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「物事は計画通りに進まない」を知る人のほうが負けない必然

 組織や団体、チームが勝利を収めるために綿密な計画を立てる――。一見すると理想的な流れですが、その計画が現実から離れてうまくいかないことも少なくありません。それは未来を見通しているようでいて、過去に根ざしたものだからです。

『NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘』よりお届けします。

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【著者】
マーカス・バッキンガム、、アシュリー・グッドール

【訳者】
櫻井祐子(さくらい・ゆうこ)
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『NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘』 サンマーク出版
『NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘』

エリート作戦部隊が「テロの下部組織」に連敗しつづけた

 スタンリー・マクリスタル大将は、恐ろしいほど変化の激しい世界に立ち向かうことを迫られ、またあなたとは比べものにならないほど大きなリスクにさらされていた。

 マクリスタルは著書『チーム・オブ・チームズ』のなかで、米陸軍統合特殊作戦任務部隊(特任部隊)の司令官として、どのようにして計画を立てていたかを説明している。

 特任部隊とは、米軍各部門の特殊部隊──陸軍のデルタ・フォースと第75レンジャー連隊、海兵隊のフォース・リーコン(武装偵察部隊)、海軍のネイビー・シールズ(海軍特殊部隊)、空軍のパラレスキュー(空挺救難隊)と戦闘管制班──を動員したチームで、その任務は2003年のアメリカのイラク侵攻後に、これらの部隊を率いてアルカイダのテロ組織と戦うことだった。

 マクリスタルは指揮を執り始めてから数か月のうちに、急襲作戦の計画、遂行、状況報告を驚威的なスピードで行う機構、通称「驚異の(オーサム)マシン」を完成させた。

 しかし、それでも戦闘に敗北し続けた。彼らが戦っていた敵は、指揮系統に頼らずに攻撃を計画し遂行できる、自律的で分散化され敏捷な、テロの下部組織(セル)からなっていた。

 マクリスタルの部隊の計画立案者がプロセスをどれだけ最適化しようと、先手を打てるだけのスピードは実現できなかった。情報収集から分析、目標識別、急襲計画、計画実行、事後検討に至るまでの従来型システムを、たとえ光速で走らせたとしても、十分なスピードを得ることは不可能だった。

 部隊は新たな攻撃に不意を突かれ、計画を立てた時点で存在した標的を探して、空き家にたどり着くこともしょっちゅうだった。

「近過去」を未来に起きると考えてしまう

 こんにち、こうしたすさまじいほどの変化はいたるところで見られる。

 9月に立てた計画は、11月には陳腐化している。1月に見直そうとする頃には、秋に書き出した職務や実施項目を覚えてもいない。

 かつてないほどの速さで出来事や変化が起こっているから、状況を細かく分析し綿密な計画を立てるのは、はかない現在を相手に格闘することに相当する。綿密で詳細な計画を立てるために多大な時間と労力を費やすことが、陳腐化の元凶である。

 プランニングと呼ばれるものは、どこへ行くべきかを教えてくれない。今どこにいるか、いや、さっきどこにいたかを理解する助けにすぎない。われわれが立てているのは未来の計画ではなく、近過去の計画なのだ。

 それに、計画立案者はどこにいるのか?

 会社の前線のはるか後方にいて、そもそも計画に必要な現実世界の情報を十分にもっていない。

 特定のプロダクトを特定の顧客に販売する計画を、日々販売現場に立ってもいない人たちが、どうして立てられるというのか? 立てられるはずがない。

 抽象的状況の概念的理解や動向をまとめた平均化データをもとに、セールスの「理論的モデル」をつくることはできる。

 だがセールスでの実際のやりとりの詳細──見込み客がいつ退屈するか、いつ身を乗り出すか、いつ話に割り込んでくるか──に根ざしていないモデルは、何をすべきかを教えるより、もしこうだったらという仮定を示すにすぎない。

 マクリスタルの課題という観点からいえば、これは一般原則をもとに計画を立てること(「間違った家を急襲する確率が25%」など)と、きわめて具体的な現実に根ざした計画を立てること(「容疑者がこの特定の家を特定の時刻に出た場合、この特定のターゲットをどうやって攻撃するか」など)の違いに相当する。

 残念ながらほとんどの計画、とくに企業の上層部による計画は、後者ではなく前者の方法で立てられている。

自らつくった計画に縛られる

 それに、たとえあなたが入念で綿密な計画を立てることができたとしても、きわめて静的で概念的で現実世界の実態とはかけ離れた文脈のなかでやるべきことを指示されたら、部下はいらだたずにはいられない。

 あなたの部下は、自分たちが実際にいる世界と関わり、ありのままの状態の世界に接することを望んでいる。

 事前に策定した計画に部下を縛りつけるのは、彼らの行動を制限するだけでなく、あなた自身がいかに現実からズレているかをさらけ出すようなものだ。

計画の性質

 とはいえ、計画はまったく無用だというわけではない。現実世界で入手可能な全情報を考え抜く場を設け、それをもとに何らかの秩序や理解を組み立てることには、それなりの価値がある。

 だが肝に銘じてほしいのは、それはチームが抱える課題の規模と性質を理解したにすぎないということだ。計画を立てても、状況をよりよくするために何をすべきかについては、ほとんど何も学んだことにならない。

 解決策は、ありのままの世界の具体的で変わりゆく現実のなかでしか見つけられないのに対し、計画とは必然的に近過去の抽象的理解でしかない。

 計画は解決策ではなく、問題を調べ上げるためにある。

 そんなわけで、最高の計画があれば勝てるといわれるが、現実はかなり違っている。

 多くの計画、とくに大企業の立てる計画は、過度に一般化され、すぐに陳腐化し、実行する側にとってはいらだたしい限りだ。

 それより、個性的な各チームメンバーの経験にもとづく詳細な情報を大いに活用して、チームの取り組みをリアルタイムで連携させたほうがずっとよい成果が得られる。

<本稿は『NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


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