよいサイクルが回ります。
「運がいい」という思い込みとプラスの自己イメージをもっていると、新しい挑戦や課題に成功しやすくなります。成功すると「やっぱり運がいい!」と思える。自己イメージのレベルも上がるので、次の挑戦もしやすくなります。
また、仮に次の挑戦には失敗してしまったとしましょう。先ほども書きましたが、「運がいい」と思っている人はここで反省ができます。その反省から次への努力が生まれ、次の挑戦で成功できたとしたら、またよいサイクルに戻ることができるのです。
<本稿は『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
【著者】
中野信子(なかの・のぶこ)
東京都生まれ。脳科学者、医学博士。東日本国際大学特任教授、森美術館理事。2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。著書に『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)、『脳の闇』(新潮新書)、『サイコパス』(文春新書)、『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)、『毒親』(ポプラ新書)、『フェイク』(小学館新書)など。