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本の「タイトル」を考える前に、知っておきたいこと -Book Lover REPORT vol.4

こんにちは。黒川精一です。サンマーク出版の代表をしながら、本の編集をしています。

本を書いたり編集したりしているときに、ずっと頭のどこかでモヤモヤしていることがあります。

「タイトルどうしよう…」

この難題が企画の段階で解決していることもあれば、もうすぐ校了という段階になってもまだ迷っていることもあります。本に限らず、Webの記事も、メルマガも、プロジェクト名も、商品名も、メールを書くときでさえも、すべて「タイトル」が必要で、その出来次第で結果は大きく変わります。

僕自身も、タイトルの重要性について深く考えさせられた出来事がありました。



◉タイトルを変えたら100万部に

「タイトル」は本の方向性や売れ行きを決定づけてしまうものなので、うまくつけられたときは爽快な気持ちになりますし、逆に、

「一生悔いが残る」

なんていう場合もあります。僕は2010 年に『たちまち体が温まる ふくらはぎ健康法』という本を編集したのですが、そのときは一度も増刷がかかりませんでした。

ところがその3年後。

その本を『⻑生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』というタイトルに変更して出し直したところ、なんとミリオンセラーになりました。

トーハン 調べ

2014年の年間ランキングでは第1位に(トーハン調べ)。今からちょうど10年前。懐かしいです...…。

ちなみに7位にランクインしている『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(ビリギャル)の著者・坪田信貴さんは僕の大切な友人であり、現在サンマーク出版の顧問もしてくださっています。

さて、この「ふくらはぎブーム」を機に出版界では『◉◉をしたければ◉◉をしなさい』というタイトル構文がフォーマット化しました。何気なく付け直したタイトルでしたが、こうも売上が激変したことで、

「タイトルって大切だ」


としみじみ感じたのを覚えています。

◉タイトルをめぐる攻防

まず、ここからお話しするのは、「タイトルを決めるまでに編集者や著者の間で起こるやり取り」についてです。

タイトル案は「降りてくる」「見つかる」「思いつく」などと言われるように、感覚的に決まる部分が大きいもの。しかし、それだけにとどまらない編集者同士や著者との議論・調整があり、その裏側で起こる“心理バトル”があります。本の方向性を左右する大問題を前に、はたして編集者と著者はどう折り合いをつけていくのか――。ここから具体的に見ていきます。

これまで多くの編集者がメソッドを語ってきた本のタイトル。編集者の数だけタイトルワークがあり、そこには「正解」らしきものが見当たりません。

また、タイトルが「降りてくる」のは「いつなのか」が語られることもよくあります。

編集者によっては「歩いているとき」「走っているとき」という人もいます。ちなみに僕は「シャワーを浴びているとき」に降りてくることが多く、これは「何かを思いつく」ことと「血流が良くなる」ことが関係しているからかもしれません。まあ、それはさておき、タイトルは

「降りてくる」のか
「思いつく」のか
「見つかる」のか
「考え抜く」のか

経験上、そのどれもが正解だと感じますが、一方で多くの後輩編集者たちと話す中でそのような表現では「タイトルの付け方」についてきちっとしたレクチャーができないことを痛感してきました。

感覚的には正しいけれど、理論的には説明しようがないのがタイトルの世界。 その結果、出版業界のあちこちの「タイトル決定の場」で、しばしば混乱や軋轢や悲哀を生んできた歴史があります。

今この瞬間も、編集⻑と担当編集、担当編集と著者による「タイトルバトル」が繰り広げられていることでしょう。

タイトルが最終的に決まるのは、本づくりの後半の段階であることが多いです。多くの出版社で行われているいわゆる“編集会議”“タイトル会議”には、編集長、営業部長、プロモーション担当などが一堂に会します。社長がいることもありますね。

担当編集はもちろん著者との調整役でもあるため、この場ですべてが否決されようものなら、一からやり直しになることも。

会議室には少しピリッとした空気が流れます。

  • 「もっと読者がパッと見てメリットがわかるほうが売りやすいんじゃないか」

  • 「著者の思いを大事にするなら、あえて誰も聞いたことがない言葉で攻めたほうがいい気がします」

  • 「そのタイトル、どっちつかずじゃない? インパクトも弱いし」

バッサリ切り捨てられるかと思えば、「悪くないね」という曖昧な評価で終わることもあります。

担当編集としては、著者が大切にしている言葉を活かしつつ、営業サイドが求める「売れ筋フォーマット」との折り合いをつけなければならないこともしばしば。みんなが納得するラインを聞いたり探ったりするうちに、何がいいのかわからなくなってくる――そんな緊迫感がタイトル決定の場にはつねに漂います。

