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3〜9歳のコミュニケーション力を高める6つの習慣

「子どもに幸せになってほしい」

多くの親がそのように考えているでしょう。どうしたら幸せになれるかは人それぞれですが、年間500本以上の論文を読む東京大学客員研究員で医師の柳澤綾子さんは、「子どもが『自分は幸せだと思えるためにできること』がある」と言います。

そのうちの一つが、子どもが自分で人生を選択できるようになること。そもそも子どもの人生の選択のすべてを親が決め続けられません。まして、今のこどもたちが歩む社会は、親世代が生きてきた社会とはあらゆる面で変わってきています。

子ども自身が考え決めることで、子どもの人生は開け、本人の幸福感も高まります。

「自分で決められる子」になるために必要な力の一つが、「コミュニケーション力」。日々の暮らしの中でどんな習慣を取り入れられれば、コミュニケーション力を育めるのでしょうか。柳澤さんの著書『自分で決められる子になる育て方ベスト』より、3〜6歳、7〜9歳の子どもが日々の暮らしに取り入れられる習慣を世界の最新研究からご紹介します。

『自分で決められる子になる育て方ベスト』


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<3〜6歳 コミュニケーションの土台を作る>

「どうせ無駄」だけは絶対避ける

 親子のコミュニケーションで最も避けるべきこと。それは、「どうせ話しても聞いてもらえない」と子どもに思わせてしまうことです。

 この「どうせ聞いてくれない」「どうせ無駄」という感覚を「学習性無力感」といいます。

 学習性無力感とは、ペンシルバニア大学の心理学教授であった心理学者のマーティン・セリグマン博士が1967年に動物実験の結果から提唱した概念です。長期間にわたり逃れられない苦痛やストレスにさらされ続けると、「何をやっても状況を改善できない」という感覚を学習してしまい、そこから逃れようとする努力を放棄し、無反応になってしまう現象を指します。

 親がアクティブリスニングに徹し、子どもに話す機会をたくさん作ってあげれば、子どもが学習性無力感を抱くことはありません。

 今日からは、子ども自身が「話したい」と感じる機会を増やすことを第一に考えるようにしてみましょう。

まずは1分! あなたがあなたを甘やかして

 子ども自身が話す機会を持つ。そのときに忘れてはいけない視点があります。それは、「親の心の健康」です。

 親の心の健康は、子どもの心身の健康に影響を及ぼします。2020年にトロント大学の小児病院から発表された研究によると、「子どもとの関わりにストレスを感じていた」と答えた両親を持つ子どもは、3歳時点で友だちとの関わりや感情コントロールに問題を抱える可能性が、そうでない子と比べて2倍近く高くなるといいます。

 また、2021年にテキサス健康科学大学の心理学者らが発表した研究結果でも、不安を抱えている親を持つ子どもがうつ症状や不安感を抱く可能性に言及しています。

 それでは、親として何を心がけたらいいのでしょうか。

 親自身が心の健康を保てていないと、つい子どもの話を遮ったり、ながら聞きしたりしてしまいます。

 それらを防ぐために、「自分自身を甘やかすこと」を意識してみてください。小さなことから始めてみましょう。こっそりと好きなお菓子を食べたり、トイレにこもって推しの画像や動画を見たり、自分なりに自分を甘やかして適度に気を抜きながら子どもと向き合って話を聞いてみましょう。

 子どもが複数人いる方は、一人あたりの時間を短くしてもいいので、必ず一人ひとりに対応する時間を作るように心がけると良いと思います。できる範囲で最大限の「聞く姿勢」を示すことがアクティブリスニングの入り口になるのです。

食事中はスマホを手の届かないところに置く

 食事中に親がデジタルデバイス(スマホ)を手にした場合としなかった場合を観察した実験があります。

 2015年にボストンの小児行動学の研究者たちにより報告された研究によると、デジタルデバイスを手にした場合の方が、手にしなかった場合と比較して食事中の子どもへの言葉かけや、反応、口をつけていない食事に対する促しなどが少なくなる傾向が見られたそうです。

