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紀伊國屋書店で35年!“西のビジネス書のカリスマ”百々典孝さんが「戦略書」を薦める理由

 関西を代表する大型書店、「紀伊國屋書店梅田本店」。そこで長年にわたってビジネス書のコーナーを担当している百々典孝(どど・のりたか)さんに「ビジネス書」についてのインタビューを決行!

 書店員でありながら無類の読書家としても名高い百々さんが、今おすすめする本が『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』。いったいなぜ、この本に惹きつけられたのだろう。

『BIG THINGS』の担当編集者・サンマーク出版編集部の梅田直希が、まずはビジネス書の読み方から役立て方まで、「ビジネス書のいいところってなんですか?」というポイントから伺った。

(左) 紀伊國屋書店梅田本店 百々典孝さん
(右) サンマーク出版 統括編集長 梅田直希

■上司のすすめでビジネス書の担当に

梅田:大阪出身大阪育ちの僕にとって、梅田の紀伊國屋書店さんはまさによく通ったホーム。入り口のビッグマン*でよく待ち合わせしました。 
*梅田周辺の待ち合わせスポットNo1

百々:ありがとうございます! 大阪出身の編集者さん、とてもうれしいです!

梅田:今日はよろしくお願いします! 百々さんは書店員さん歴、どれくらいなんですか?

百々:1989年に紀伊國屋書店に入社だから……35年、書店員一筋ですね。

梅田:35年! 「西のビジネス書のカリスマ」とも伺っているのですが、35年ビジネス書担当なんですか?

百々:そんなことないですよ笑 けど、30年くらいはビジネス書を見てきましたね。入社してから、まずは文房具売り場を2年ほど担当したのち、様々な支店を回ってあらゆるジャンルの本の売り場を担当しました。ビジネス書の担当になったのは1992年頃のこと。当時はビジネス書の人気が高まっていて、上司に「ぜひやってくれ」と言われて、担当したのがきっかけです。

梅田:当時はどんなビジネス書が売れていたんですか。

百々:松下電器産業(現在のパナソニック)の松下幸之助さんを筆頭に、ソニーやトヨタ自動車など、日本を代表する企業を率いる経営者の本が人気でしたね。いわゆる日本型の経営手法が注目され、世界に広まっていったのはこの頃です。

梅田:売り場の担当になって、ビジネス書を読む機会は増えましたか?

百々:そうですね、僕はもともと雑食型の読書家なんですよ。小説、社会科学、自然科学、実用書……ジャンルを問わず、月平均で7~10冊、これまでに4000冊くらいの本は読んでいるかな。

梅田:4000冊!?

百々:はい。

梅田:ビジネス書から話が逸れますが、そんな稀代の読書家である百々さんが、一番面白かった本って聞いてもいいですか??

百々:僕は読書を通じ、「世界の理をすべて理解すること」を目標にしています。

梅田:世界のことわりを全部知る! (壮大!)

百々:そんな私に刺さったのは『137億年の物語 宇宙が始まってから今日までの全歴史』(クリストファー・ロイド/著、野中香方子/訳、文藝春秋/刊)です。

『137億年の物語 宇宙が始まってから今日までの全歴史』

地球の誕生から生物の進化、人類の誕生、文明の進化まで、俯瞰的にまとめられている名著ですよ。昨今の学問は、宇宙は宇宙、歴史は歴史、宗教は宗教、哲学は哲学といった塩梅に縦割りになりがちですが、この本は網羅的に理解することができます。

梅田:人類の英知が1冊にぎゅっと詰まっている、まさに1冊で世界の理に幅広くアプローチできそうな本ですね。

百々:そうなんです! 僕みたいに知識欲強めの人には超オススメです! 著者はどんな人かというと、学生時代に人文科学を学び、科学雑誌のライターをしていた方です。学校ではこういう総合的な学習が行われていないと気付いて編集した教科書なのだそうです。ご自身の子どもに向けた面もあるとか、ないとか。

梅田:我が子への愛から生まれた本……根本が強いですね。

百々:あと、紀元前500年頃にまとめられた『孫子』は、孫武が戦術の指針を理論的に書いた本で、現代のビジネス書にも通じます。混迷する現代人にこそ必読です。それこそ、全世界の人が読んだ方がいい本だと思いますね。

『孫子』(浅野 裕一 /著、講談社/刊)

