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お客の隠れたホンネを見つけたい人に断然読んでほしい1冊

 調達コンサルタントとして活動し、テレビ、ラジオなど数々の番組に出演、企業での講演も行っている坂口孝則さんはさまざまなジャンルにまたがって毎月30冊以上の本を読む読書家。その坂口さんによる『センスのよい考えには、「型」がある』(著:佐藤真木/阿佐見綾香、サンマーク出版)のブックレビューをお届けします。

『センスのよい考えには、「型」がある』(サンマーク出版) 書影
『センスのよい考えには、「型」がある』

『センスのよい考えには、「型」がある』

 『センスのよい考えには、「型」がある』は、電通の社内勉強会から生まれた思考法を公開した一冊だ。副題は「感覚を言語化するインサイト思考」となっている。本書ではインサイトという単語が重要な位置を占め、「物事のインサイトを見つけるための全技術」が書かれている内容となっている。

  本書でも言及されているが、インサイトとは洞察と訳されるものの、ちょっと本書のニュアンスとは違う。深い思考の意味だけではなく、本書でいうインサイトとは「人を動かす隠れたホンネ」と定義されている。人を動かすとは、心を動かしたり、行動を促したり、人が動いてくれたり、人間行動に影響したり、ビジネスに結びついたり、といった定義がなされている。

  著者は広告代理店最大手・電通に勤める2人によるものだが、広告代理店に「勤める」とはかくも思考の極限に「努める」ものかとあきれるくらい面白い。

黒鉛筆か赤鉛筆か

  私は経営コンサルタントを生業にしている。ありがたいことにメディアで仕事をする機会も多い。ニュース解説などで出演、執筆する際には、その事件の本質を探り、そしてそこから教訓を抉り出そうと努めている。

 「あっ、なるほどね」。

  そんなふうに共演者や視聴者、読者からいってもらえると嬉しい。おそらく、これは誰もが共通する感覚だろう。あなたが出席している会議で「あ、なるほど、その視点は面白い」とか「その洞察はすごい。問題の輪郭がはっきりした」とかいってもらえると嬉しいはずだ。そして、その洞察を知ったあとは、物事の見え方が変わる。

  20年ほど前になるのだが、知人らとの雑談で「優秀な会社員とはどんな人か」といった話題に上った。そのときに「黒鉛筆的な人」という表現がでてきた。びっくりした。「赤鉛筆的な人は、他人が作ったコンセプトや資料に乗っかったり、批判したりすることしかできない。考えがないから白紙を差し出されても何も書けない」「黒鉛筆的な人は自分の考えがはっきりあるから、白紙に堂々と自分の意見を書ける。ゼロから1を作られる」と。

 「なるほどねえ。黒鉛筆的か」

 「そうそう。黒鉛筆会社員と赤鉛筆会社員」

  そこから私は癖のように、出会う人びとが黒鉛筆的か赤鉛筆的かを考えるようになった。なんとなく感覚ではわかっていたけれど、それが言語化されたときに衝撃が走る。大げさにいえば世界認識が変わる。そして世界への認識が変わるとは、世界の本質を捕まえるということ。本質をつかまえることによって他者を動かし、仕事も前進し、なにより楽しくなる。

セミナーアンケートから浮かび上がった意外な事実

 私の会社では定期的にセミナーを開催している。サプライチェーンや原価計算といったジャンルだ。私が登壇して講義を行う。そしてご受講者にアンケートをとる。先日に開催したセミナーのアンケートは衝撃的だった。そのセミナーは受講料が数万円なのだが、「このセミナーを受講するか、美容室に行くかを迷った」と自由記述欄に書いた受講者がいた。

 本来、勉強と美容室が同じ次元で比べられるはずはない。

 しかし、お金を払う側からすれば、お金を払って知識レベルが上がり仕事ができるようになる。あるいは、美容室にいけば素晴らしい髪型になる。両方とも人間として価値が上がる。モテるようになるかもしれない。

 この受講者にとって、セミナーにお金を払うのと、美容室にお金を払うのは等価というわけだ。「へええええ」と崩れ落ちた。なるほど、これは、たまたまこの受講者が書いてくれなかったら気づかなかった。

 美容室では自分の髪型が変わり、鏡で確認できる。1時間前と異なる自分がそこにいる。しかしセミナーはどうだろう。1時間前とセミナー終了後では疲労感はあっても、なかなか変化を感じにくい。セミナーのライバルは他講師のセミナーではない。美容室かもしれないし、マッサージ店かもしれない。

 そこでセミナーの冒頭に問題を解いてもらって、そしてセミナー終了直前に、もう一度やってもらうことにした。すると、冒頭では難解すぎてまったく手が出なかった問題も、終了間際ではなんなく解ける。さらに、この解けるようになったのを劇的に演出する。まるで美容室の鏡のように。そうするとご受講者の満足度が非常に高まったようだ。だって敵は美容室なんだからね。

