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記憶力を保ちたい人からストレスを遠ざけたい理由

人間は人生に起こったほとんどのことを忘れてしまう生き物ですが、「楽しかった」「辛かった」など感情のコントロールを行うことができれば、記憶に残りやすくなります。しかし、逆に強いストレスにさらされてしまうと記憶には悪影響が及びます。

脳の仕組みを研究した精神科医の樺沢紫苑さんが、「記憶」と「学び」について20年以上の試行錯誤をわかりやすくノウハウとしてまとめた『記憶脳』から一部抜粋、再構成してお届けします。

『記憶脳』(サンマーク出版) 樺沢紫苑
『記憶脳』


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★ ストレスがかかりすぎると脳のほとんどの機能は低下する

 ごく短期間のストレスは、気つけ薬のような緊張効果によって、さまざまな脳機能の向上をもたらしてくれます。しかし、ストレスが長期化すると、脳に対して悪影響を及ぼします。

 ストレスがかかりすぎると、短期記憶と長期記憶が低下し、さらに集中力や学習能力も低下するのです。

 つまり、過度のストレスは脳のほとんどの機能を低下させるということです。

 では、なぜストレスがかかると、記憶力や学習能力が低下するのでしょう?

 ストレスが継続すると、副腎皮質からコルチゾールというストレスホルモンが分泌されます。また、記憶の仮保存所であり、「短期記憶」を「長期記憶」に置き換える、記憶のコントロールセンターともいうべき「海馬」には、コルチゾールの受容体がたくさん存在します。

 脳の他の部位よりもはるかにたくさんのコルチゾール受容体が存在するために、海馬はストレスに非常に弱いのです。

 コルチゾールは記憶を貯蔵するニューロンのネットワークを分断するとともに、海馬でのニューロン新生をストップします。

 ストレスによってコルチゾールが増えすぎた結果として、短期記憶、長期記憶、さらに新規の学習機能までもが、障害されるのです。

 うつ病の患者さんに、時に「記憶障害」が認められることがあります。うつがひどくて仕事を休んでいたときのエピソードや、入院したときの様子などを病気が治ってから質問しても「全く覚えていない」ということがあるのです。コルチゾールの海馬への悪影響が、そうした重度の記憶障害を引き起こすこともあり得るということです。

★ ストレスは脳細胞を破壊する!

 期間限定の軽度のストレスは記憶に対してプラスの作用をもたらしますが、ストレスが慢性化し、長期化すると、記憶に対して著しい悪影響を及ぼします。さらに、ストレスの程度が大きくなり、長期化するとコルチゾールは海馬に対して深刻なダメージを与えます。

 結論からいいますと、ストレスがかかると海馬の細胞が死んでしまうのです。

 これは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を対象にした多くの研究で示されています。

 東日本大震災前から仙台市内に住む大学生37人の海馬の大きさを、震災前と震災1年後で比較した研究があります。その研究によると、右側の海馬の体積が、約5%小さくなっていることがわかりました。震災によるストレスが、海馬の神経細胞死を引き起こしたと考えられます。

 アメリカでのベトナム戦争帰還兵を調べた研究でも、海馬に極端な萎縮が認められ、戦場でのストレスの影響だと考えられました。あるいは、幼児期に虐待された経験のある人を調べた研究でも、やはり同様に海馬の萎縮が認められました。

 このように長期的なストレスは、海馬の細胞を殺し、海馬の萎縮をもたらすのです。

 これらは極端なケースではあるものの、日常的なストレス、職場のストレスなどでも、コルチゾールは上昇します。

 日頃からストレスをためない生活をすること、ストレスを上手に発散することが、記憶力や学習能力を高めるために、最低限、やっておかなくてはいけないことなのです。

<本稿は『記憶脳』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

【著者】
樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医、作家。1965年札幌生まれ。札幌医科大学医学部卒。2004年から米国シカゴのイリノイ大学精神科に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。「情報発信によるメンタル疾患の予防」をビジョンとし、YouTube(48万人)、メールマガジン(12万人)など累計100万フォロワーに情報発信をしている。著書46冊、累計発行部数240万部のベストセラー作家。シリーズ累計90万部の『アウトプット大全』(サンクチュアリ出版)をはじめ、『神・時間術』(大和書房)、『ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社)、『言語化の魔力』(幻冬舎)、『読書脳』(サンマーク出版)など話題書多数。

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