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「共働きor専業主婦(夫)」子どもの将来に影響するのか

 「親の仕事」は子どもに影響する?

 ブラウン大学経済学部のエミリー・オスター教授は、経済学者として膨大なデータにあたり、そこから得た知見と、自身の子育て経験を交え、全てに科学的根拠を求めた『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』を著しています。

 そこで論じていることの1つのテーマが「専業主婦(夫)か仕事復帰かの議論で外せないこと」(3月26日配信)でも論じた『「家」にいる? 「仕事」にいく? 専業主婦(夫)か仕事復帰か』。

 前回記事に続いて、さらに掘り下げます。

『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』(サンマーク出版) エミリー・オスター
『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』

「親の仕事」は子どもに影響する?

片方の親が家にいることが子どもの成長・発達にとっていい(あるいは悪い)のだろうか?

 これはきわめて難しい問いだ。なぜかといえば、まず片方の親が家にいることを選ぶ家庭は、そうでない家庭と違うからだ。この違いは、親が家にいる・いないとはまったく関係なく、子どもに影響を与える可能性がある。

 第2に、親が仕事に出ている間に子どもがどう過ごすかが、きわめて大きな意味を持つ。子どもは大きくなれば全員学校に通うようになるが、もっと小さな子どもであれば、きちんとした保育環境にいるかどうかが、あらゆる面での成長発達に影響する。

 最後に、仕事をするということは一般にお金を稼ぐことを意味する。お金は家庭にとっても大事だが、お金があるからこそ親子が経験できる機会もある。すると、収入への影響と、子育ての時間への影響を切り離すのは難しくなる。

 こうした注意事項はあるが、データを掘り下げることはできる。

長く「育児休業」してもとくに影響はなし

 まず、多少の因果関係を示すエビデンスがある分野から始めよう。最初の数年間を1人の親が家で過ごした場合の影響である。

 まず、親が家にいた場合の子どもへの影響について、その期間がたとえば1年間と6か月間、あるいは15か月間と1年間ではどう違うかを評価したヨーロッパとカナダの論文がある。これらの国では、国の政策で出産・育児休業が何度か延長され、右のような期間の変更があった。

 この文献では、親の選択ではなく、政策の変更が研究に利用されているので、結論の信頼度は高い。出産・育児休業期間が6か月から1年に延長になったことで、一部の女性は6か月ではなく1年間家で過ごすことになった。「6か月間」の休業制度下で生まれた子どもと、「1年間」の制度下で生まれた子どもを比較することで、両親の間の根本的な違いを気にせずに、育児休業の効果を知ることができるのだ。

 結論としては、育児休業の延長による子どもへの影響は何もなかった。子どもの学校の成績、成人してからの収入、そのほかにも影響はなかったのだ。

学校成績トップは「パートタイム」×「フルタイム」家庭

 このエビデンスは、乳幼児期の親の就労に焦点が絞られている。子どもがもっと大きくなったときの、親の就労の影響を調べた研究は、因果関係ではなく、相関関係を評価したものに限られている。それでも何件かの研究はあり、学業に関するエビデンス(学力テストの得点、卒業の有無)を探してみると、相関関係はおよそゼロになる傾向があった。

両親がフルタイムで共働きでも、片親が働き、片親が働いていない場合でも、結果は同様だった。

 結果には解釈が微妙なものも含まれている。

 よく見られたのは、1人の親がパートタイム、もう1人がフルタイムで働くという家の子どもは、学校の成績が一番いい傾向があったことだ──両親がフルタイムで働く家庭や、1人の親はまったく働かない家庭よりもよかったのだ。これは就労形態によるものかもしれないが、私はおそらく家庭間の違いが原因だろうと考えている。

貧困家庭は「両親共働き」がプラスになる

 また、両親が働いていると、より貧困な家庭の子どもにとってはプラスの影響があり(つまり働いているほうがいい)、より裕福な家庭の子どもにとってはそれほどプラスではない(あるいはわずかにマイナス)影響があるという傾向が見られる。

 ここで比較されたのは、学力テストの得点、学校の成績、肥満といった結果だ。

 研究者が解釈しがちなのは、貧困家庭では両親が働くことで得られる収入が子どもの発達成長に影響し、一方裕福な家庭では、親と一緒に「より充実した経験」をする時間が失われたことが影響したということだ。

 それはありうることだが、こうした評価は、相関関係だけなので、データから多くを読み取ろうとしても難しい。たとえこうした解釈を受け入れたとしても、注目されているのは子どもの活動であり、育児休業制度ではないことになる。

「子どもの将来」を左右する話ではない

 最後に、共働きだと(とくに母親が働いていると)娘も後に働く可能性が高まり、性別によるステレオタイプが少なくなると主張する人がいる。

 面白い説だし、子どもたちが自分をモデルにすると思うと気持ちがいいだろうが、このデータのほとんどは、アメリカとヨーロッパの比較から得られたものであり、この効果の原因が母親の就労なのか、別の違いによるものなのかはわかりづらい。

 まとめると、エビデンスの重さから、親の就労が子どもの成長発達全体に及ぼす影響は小さいかゼロであることが示唆される、と私は考える。

 家庭の状況により、この影響は多少プラスかマイナスになりうる。だが、働くことを決めたからといって、その決定が子どもの将来の成功を約束するわけでも、壊すわけでもない(そもそもそんな決定はないと思うが)。

<本稿は『米国最強経済学者にして2児の母が読み解く子どもの育て方ベスト』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
エミリー・オスター(Emily Oster)
米アイビーリーグの名門校、ブラウン大学経済学部教授

【訳者】
堀内久美子(ほりうち・くみこ)

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