 そもそも受講者がセミナーを受けたくて受けているわけではない。知識習得のあとに目的がある(あるいは上司から強要されたのかもしれない)。

『センスのよい考えには、「型」がある』に話を戻そう。本書では、インサイトを見つける手法論が明確に書かれている。同書の第2章を引用すると、次のとおりだ。

●日常の中の違和感に目を向ける
●違和感を抱いたのはどんな常識か?
●常識の裏には、どんなホンネが隠れているのか?
●隠れたホンネを、自分の納得いく言葉にする
●自分の言葉を、みんなに信じてもらう

『センスのよい考えには、「型」がある』P76より

 なるほど、私が自社で開催しているセミナーの受講者の話を書いた。常識を疑い、隠れたホンネを見つけ言語化して、社内で話して改善につなげる。なるほど、手順があったわけだ。

自己の感情と気付きがすべて

  本書では、人を動かすことが主眼になっている。しかし、結局のところ、人を驚かせるためには自分の感受性が豊かでさまざまなことに気づかねばならない。この自分の感情を起点としている。いやもっといえば、自分の感受性こそがすべてなのだ。

 そのためにはどうすればいいか……本書で書かれた方法論は単純で、メモを取ること。

 日頃から「自分の感情が動かされたとき」を、常に忘れないようにメモしたり、SNSにつぶやいたりしておくとよいでしょう。(中略)

 インサイトを見つけるときに大切なことは「普段の暮らしの中で感じる、自分自身の感情」に目を向けることと言えるのです。(中略)

 ◯新しいレストランでの料理に、想像以上に感情を揺さぶられたとき
→その食体験がなぜ特別だったのかを自分なりに分析してみる

『センスのよい考えには、「型」がある』P92、P97より

 日記やSNSで日常生活のなかでも気づきや違和感を、言葉にして書き出すことが、新たな世界観創造のきっかけともなる。日本は憲法で内心の自由が保証されている。口に出すのはご法度な場合でも、心のなかで何を感じ、何を考えても自由だ。

自分の抱いた感情に対して、良い悪いといった判断をせずに、冷静に眺めてみてください。(中略)
クチに出してはいけない感情はあるかもしれませんが、思ってはいけない感情はありません。あなたの「感情」こそが、あなた独自の「世界」であり、他の人と「違うものを見ている」というあなた自身の視点であり、意味であり、価値なのです。

『センスのよい考えには、「型」がある』P113より

 なるほど、本書は常識に固まった、くだらない常識人の殻を破ってくれる、人間解放宣言にほかならない。この解放された状況から隠れたホンネを探っていく。

 そして本書のメッセージはここに集約されると思っていい。インサイトはすべて自分というフィルターをかけて世界を眺めたときの成果物である。凡庸な考えしかもたないのであれば他者をはっとさせるインサイトなんてあるはずがない。感受性を高めるステップが本書に紹介されており大変に参考になる。

 本書では、このように見つけたインサイトをインタビューやアンケートなどで検証していく方法までが丁寧に描かれる。おそらく知的作業で対価=給与をもらっている人たちにとっては一読の価値がある。本書が提示する「型」は、電通という広告代理店で実践され磨かれてきた手法だ。だからこそ、理論だけでなく実践での効果も確認されている。

 逆説思考のススメ

 ところで、ここでこの原稿を終わってもいい。本書には感受性を高め、日常のなかから発見を繰り返すことの重要性が幾重にも書かれている。

 とはいえ、ねえ……。と思う人もいるかもしれない。そりゃわかるけれど、感受性を高めるたってちょっと抽象的じゃないの……と。しかし、大丈夫。同書には後半部分に、さらに具体的な思考の型を説明している。その多くは本書に譲る。ただし、一つだけ紹介する。同書のタイトルは『センスのよい考えには、「型」がある』だが、私が「まさにこの型って大事だよなあ」と唸った型だ。

 そのネーミングはズバリ「逆説モデル」。このように説明されている。

「逆説モデル」
みんな/世の中は、〇〇だと思っているかもしれないけれど(常識/定説)
実は/本当は、■■ではないか?と自分は思う。(仮説/推測)

『センスのよい考えには、「型」がある』P230より

 この型のコツは、強引にこの文章に当てはめる、ということだ。私はテレビにコメンテーターとして出演することがあるが、「逆説モデル」が有効なことを実感している。ある出来事について、人々が実際にどう思っているかは知らない。そうじゃなく、当てはめることによって発想を飛躍させるのだ。それこそがオリジナルの意見ともなる。

(編集:サンマーク出版 SUNMARK WEB編集部) 
Photo by shutterstock


 坂口孝則/調達コンサルタント

大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。

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