なぜ、宝くじの当選金額はどんどん高くなっていくのか
ジャンボ宝くじ、ロト6、ロト7――。宝くじの1等賞金は高額化の歴史をたどってきました。
宝くじ公式サイトによれば、平成元(1989)年1億円(1等6000万円と前後賞各2000万円、年末ジャンボ宝くじ)だった宝くじの最高賞金は、平成27(2015)年に10億円(1等7億円と前後賞各1億5000万円、年末ジャンボ宝くじ)まで拡大しています。
なぜ、宝くじの当選金額はどんどん高くなっていくのでしょうか? そこには「確率の無視のワナ」があります。『Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法』よりお届けします。
当たる「金額」と「確率」、どちらを重視すべきか?
2種類の宝くじがある。1つは「10億円」が当たるくじ。もう1つは「100万円」が当たるくじ。あなたはどちらを買うだろうか?
1つ目のくじに当たれば人生は変わるだろう。仕事を辞め、すぐに利息で生活できるようになる。2つ目のくじでは、最高賞金を当ててもカリブ海の豪華な旅を楽しんだら、それでお金はなくなってしまう。
くじに当たる確率は、1つ目のくじが「1億分の1」、2つ目は「1万分の1」。さて、あなたはどちらを選ぶだろうか?
客観的に見れば、2つ目のくじのほうが当たる確率ははるかに高いわけだが、わたしたちは1つ目のくじに惹かれてしまう。当選確率がどんなに低かろうが、宝くじの1等の当選金額がどんどん高くなっていく理由はそこにある。
1972年に行われた実験は有名だ。実験の参加者はAとB、2つのグループに分けられた。
グループAのメンバーは、「必ず電気ショックを受ける」と伝えられた。グループBには、「電気ショックを受ける可能性は50%」、つまり半分の確率だと伝えられた。
研究者は、被験者の肉体的な興奮度(心拍数や手のひらの発汗具合、緊張の度合いなど)を、電流が流れると思われるタイミングの少し前に測定した。
結果は驚くべきものだった。A、B、両被験者の間には、興奮の度合いに差が見られなかったのである。両方のグループの被験者は、まったく同じように反応していた。
その後、研究者は、グループBの電気ショックを受ける確率を20%、10%、それから5%と下げていった。それでもなお、グループAとBの間に差は見られなかった!
電圧を強めると、両グループの被験者の肉体的な興奮度は高まった。けれども、両グループの間に反応の違いは見られなかった。
つまり、わたしたちは、ある出来事(たとえば当選金額の大きさや電圧の強さ)の予測される「結果の規模や程度には反応する」が、そのことが起こる「確率には反応しない」ということだ。
言い方を変えれば、わたしたちは「確率を直感的に理解する力」をあまりもっていない。起こる確率は考えずに、事実だけに反応してしまう落とし穴を「確率の無視のワナ」と言う。
「リスク」を計算することを忘れてはいけない
この落とし穴にハマるのは、たとえば起業したばかりの企業に投資するようなときだ。
わたしたちは、手にすることができるかもしれない「利益」に惹きつけられる。しかし、そもそも立ち上げたばかりの企業が、期待しているほど大きな利益をあげる「確率」がどれほどあるかを割り出すことを忘れている(または、面倒なので計算しない)。
あるいは、大規模な航空機事故が起きたというニュースを耳にしただけで、飛行機が墜落する「確率」はほんのわずかしかないことを忘れ、自分が予約していた飛行機をそそくさとキャンセルしてしまう。航空機事故が起こったあとでも事故が起こる確率は以前とまったく変わらないというのに。
多くのシロウト投資家は、利回りだけを考えて投資先を比較する。彼らには、利回り20%の急成長を遂げる企業の株への投資は、利回り10%の不動産投資よりも2倍の利益があるように見えるだろう。
分別があれば、さまざまな側面から2つの投資先のリスクを比較するのだろうが、多くの投資家には危険に対する感覚が欠けている。そのために、「リスク」を計算するのを忘れてしまうのだ。
電気ショックの実験に話を戻そう。グループBが電気ショックを受ける確率はさらに5%から4%、3%へと下げられていった。結局、確率が0%になるまで、グループAとBの間には異なる反応が見られなかった。
ほんの少しでもリスクが残っているのと、まったくない状態とでは大違いなのだろう。
さて、次の大きさの同じ2都市における飲料水の浄水処理を比較し、どちらを実施するかを判断してほしい。
作業Aを実施すると、不衛生な水が原因で死亡する率が5%から2%に減少する。作業Bを実施すると、1%から0%にすることができる。つまり、完全に浄化されるわけだ。
さてあなたなら、A、Bどちらの作業を選ぶだろうか? たいていの人は、Bを優先的に選ぶだろう。
だが、これは誤った選択である。それというのも、Aを優先させれば死亡率が3ポイントも下がる。それに対してBはたったの1ポイントだ。AはBよりも3倍も効果があるのだ! この落とし穴は「ゼロリスク志向」と呼ばれる。
結論。わたしたちは、危険がまったくない状態を除いては、さまざまなリスクを正しく判断することはできない。リスクを直感的にとらえることができないので、計算しなければならない。
「ロト6」のように確率がわかっている場合には、リスクの計算は簡単である。けれども日常生活においては、リスクを推測するのは難しい。だが、リスクを無視して通り過ぎるわけにはいかないのだ。
<本稿は『Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法』サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
Photo by Shutterstock
【著者】
ロルフ・ドベリ作家、実業家
【訳者】
中村智子(なかむら・ともこ)
◎関連記事