「楽しい」より「本当に本当に楽しい」のほうが格段に伝わる理由
若い人たちの間ではもちろん幅広い世代でも使われることのある「やばい」という言葉。感動や評価を言葉にするとき、この表現に頼ってしまっている人は少なくないかもしれません。
でも実は、難しい言葉や凝った表現を使わなくてもいいのです。アパレルメーカー入社2年目でブランドマネージャーに抜擢された「チエ」と猫界イチの天才・言語化猫「メイメイ」との会話形式により、小学生レベルで簡単なのに、しっかり伝わるコピーライター直伝のテクニックを解説した『言いたいことは小5レベルの言葉でまとめる。』よりお届けします。
「音」を使いこなすと言葉は強くなるのだ
チエ:私、「おいしい」も「楽しい」も「かっこいい」も全部、「やばい」で済ませているかも……。
メイメイ:気持ちはわかりますよ。「やばい」「すごい」は便利な言葉ですからね。最近だと「エモい」なんて言葉も浸透してきていますよね。
でも、そういう便利な言葉を使い回すのではなくて、ほんの少し言葉の使い方を変えるだけでも十分伝わる言葉は作れるんです。
言葉を「だ」で締めてみる
チエさんが好きな人に「あなたが大好き」という言葉を伝えたいとしましょう。普通に伝えるだけだと、気持ちが100%伝わらないかもしれませんよね。気持ちを強く伝えたいとき、チエさんならどうしますか?
チエ:そうだなぁ……、「あなたの誠実で思いやりのあるところが大好きです」みたいな?
メイメイ:チエさん、思い出してください。「コトバ・イズ・マネー」ですよ。ちょっと言葉が多いんじゃないですか?
チエ:うーん、メイメイだったらどう言うのよ?
メイメイ:例えば、「だ」です。
チエ:だ?
メイメイ:「あなたが大好き!」と「あなたが大好きだ!」、どっちが強いメッセージに感じますか?
チエ:確かに、「あなたが大好きだ!」の方が強い感じがするね。
メイメイ:濁音は、主張を強くして相手の印象に残す力があるんです。
言葉を繰り返す、「本当に」を足してみる
あとは、「繰り返し」です。
「それ、私は絶対に食べたい」だったら、「それ、私は絶対に、絶対に食べたい」なんていう感じに繰り返すと……?
チエ:食べたくて食べたくてしょうがない感じが伝わってくるね!
メイメイ:主張以外にも、感情も簡単に強化することができますよ。
感情強化の「本当に」です。
「今日は、楽しい日だった!」だったら……
「今日は、本当に楽しい日だった!」となります。
さらに、さっきの繰り返しもダブルで入れると……?
今日は、本当に本当に楽しい日だった!
これで、最高に楽しい日だったことを伝える表現の完成です。
誰にでも馴染みがある「ロングセラーの言葉でいい」っていうのはこういうことです! 同じことを言ってるんだけど、ちょっとだけ違う。商品の配置を少し変えるだけで新鮮に見えたり、強く印象に残ったりする感じでしょうか。
チエ:メイメイ、こんな感じでいいなら私にもできそうな気がしてきたわ。
オノマトペを駆使してみよう
メイメイ:もう1ついってみましょう。チエさんは、オノマトペって知ってますか?
自然界の音や声、物の状態や動きなどを象徴的に表した言葉です。
チエ:モフモフとか、キラキラ、メラメラみたいな?
メイメイ:そうです。他にもパリパリ、ザクザク、ザーザーなど、日本語にはたくさんのオノマトペがあります。
『日本語オノマトペ辞典』(小学館)というオノマトペをまとめた最大の辞典には、4500語ものオノマトペが収録されているんです。
チエ:4500語!?
メイメイ:「緊張しています」と言うより、「心臓がバクバクしています」と言った方が臨場感が伝わって、言葉の強さは増しますよね。
同じように、「子どもが笑った」だったらどうなりますか?
チエ:「子どもがクスクス笑った」みたいな?