■百々流、ビジネス書の読み方

梅田:百々さん、僕は結構ビジネス書を担当編集することが多いのですが、「ビジネス書の良さ」ってなんだと思いますか? すごく初歩的なことを聞くようで恐縮ですが、明確に答えられない自分がいまして……。

百々:ビジネス書の魅力は、実際の成功例や失敗例が、どんなジャンルの本よりもわかりやすく書かれていることです。ビジネスと戦争は、勝敗の結果次第で未来が明確に変わる最たるものですが、勝敗を分けた大きな転換点も、ビジネス書には克明に記録されています。

梅田:たしかに、命をかけた真剣勝負で勝敗がはっきりつき、その過程を勉強できるのは戦史とビジネスくらいかも。

百々:ほかの人のド真剣な経験や洞察を味わえるなんて、滅多にないことですよね。とても貴重な存在だと思います。

サンマーク出版刊のビジネス書の一部

梅田:百々さんは普段、ビジネス書をどのように読んでいるのでしょうか。「ビジネス書の選び方・読み方のコツ」ってありますか?

百々:時々刻々と社会は変化しています。急に円高になったら、円安の時代の常識は通用しなくなるかもしれません。それでも、人間の営みや名経営者の発想や考え方は、いつの時代も変わることなく通じるもの。そういった普遍的な事象に触れたいと思いながら、ビジネス書を読んでいます。

梅田:普遍性や普遍的真理を学べる、ということですか?

百々:良いビジネス書ほどそうですね!時代や流行に左右されない。

梅田:(良いビジネス書)グサッ

百々:歴史を紐解くと、利益、タイムパフォーマンス(タイパ)ばかりを重視してきた企業は生き残っていません。企業活動を通じ、社会をよくしていこうという発想をもつ企業が続いているのです。例えば、損をしてもいいから、地域に貢献するために頑張ろうと考えている経営者やビジネスパーソン、企業は急激な社会変容にも強い。これは、僕があらゆるビジネス書を読んでいて感じる普遍的なポイントで、経営者のトップオブトップたちが一様に辿り着いている真理だと思います。

梅田:ビジネス書はそうした真剣勝負のすえたどり着いた事実を書いている。仕事に活かせそうなこともたくさんありますよね。

百々:そうですね。で、ビジネス書のおすすめの読み方ですが、まず過去の成功例を「戦略」として知り、併せて「戦術」を学んでいくのがいいと思います。

梅田:戦略と戦術……

百々:まず戦略、その次に戦術という順番が大事です。「考え方」から「テクニック」へ、と言い換えてもいいと思います。

梅田:まずは大略を知るべし、と。

百々:戦略にこそ普遍性は宿っていますからね。過去の名経営者たちは誰もが知っている会社をいかに立ち上げ、発展させたのか。今、みんなが当たり前として使っている商品は、どのようにして生まれ、広まったのか。そうした学びを、自分の人生や会社に置き換えることができないだろうか、と考えながら読むのは人生にとってとても有意義だし、仕事においても有効だと思います。

梅田:過去の修羅場を経験したうえで生み出された戦略を自分のものにできる……即効性がありそうですね。

百々:ただ、なんでもかんでも即効性やタイパで測るのも、どうなのかと思いますけれどね。それこそビジネス書を読んで実感することなのですが、普段から人とたくさん会うように心がけている経営者は、いざ何かプロジェクトを動かそうとしたときに人脈が活きて助けてもらえることが多い。そして、プロジェクトを成功に導ける。

梅田:最近では、飲み会やパーティーはコスパが悪い、時間がもったいないと言って避ける人も少なくありません。

百々:いつの時代も、ビジネスは人との繋がりによって進むものなんですよ。タイパばかり考え、人と会わずに黙々と目の前の仕事ばかりをこなしていると、信頼関係が構築できません。せっかくプロジェクトの内容はいいものなのに、誰にも助けてもらえず、結果的に失敗してしまうのです。タイパ重視のテクニック系のビジネス書が多く出版されていますが、私個人としては読み応えある「戦略書」にぜひチャレンジいただきたいですね

梅田:ビジネス書は、テクニックの前に戦略書を読むべし。

百々:過去の人々が何を考え、どう行動してきたのか。ビジネス書には、そういった事実がたくさん書かれています。それを今の人類がどう活かし、未来に役立てていくのか、今こそ問われているといえます。

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◎対談の後編はこちら

文・構成=山内貴範
編集=サンマーク出版 Sunmark Web編集部
Photo by Shutterstock


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