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共感とは「心が通じ合うこと」と思っている人に知ってほしいこと

 私たちは初対面の人であっても、一瞬のうちに好感や嫌悪感を覚えることがあります。これには脳において驚くほどの速さで情報を伝える特殊な神経細胞である「スピンドルニューロン」のはたらきが、かかわっています。

 それは、あらゆる情報をすくい上げて、それにふさわしい行動が取れるように迅速に指令を送ること。これは人間誰しもに起こっているという観点から、自分とコミュニケーションを取っている相手のことを考えてみましょう。

 不可解な人間関係の謎を、最新の脳科学で解き明かし、スウェーデンで大反響を呼んだ『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』が解き明かした「共感」の裏側をご紹介します。

『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』(サンマーク出版) 書影
『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』

あなたが寄り添うべき相手の正体

見ず知らずの人を、まだ会っていない友だちだと思いなさい。

アレキサンダー・ポープ(18世紀のイギリスの詩人)

 私たち人間は、互いに見ることや、互いに話を聞くこと、時間をかけて相手の考えや気持ちを理解して共感することを心から求めている。

 とはいえ、私たちがよく想像するような、互いに何も言わなくても心が通じ合う関係など、そうあるものではない。そのとき相手が何を考え、どう感じているのかを、こちらが理解していると、ちゃんと言葉で伝えなければいけない。

 相手の話にじっくり耳を傾け、相手の考えや感情をすべて受け入れて、相手を理解していることをはっきり示せば、相手は自分の言葉や気持ちが重要視されていると感じる。

 ストレスフルな日常生活では、何か問題が持ち上がれば、解決することばかりに目がいきがちだ。自分が有能で役に立つ人間でありたいと願い、問題を早く片づけたいと考えてしまう。

 そのため、何か質問してきた人が、その内容を言い終えないうちから、その人が訊きたいことがわかったつもりで答えてしまうこともある。

 また、こう考えることもある。「私は、この人が辛い状況にいることをちゃんと認識している。それは伝わっているはずだ。だから、もう問題解決の段階に移ってもいいだろう」

 相手の立場でその状況を考えないと、こうした思考におちいりやすい。こんなときは、相手のスピンドルニューロンに語ろう。あなたが寄り添うべき相手は、スピンドルニューロンなのだ。

自分のものの見方にとらわれすぎていないか

 相手のスピンドルニューロンは、あなたが本当に親身になってくれているか100%確信したがっている。あなたが相手の気持ちに共感してはじめて、相手のスピンドルニューロンは、あなたが親身になってくれていることを信じる。真剣に話を聞いてもらえたと思う。それがはっきりわかるまで、スピンドルニューロンは諦めない。そして相手の状況が困難なものであるほど、スピンドルニューロンの警戒心は強くなる。

 私たちは、自分のものの見方にとらわれすぎて、他者の見方を受け入れられないことがある。

 少し前の話になるが、私は薬局で、薬を買う列に並んでいた。私の前に並んでいた男性客の順番が来たとき、彼は以前に買った薬をまた買いたいと薬剤師の女性に伝えた。すると女性は「処方箋がないとお売りできません」とそっけなく答えた。

 男性客は反論した。「このあいだは処方箋がなくても、ちゃんと買えた」。だが、薬剤師の女性から返ってきた答えは、「処方箋がないとその薬は売れないので、それはありえません」だった。

 2人の語気が荒くなってきた。男性客は、自分のほうが絶対に正しいと思っていた。そして、前は処方箋がなくてもその薬が買えた、と言い張り、怒りをあらわにしはじめた。

 薬剤師のほうも苛立ってきた。彼女もまた、処方箋なしにその薬が買えたはずがない、の一点張りだった。互いに譲らず、会話はどこまでも平行線だった。

 やがて男性客は怒りが頂点に達して、店を飛びだしてしまった。

 もしかしたら、どちらの言い分も正しかったのかもしれない。でも、互いに相手が間違っていると信じて疑わなかった。

 もし薬剤師が、男性の話は本当かもしれないと少しでも考えられたら、状況は違っていただろう。たとえ、その薬が処方箋なしでは売れないにしても、ただ突っぱねるのではなく、男性の話を真剣に聞いて親身に対応していたら、決裂などしなかったはずだ。

<本稿は『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 SUNMARK WEB編集部) 
Photo by shutterstock

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【著者】
レーナ・スコーグホルム(Lena Skogholm)
行動科学の研究者。講演家、教育者。年に80回近く講演や講義を行い、スウェーデンで最も人気のある講師100人の1人に選ばれた。温かさとユーモアにあふれる語り口と、明快でわかりやすい解説には定評があり、2021年には、スウェーデンのすぐれた講演者に与えられるStora Talarpriset賞を受賞した。25年にわたり研究を続ける脳科学にもとづいた人づきあいのメソッドは、職場や私生活で今すぐ役立つツールとして、高く評価されている。
本書『The Connection Code』(Bemötandekoden:konsten att förstå sig på människor och få ett bättre liv.)は、スウェーデンで発売と同時に売上ランキング上位に入り、ベストセラーとなった。国内外で話題の本となっている。

【訳者】
御舩由美子(みふね・ゆみこ)

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