「売れる本の表紙デザイン」に法則はあるのか? 【BOOK TALK vol.3】
Sunmark Web 「BOOK TALK」は、サンマーク出版のPR戦略室で働く新井俊晴と杉本耕亮が、「本の世界」で働く人たちの奮闘記をお届けする対談記事です!隔週月曜日に配信しています。
前号では広告担当の新井くんと、新聞の部数がどんどん減っていくなかで「新聞広告の効果を最大化する方法」を考えてみました。ちょっと社長批判⁉︎も飛び出しヒヤヒヤしましたが、どうにか大丈夫だったようです(笑)
BOOK TALK vol.2
本をどう売るか会議②「新聞広告の効果は新井くんに聞いてみた」
はこちら!
今回のテーマは「売れる本と売れない本の、表紙デザインの違いとは⁉︎」という全出版人注目のテーマ。本って、表紙のデザインと雰囲気で売れ行きが大きく変わっちゃうんです。
このテーマを、営業の視点、PRの視点から、過去10年のベストセラーの表紙を分析した結果、「売れる表紙デザインの法則」が見えてきましたよ。さて、その法則とはいかに!
それではBOOK TALKスタートです!
永遠のテーマ 「本の表紙デザイン」 を考える!
新井俊晴
みなさん、こんにちは!「BOOK TALK」へようこそ!サンマーク出版PR戦略室、人呼んで”ひとり広告代理店”の新井です。
杉本耕亮
同じくPR戦略室、兼営業部、人呼んで”ハイブリッド営業マン”の杉本です!
新井 Sunmark Web「BOOK TALK」は、本の世界で働く人たちの奮闘記をお届けする対談です。書店さんや販売会社さん、著者さん、出版社のみなさん、そしてこれから出版業界を目指す方たちのお役に立てればうれしいです!
杉本 今回は、僕が書店さんに言われた「あるひと言」をきっかけに、
「売れる本の表紙に法則ってあるの?」
について考えていきたいと思います!
◎「18分間」に勝負をかけろ
杉本 先日、営業でお邪魔した書店さんにあることを言われて衝撃を受けたんです。その話からしていいですか?
新井 え、なになに?
杉本 書店さんにくるお客さんって、「目的買い」みたいに特定の本を探しにくる方以外は、売り場を見て回るじゃないですか。それで気になった本を手に取って、パラパラと立ち読みして、本の内容がいいと感じたら買ってくれる。
新井 うんうん。そうだね。僕ら出版社は、その本がいかにお客さんの人生に役立つか、本を作っていく…! 出版社の醍醐味だ!
杉本 ね!そう思うじゃないですか。でも、いまはもうそれじゃダメなんですって…。その書店さんはこうおっしゃっていました。
「問題はどうしたら買ってもらえるかじゃない。
どうしたら手に取ってもらえるかなんですよ」
新井 えっ!どういうこと?
杉本 そもそもほとんどの本が、お客さんの手に取ってもらえない。中身が「いい/悪い」以前に、それを判断してもらうスタートラインに立てないんですって。しかも最近、「そのハードルがさらに上がっているように感じる」っておっしゃってたんです。
新井 なるほどなあ。僕らはどうしたら「買ってもらえるか」ばかり考えがちだけど、まずはどうしたら「手に取ってもらえるか」をクリアしないと、その先に進めないわけだ。しかも、最近さらにハードルが上がってるっていうのは、なにか理由があるのかな?
杉本 「店頭の滞在時間が短くなった」とか「似たような本が集まり過ぎている」とか、そういう理由があるのかもしれません。今、お客さんが書店にいる滞在時間って「18分」って言われているんです。その間に「手に取って」もらわないといけない。
新井 18分! その間に手に取ってもらわないとチャンスがなくなるわけだね。ということは大切になるのが本の・・・
杉本 そう、表紙です!ある書店さんは、抜きん出るような表紙のものが少ないと嘆いていました。もっともっと表紙に対してクオリティを上げる努力をしてほしいと。
新井 なるほど。「表紙のクオリティ」かあ。「本は見た目が9割!」ってことだね!
◎過去10年のベストセラーから導く「売れる表紙の法則」とは
杉本 とはいえですよ。我々は編集者でもなければ、デザイナーでもないじゃないですか。だから、過去のデータから紐解くしかないなと。
新井 さすが、データの鬼!だてにパブライン(紀伊國屋書店さんの実売データ)を1日50回見てないね。
杉本 いや、60回は見ますよ。えーと、過去のベストセラーを分析するために、10年分(2014年から2023年)の年間ベストセラーの表紙を持ってきましたよ!
新井 おおっ!!10年分!!