 スマホを見ることで親からのコミュニケーションが減れば、子どもは「自分よりもスマホの方が大切な存在なのだろう」と思ってしまいかねません。無意識に手を伸ばしてしまう可能性を減らす上でも、せめて食事中は普段いる場所からすぐに手が届かないところに置いておくようにしましょう。

<7〜9歳 コミュニケーションが「外」へと向かう>

身内以外の大人との会話をセッティング

 家族や親族などの身内以外の大人と話して、外に向けてのコミュニケーション力を育みましょう。

 まずは、お店の店員さんや図書館の司書の方、動物園や大きな公園のインフォメーションセンターの方などに、自分の言葉で話をする訓練をしていきましょう(もちろん、たくさん人が並んでいるような状況は避けながら)。

 こうした場所では、話しかけるタイミング、自分がしてほしいこと、してほしいことがどうすれば伝わるかなど、子ども自身が考えるチャンスがたくさん埋もれています。くれぐれも親が代弁してしまわないように心がけましょう。

 また、子どものコミュニケーション力に応じて、レベルアップしていく方法もあります。

 動物園を例に考えてみましょう。

 初めは、チケット売り場でチケットを買うような短い会話がおすすめです。「子ども2枚と大人2枚ください」といったようなイメージです。

 段々と慣れてきたら、「お昼ご飯までにライオンとゴリラを見たいです。おすすめの周り方を教えてください」といったように、自分が思っていることを伝えつつ、相手の意見を聞き出すコミュニケーションに挑戦してみましょう。

自分から挨拶する子になる魔法の言葉かけ

 コミュニケーションの基本といえば挨拶ですよね。幼児期(1〜6歳)には大きな声でできていた挨拶が、周りの目を気にし始めるこの年頃から少しためらうようになりがちです。

 ためらいがちになるのは、コミュニケーションに相手がいることを認識してくる時期だから。「大きな声で挨拶するのは恥ずかしいな」「挨拶したら相手は喜んでくれるかな?」こんな思いが、子どもの頭には巡っているのです。

 挨拶はコミュニケーションを図るせっかくの機会です。ここでも、44ページ(本書で詳しく紹介しています)でお伝えした「共感+深掘り」の技術が活躍します。

「大きな声で挨拶するのは恥ずかしいよね」と共感を示した上で、「でも、挨拶ってしてもらえたら気持ちがいいから、自分からしてみようか」とそっと提案してあげるといいでしょう。

「挨拶しなさい」と強制するのではなく、あくまでも子ども自身が「自分で考えて、決めたから挨拶している」という思いを抱けるようにしましょう。

読み終わった本のプレゼン大会を開催!

 本を読んでそのまま終わりにするのではなく、「読み終わったら、この本について一緒に話そうね」などと約束をして、本の内容や感じたことをプレゼンしてもらいましょう。

 人に伝えることを前提にして読むと、ポイントとなる部分を意識しながら読み進めることができるようになるといわれています。

 それができるようになってきたら、家族みんなでそのプレゼンをシェアして、意見交換をしてみましょう。

 1冊の本を読むのにもさまざまな視点があること、意見には多様性があること、感じ方は家族ですらも違うことを知られて、コミュニケーションに幅と多様性を生み出せます。

<本稿は『自分で決められる子になる育て方ベスト』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>


【著者】
柳澤綾子(やなぎさわ・あやこ)
医師、医学博士。東京大学医学系研究科公衆衛生学客員研究員、国立国際医療研究センター元特任研究員。麻酔科専門医指導医。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。公衆衛生学を専攻し、社会疫学、医療経済学およびデータサイエンスを専門としている。15年以上臨床現場の最前線に立ちながら、大学等でも研究し、海外医学専門誌(査読付)に論文を投稿。年間500本以上の医学論文に目を通し、エビデンスに基づいた最新の医療、教育、子育てに関する有益な情報を発信している。自らも二児の母であり、データに基づく論理的思考と行動を親たちに伝える講演や記事監修、執筆なども行なっている。『世界一受けたい授業』『J-WAVE TOKYO MORNINGRADIO』『VERY web』など、メディア出演、連載記事執筆多数。現在は株式会社Global Evidence Japan代表取締役として、母親目線からの健康と教育への啓発活動も精力的に行っている。著書に『身体を壊す健康法』(Gakken)がある。

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