見出し画像

「唐揚げ+マヨネーズに罪悪感はいらない」油を控える食事が健康に良くないと思い込んでいる人の大誤解

唐揚げにマヨネーズ。脂身のステーキ、バター。いかにもこってりしてなんだか健康に良くないのかと思いきや――。

糖尿病、肥満、高血圧症、脂質異常症という病気の前触れともいえるのが、医師/北里大学北里研究所病院院長補佐 糖尿病センター長の山田悟さんが名づけた「糖質疲労」。この状態で気づいて対処すれば深刻な病気になる前に戻れます。

そのカギを握る食事の新常識が脂質(油)との付き合い方。前編(食後やたら眠い人は要注意…糖尿病からの病気連鎖を招きかねない「糖質疲労」の正体/9月14日配信)に続いて『糖質疲労』(サンマーク出版)著者である山田さんのインタビュー中編をお届けします。

(聞き手・構成:武政秀明/Sunmark Web編集長)


糖質疲労の段階で気づくのは究極の未病対策

――睡眠不足や過労、睡眠時無呼吸症候群などの要因がないのに、食後に眠気を感じている「糖質疲労」が病気の始まりだと気づいていない人は意外と多い?

山田悟(以下、山田):その通りです。食後に眠くなる原因が食後に血糖値が急上昇→急降下する血糖異常にあっても、一般的な健康診断で測る「空腹時血糖値」が正常とされる110mg/未満だったら特段は引っかかりませんから、結果として気づかないまま放置されている人は多いです。

逆に本書『糖質疲労』で詳しく解説していますが、糖質疲労の段階で気づくと糖尿病・肥満・高血圧症・脂質異常症へとドミノ倒しに至る前に予防できる。究極の未病対策になります。

――その対策が前編記事でも解説くださった「食べ方を変えること」ですね(糖質をとる量を控えて、その分、タンパク質と脂質をお腹いっぱい食べて、食べる順番を意識する)。「唐揚げにマヨネーズをかけて食べてもいい」とか、「1日30品目でバランスの良いとされる食事が実は健康にいいわけではない」などの話も衝撃でした。

山田:本書『糖質疲労』の読者からは「今まで常識だと思っていた健康法が間違っていたケースが多くて驚いた」との反響が寄せられています。「脂質(油)を控えよ」というのはその一つで、好きで食べたかったのに健康のためにやむなく脂質を控えていた人が「唐揚げにマヨネーズでいいんだ」と喜んでいらっしゃる。

日本で油を控える風潮が広がった理由

――私も脂質つまり油物はとりすぎてはいけないと思い込んでいました。「油の吸収を抑える」と広告コピーを打ち出している食品・飲料もあるぐらいですから。

山田:日本でも昭和30年代にはフライパン運動(油いため運動)といって、油物を料理に使って一生懸命食べましょうと言われていた時代がありました。戦前の日本人に油料理が少なかったことから脂質をとろうという栄養指導の一環だったとされています。

ところがその後に脂質摂取量の多いアメリカ人の中に心臓病で亡くなる人が多いという研究結果が報告されました。当時この原因が砂糖(糖質)にあるのか、油(脂質)にあるのかと議論になったようなんですが、アメリカ上院議員のマクガバンという人が議会に提出した「マクガバンレポート」によって、砂糖ではなく油が悪者にされました。アメリカ人は脂質の摂取を減らして心臓病を予防すべきだという話になったんです。

それをきっかけに作られた当時のアメリカの食事摂取基準は脂質を控える方向になりました。ただ、そこからアメリカでは肥満と糖尿病がグッと増えたんですが…。

――当時、砂糖については問題がないと判断されたんですか?

山田:砂糖は問題がないという論文はいくつもありまして、その9割は業界団体がお金を入れたと見られています。

――砂糖業界は政策に影響を及ぼすためのロビー活動に長けていたということ?