杉本 そう!きっと過去のベストセラーを振り返れば、そこにはなんらかの傾向が見えてくるんじゃないかなぁと思いまして…。
新井 10年間のベストセラーから、統計的に「売れるカバーの法則」を導き出すと…。
これ、書籍編集者の皆さん必読じゃないですか!
杉本 そうですよ!必読です!絶対にお見逃しなく…!ただ、全ジャンルでやってしまうと、すこし傾向がブレてしまいそうなので、今回は「ビジネス書」に限らせていただきました。
新井 ビジネス書の年間ベストセラー10年分…。それでも単純に10点×10年で100冊になるよね。ひゃー、大変だ。じゃあ一点一点見ていきますか!
杉本 まってまって(笑)。それやってたら日が暮れちゃうので、事前に要素別に分析しておいたんです。
新井 要素別に?どういうこと?
杉本 本の表紙の「構成要素」に何があるか、独断と偏見で分解してみたんです。この「6つ」に絞りました。
新井 わかりやすい要素だね。
杉本 たとえば、2022年の年間ベストセラーに入ったサンマーク出版の『運動脳』はこうです。
①表紙の色・・・緑
②文字の色・・・黒
③タイトルの文字数・・・3文字
④タイトルの組み方・・・ヨコ
⑤著者写真の有無・・・アリ
⑥イラストの有無・・・アリ
新井 緑黒三文字ヨコアリアリ。確かに、こうやって分解すると傾向が見えてくるね。
杉本 うん、そうなんですよ。
◎ヒット本の6割が「〇色」だった!
新井 こうやって100冊もビジネス書を調べてくれたんだねぇ。変態…!
杉本 ほめ言葉と受け取っておきます(笑)。厳密に言うと100冊ではなく、複数回ベストセラーリストに入った商品があるので68冊です。68冊のビジネス書ベストセラーから法則を導き出しました!
新井 あー、『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)なんて、10年連続ランクインだもんね…。
じゃあさっそく「ベストセラー」になるカバーについて聞いていきます。まずは、何色がいいの?
杉本 色ですね。これはわかりやすい傾向が出ましたよ。
圧倒的に白です!
68冊のうちなんと40冊、58.8%が白でした!
新井 へー、6割近くも!
杉本 さらに、今回「ベージュ」って分け方もしたんだけど、これも「白系」とカウントすると70%を超えてくるんです。
新井 これは圧倒的だねぇ。やっぱり白って「信頼感」があるから、ビジネス書と相性がいいってことかな。その次に多い青も、やっぱり知性的な色だよね。
杉本 そうなんですよ。そもそもビジネス書って白い本が多いので、編集者的にはちょっと目先を変えたくなるみたいなんですけど、勇気をもって白とか青を選択してもらいたい(笑)
新井 おー、営業としての切実な叫び(笑)。そういえば、僕の本棚も白と青が圧倒的に多い気がする!
杉本 でしょ!ぼくもそうです。やっぱり人間が何かを「学ぼう」とするときって、信頼できるものから学びたいって思うんじゃないですかね。
新井 白は信頼の色だものね。意外だったのは黒が『SHOE DOG』1冊しかないことでした。黒もけっこうビジネス書のイメージあるんだけど…。
杉本 そうなんです!ぼくも意外でした!
ただ、いちおう言っておきますと、年間ベストセラーって「トーハン調べ」と「日販調べ」がありまして、今回のデータ調査にはトーハンさんのランキングを使っているんです。
じつは去年、日販さんのランキングでは黒い本が入ってまして…。
新井 確かに、それきちんと言っておかないと怒られるよ、あの人に。
杉本 そうそう。だからちゃんと言っておこうと…。2023年のビジネス書ランキング(日販調べ)では、『1年で億り人になる』(サンマーク出版)が9位にランクインしてます!
◎タイトルは「9文字以下」が正解!
新井 色は「白」。じゃあ、次の「文字の色」はどう?
杉本 もちろんカバーの色にもよりますけど、タイトルの文字の色は「黒」が52%。やっぱり白いカバーには、文字は「黒」がほとんどです。ただ、差し色的に他の色を使っているものは多いですね。
新井 なるほど。白い表紙が多いから、タイトルの文字の色は黒になりやすいというのもあるのかもね。白も黒も信頼の色だ。じゃあ、「タイトルの文字数」はどう?
杉本 これ、もうぼくのなかで最適解があります!先に言っちゃいますね。
タイトルは「9文字以内」におさめてください!
新井 9文字…!9文字じゃほとんど言えることないよ…(笑)
杉本 厳しいとは思いますが、これもデータで出てます。ここ10年間のベストセラーの約半分、47%が9文字以下です!