著者は「この言葉をタイトルにどうしても入れたい」「ここは譲れない」といった強いこだわりを持っていることがあります。実際、編集者が著者の本音を聞いてみると、それは単なる思いつきではなく、長年の経験や理念から生まれたものだったりします。その深い理由に「なるほど」と唸ることも。

とはいえ、それを尊重しつつも、読者に伝わりやすいタイトルに仕上げなければ、せっかくいい内容でも埋もれてしまう危険があります。

  • 著者:「どうしてもこのフレーズを入れたいんです。私の活動の軸なので」

  • 担当編集:「わかりました。となると、サブタイトルはどうしましょうか。最初の案と両立させるのは難しいかもしれません」

  • 著者:「うーん。でも私の読者は、この言葉に共感してくれる人たちだと思うので……」

著者は“ファンが求めているイメージ”を大切にしたい。一方で編集者は、出版社サイドの意見を踏まえ「初めて目にする人にも届くか」という視点を大切にしたい。そこがかみ合わないと、タイムリミットが迫るなかでも試行錯誤が延々と続きます。

  • 「もう少し読者層を広げたいから、語感が難しすぎる言葉は避けたい」

  • 「最終的には“タイトルで売り上げが変わる”のが現実。そこは譲れない」

そんなせめぎ合いが、思いも寄らない角度からブレイクスルーを生むこともしばしばあります。

「どうせなら、もっとはっきり伝えたら?」

と誰かが言い出して、大胆な言い回しに変えた途端、著者が「これならイメージ通りかも」と乗ってくる。そうして完成したタイトルには、「著者の想い」と「編集者の戦略」の両方が詰まっていて、結果的に読み手にも強く響くものになることがあります。

こうした“タイトルバトル”の舞台裏は、あまり表には出ません。しかし、このような葛藤こそが、本作りの醍醐味でもあります。プロフェッショナル同士の思考と情熱、そしてギリギリの交渉によって生まれたタイトルには、どこか特有の“勢い”や“熱量”が宿るのかもしれません。

このタイトルをめぐる攻防戦は「人対人」だけで起こるのではなく、何より担当編集者の「心の中」で起きます。

「このタイトルで本当に正解なのか......」
「内容の良さが伝わっているだろうか......」

こういった自問自答バトルが繰り返されながら、「校了」という名のゴングによってタイトルが正式に決定し、後戻りできなくなります。

編集者が時折血迷ったタイトルをつけてしまうのは、自問自答をやりすぎてぐるぐると何周も回っているうちに、三半規管がおかしくなった結果です(こんなときは大目に見てあげてください。努力したんです)。

繰り返します。

タイトルは、

「降りてくる」のか
「思いつく」のか
「見つかる」のか
「考え抜く」のか

そのどれもが「個人技」のフィールドワークなので、今回はあえて言及することをやめておきます。個人技について過去の成果を伝えたところで、そこには「再現性」がないからです。その代わり、今回のレポートではまったく別の視点でのタイトルワークを提案したいと思っています。

「選ぶ」という視点です。

◉タイトルを決めるときは「地図」が必要

すでにタイトルは本の売れ行きを大きく左右する重要な要素であることがおわかりいただけたと思います。ですが、実際にどのようにつけたらいいのか――そのヒントとして多くの実用書やビジネス書、自己啓発書のタイトルは、大きく2つに分けられることをご紹介します。

「ベネフィット型(効能型)」「サジェスチョン型(提案型)」です。

このレポートでは、それぞれがどんな特徴をもち、どんなメリットとデメリットがあるのか具体例を交えながら見ていきます。この2つを知っておくことは、「タイトルを決める際のルートマップ」を手に入れるようなものです。
 
初めて登る山の頂上を目指すときに、どんなルートがあるかわからないのでは不安で仕方ありませんが、

東側と西側の2つのルートがあります。
どちらから登りますか?

と聞かれたら安心して選べるものです。ベネフィット型サジェスチョン型は、タイトルを決めるという山登りのような難題に対する2つのルートです。それぞれのルートのメリット・デメリットを知っておけば、自分がこれから作る本に合ったルートを選べるはずです。

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