山田:油にかかわる業界にはそれが足りなかったように思います。わかりやすく資金力のあるグローバルカンパニーがあるわけでもなかったからでしょうか。

アメリカの流れを受けて日本でも1980年代には油、特に動物性油は控えたほうがいいという概念が入ってきていました。私が小学生だった頃と重なりますが、給食に植物性油を使ったマーガリンがコッペパンに添えられていました。

英TIME誌が組んだ「バターを食べろ」特集の意味

――私も山田さんと近い世代なので同じ経験があります。動物性の油を使ったバターを食べすぎるとなんだか体に良くないんじゃないかというイメージを持っている人が多いように感じていました。

山田:はい、多いです。ところが、2013年に動物性脂肪(飽和脂肪酸)を控えることによって、かえって死亡率を上昇させてしまうという論文がシドニーのグループから発表されました。

それを受けて世界200カ国で2000万人が読むと公表されている英文週刊ニュース誌「TIME」が2014年6月発行誌の表紙に「Eat Butter(バターを食べろ)」と記して、20世紀の脂質制限の概念は間違いだったという特集を組んだんです。

――私の場合、トーストにバターを塗るなら薄く伸ばして食べていました……。

山田:トーストにバターは塗るんじゃなくて塊を乗っけて食べてほしいんです。ステーキの脂身も食べてもいい。脂質を控える食事法は50年近く健康に良いと信じられてきたのですが、実はなんの意味もない食事法だったということは、「科学的根拠(エビデンス)」に基づいてはっきりしているんです。

科学的根拠とひと口に言っても、個別の臨床研究の信頼度、つまりどれだけ強く因果関係を示しているのかにはレベルがあります。もっとも高いレベルは「無作為比較試験」です。

残念ながら脂質制限食の意義を検証した無作為比較試験の結果をきちんと把握できている医療従事者(医師や管理栄養士)があまり多くありません。医療従事者の中には今も脂質制限を推奨している人たちがいます。20世紀の栄養学はことごとく間違っていたのに、科学的根拠をもとにアップデートされた正しい情報・知識が広がっていない現実があります。

食事療法は一般人が自分で学ぶ価値がある

――病気に対する薬物療法について見てみると、最新知見を取り入れている医療従事者は少なくないですよね?

山田:製薬メーカーが医師に向けて食事付きの勉強会・講習会をホテルなどの大きな会場を借り切って開催するケースは多いですね。自分たちの薬を採用し、安全に使用してもらいたいからです。

ところが食品にかかわる会社にとって直接のメリットがないこともあってか、医師に向けての食事療法の講習会はほぼ開かれていない。そうすると自分で勉強するノウハウを持っていない医療従事者は未来永劫、新しい食事療法の情報が入らないんです。

――管理栄養士は?

山田:管理栄養士は制度上、医師の指示のもとの食事指導で点数が取れるから医師と違う見解の食事指導は事実上できません。薬剤師の場合は疑義照会といって、薬の飲み合わせで起こりうる副作用などの懸念があったら処方箋を書き直すように医師に求めることができるのですが、管理栄養士は医師に疑義照会ができない。

医師が患者に食事療法を指導するとしても1人あたりの時間もかかってしまうから診療報酬の面で見ると割に合わないし、治療は薬を処方する方向に行きがちです。

――全体の医療費も膨れ上がってしまうだけですね。だとすると食事療法は一般の人が自分で学んでいくしかない。

山田:薬の処方は医療従事者を介さないとなされませんが、食事は一般の人が誰でも自分で選び取れます。疾病予防とか未病対策という点で食事療法について、専門家にゆだねずに一般の人が自分で知識を得る意味は大きい。

「これさえ飲んでおけば大丈夫」と思い込まされるようなサプリなどを免罪符にせずに、本当に生きた食で健康になれるんです。本書『糖質疲労』を読んでいただいて望ましい食事療法の現実を知ってほしいです。

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)

山田 悟(やまだ・さとる)
医師。医学博士。北里大学北里研究所病院院長補佐、糖尿病センター長。1994年慶應義塾大学医学部卒業。糖尿病専門医として多くの患者と向き合う中、2009年米医学雑誌に掲載された「脂質をとる食事ほど、逆に血中中性脂肪が下がりやすくなる」という論文に出会い衝撃を受ける。現在、日本における糖質制限のトップドクターとして患者の生活の質を高める糖質制限食を積極的に糖尿病治療へ取り入れている。著書に『糖質制限の真実』(幻冬舎新書)、『運動をしなくても血糖値がみるみる下がる食べ方大全』(文響社)など。「ロカボ」という言葉の生みの親でもある。

◎後編はこちら

Book Lover LABO