新井 9文字以下かあ。でも、たしかに広告担当としてもそれくらい短いとやりやすいなあ。僕は新聞広告や電車広告を作ってるでしょ。これらは紙面のサイズが限られているから、タイトルの字数が多いと文字が小さくなるし、他の要素が入りにくいしで大変なの。これ見てよ!
杉本 タイトルなが!
新井 社長の黒川さんが2016年に担当した本なんだけど、タイトルの文字数がさ・・・
杉本 ・・・25、26、27、・・・32文字⁉︎
新井 そうなの!広告作るの大変だったよ。あ、また社長批判してしまった(笑)
杉本 この対談、「社長批判」が恒例になってきましたね(笑)。広告と同じで、本の表紙も限られたスペースだから、字数が少ないほうがしっかり見せられますもんね。それに「18分間の勝負」だとすると、字数が少ないほうが認知されやすい。
新井 正確に伝えようとすると、どんどん文字数って増えちゃうんだよね。そうすると文字のサイズは小さくなっていって…。伝えたい思いがどんどん逆効果に…。恋愛みたいだなあ♡
杉本 なんでやねん(笑)。無視して続けますよ!
①表紙の色・・・白
②文字の色・・・黒
③タイトルの文字数・・・9文字以下
④タイトルの組み方・・・?
⑤著者写真の有無・・・?
⑥イラストの有無・・・?
ここまで3つ見てきました。ここから後半戦いきますよ。次は「タイトルの組み方」です。
◎ついに完成!BOOK TALK的ベストセラー表紙の法則
新井 タテなのか、ヨコなのか⁉︎
杉本 これはタイトルの長さにもよるのですが、「ヨコ組み」が63.2%で、「タテ組み」のほぼ2倍でした!
新井 ヨコかあ。確かに僕の本棚にある本も「ヨコ組み」が多い。あとは、写真とイラストだけだね!
杉本 (本棚の本少ないくせに…)写真とイラストは、ここまでの要素とは違って、「なくてもいいもの」なんですよ。そもそも写真とかイラストの「役割」ってなんでしょうね?
新井 著者の写真は、やっぱり知名度があれば入れたいよね。スティーブ・ジョブズとかイーロン・マスクとか…。ひと目見て、その人の本ってわかるし。
杉本 たしかに。ちなみに写真を使っているのが22点で、全体の32.4%ですが、著名な方以外の本では写真を使っている表紙はありません。
新井 うんうん。ということは、「写真は基本ナシ」でもOKということね。
イラストは全体の雰囲気をやわらかくする役割かな?文字だけだと、ちょっと難しそうに見えたりするから。最近のベストセラーはイラストを使用したものが多くない?
杉本 そうなんです!最近すごく多いんですよ。2023年には『頭がいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)、『お金の大学』(朝日新聞出版)、『運動脳』(サンマーク出版)の3点がランクインしてます!
ここ10年では写真とまったく同じで22点・32.4%なんですが、2020年くらいから増えてきている傾向にあります。
新井 ということは、最近のトレンドとしては「イラストを使う」っていうことだね。これで全部条件が出そろいました!
杉本 はい!まとめますよ!
BOOK TALK 的
ベストセラー表紙の条件
*
①カバー色・・・白
②タイトル文字・・・黒
③文字の組み方・・・ヨコ
④タイトルの文字数・・・9文字以内
⑤写真・・・著名人以外は使用しない
⑥イラスト・・・うまく使う
これでどうでしょう!
新井 おお!すごくわかりやすい!
杉本 でしょ!
新井 これってさ、すっごい王道だよね。王道のビジネス書!
杉本 そうなんですよ。編集担当は本をつくるとき、営業担当は本の売り場をつくるとき、宣伝担当は広告をつくるときに持たなきゃいけない意識って、「王道をつくる」ってことなのかもしれませんね。
新井 つい「奇をてらう」方向にいっちゃうときがあるものね。「王道をつくる」って大事だ。
杉本 そんな王道感があって、今回の要素をすべて含む新刊、見つけちゃったんですよ。
新井 えっ!ほんとに!今回は宣伝ナシと思ってたのに…(笑)
杉本 いや、せっかくなので、宣伝抜きでもご紹介したい…。ほんとにこの条件を全部満たしてて、「おおお!」って声出ました。
新井 ほんとだ!条件をぜんぶ満たしてる!!
杉本 これ、4月の勝負商品なんですよ。下旬の発売でして、数店舗の書店さんにお願いして、いま先行販売をしています。
そしたら、ものすごい売れ行きがよくって!!
新井 数字見ました。すごいよね!初版部数が多いので不安もあったけど、今日の話ですごい勇気がわいた!
杉本 売りましょう!王道感だして!
新井 2024年の年間ベストセラー、狙おう!
手のひらに、一冊のエネルギー。
サンマーク出版の新井と杉本がお送りいたしました!