メイメイ:楽しそうな感じがよりわかりますよね。
チエ:なるほど、オノマトペがついている方が伝わりやすいね。
メイメイ:このキャッチコピーが使われたマクドナルドの最初のCMは2022年で、中堅の会社員を玉木宏さん、竹原ピストルさんのお二人が演じていました。
チエ:あっ、見たことあるー。
メイメイ:下の世代からの突き上げ、上の世代へと近づいていく焦燥感を「ペロリ」と若々しく、余裕や自信さえ感じさせるオノマトペで絶妙かつ前向きに表現していたんです。
チエ:あんな大きなビッグマックをペロリって、言葉のインパクトも強いよね。
メイメイ:あとはシズルです。シズル(sizzle)とは、肉が焼ける際の「ジュージュー」と音をたてる意味の英語で、いまではそこから転じて、感覚を刺激して食欲や購買意欲を喚起する手法を意味する語になりました。
チエ:グルメ番組で聞くような言い方かな?
メイメイ:そうそう、「お肉の食感」よりも、「とろけるようなお肉の食感」の方がおいしそうですし、「ドーナツ」より、「もちもちのドーナツ」の方が食べたくなるでしょう。
チエ:普通に言うより、五感が刺激される感じだ!
でも、これって食べ物にしか使えないの?
メイメイ:いいえ、そんなことはありませんよ。
例えば、チエさんが旅行先で泊まったホテルのベッドがとても寝心地がよかったとしましょう。
「柔らかいベッド」と言うよりも、「雲の上で眠るようなベッド」と言った方がイメージしやすいですよね。さらに、オノマトペを加えるなら……?
チエ:「ふわふわの雲の上で眠るようなベッド」!
メイメイ:そうです! 「柔らかいベッド」よりもイメージが強く湧きませんか。
チエ:確かに! そういえばこの間CMで、「とろけるような肌触りの化粧水」なんて言葉も見かけたな。
文学は言語化の塊だ
メイメイ:「とろける」も触感がイメージしやすい強い表現ですよね。
あっ、そうだ。眠りといえば、「泥のように眠る」という表現がありますよね。
これが、村上春樹の『ノルウェイの森(上)』(講談社文庫)では、
と表現されています。
眠りの主体である登場人物が深い深い眠りに落ちる様がよくわかりますよね。
チエ:なんだかすごく深い眠りに落ちたんだな、よっぽど疲れていたのかなって感じる。文学って、すごいね。言語化の塊だ……。
メイメイ:もう一例ご紹介しましょう。太宰治の『女生徒』では、
という表現があります。「いやだ。いやだ」の繰り返し。さらには「くたくたに」というオノマトペ。読者を引き込む文章には、こういったテクニックが多数使われているのですね。
<POINT>
濁音、オノマトペ、シズルで
言葉をバシバシ強くするのだ!
<本稿は『言いたいことは小5レベルの言葉でまとめる。』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 SUNMARK WEB編集部)
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【著者】
手代木聡(てしろぎ・そう)
株式会社電通西日本コピーライター/クリエイティブディレクター
1975年東京都生まれ、広島県在住。大学卒業後、Hondaの広告制作を手掛けるプロダクション「原宿サン・アド」に入社。ピーク時は深夜や明け方まで身を粉にしながら働き、それでも自分の企画がなかなか通らない20代の日々を過ごす。
ローカルの方が面白い仕事ができるのでは、と電通西日本の岡山支社に、31歳のときに転職。クリエイターの活発な交流の場がなかった岡山では、地元の広告制作者同士がつながる団体「岡山広告温泉」を創設。地元の街を巻き込んで、10年以上続くイベントとなる。これまでに企業や行政などさまざまな広告・商品開発・ブランディングを手掛ける。
表現をすることに憧れて就いたコピーライターという仕事は、実はクライアントの課題や見えない問題を可視化し、解決するための指針を立てることが醍醐味であるということに気づき、その能力を磨くうちに競合コンペでほぼ負け知らず、クライアントからは指名され続ける唯一無二のパートナーシップを築くようになる。本書が初の著書となる。