韓国No.1の生花店をつくった男が明かす起業の裏
ビジネスの種は半径1メートル以内にある
起業してビジネスを起こしたいけれど、いざとなるとどんな事業をしていいかわからない、という人がいる。ちなみに、私は手帳に事業のアイデアをメモしているが、そのネタは数十個にもなる。
その多くはあまり資本が必要ないものだ。ふだん自分で不便を感じたり、日常生活のなかで改善すべきだと思ったりするものは、すべて事業のネタになる。だから、何をしていいかわからないというのは事実ではない。
この世に必要な事業は出尽くしているように思うかもしれないが、私の考えは逆だ。まだ足りないもののほうがずっと多い。もしすべてあったとして、それがどうしたというのか。既存の事業家がうまくやれていない部分があれば、それも事業のネタになるし、ほかの事業家が失敗した事業も、立派な事業のネタになるかもしれない。
私がメモした新規事業のアイデアも、こういったものたちだ。それをつまびらかにするのは、私がどうやって新事業のネタを探すのか示すためだ。
以前、後輩たちといっしょに日本に行ったとき、太平洋が見える銚子の町を訪れた。朝、海辺を散歩していると、あちこちに流木が流れ着いているのが目についた。私は木でテーブルを作る趣味があるので、海水に洗われて味の出た流木を持ち帰りたくなった。おそらく、どこか遠い国で台風にへし折られた木が、はるか太平洋を渡ってこの海辺にたどり着いたのだろう。
才能のある職人なら、このような木を使って素敵な家具を作ることだろう。家具のブランド名は「君はどこから来たの?」にしよう。異国の海辺で育った木が家具になるというストーリーを、名前に込めてみた。
海辺で流木を拾っていると、そんなストーリーと、再生や環境保護といった現代産業倫理にもマッチした家具会社のアイデアが浮かんだ。
最近は男性でも化粧をする人がいるから、男性用化粧品の専門店もいけそうだ。女性ばかりの店で商品を購入するのは恥ずかしいという男性も多いし、男性用化粧品の種類もかなり増えたからだ。
こうしたアイデアを自分で実現させたいとも思うが、それよりもただ癖のように考えていることのほうが多い。日ごろから隙間産業のアイデアを思いついたり、不便に感じたことをメモしたりしておき、実際に実現させることもある。
何気ない思いつきから「韓国ナンバー1」の生花店は誕生した
そのうちのひとつがフラワーショップだ。
アメリカでは、特別な日でなくても日常的に花をよく買う。スーパーマーケットの目立つ場所は花のコーナーになっている。
プレゼント用ではないので包装もされておらず、買い物ついでに1輪とか1束をカートに入れていく。
一方、韓国ではあまり生花店が目立たない。地下道の隅に「全国配達します」という貼り紙を出し、花束を注文すると店員が冷蔵庫の奥から生花を引っ張り出してくる。店舗のあちこちには、売れ残りのしおれた花々が古い鉢の上に無造作に置かれている。そして花を1輪、2輪、あるいは1束買おうとすると、「いくら分で作りますか」と聞かれる。
私はホテルに宿泊するときも、しばしば花を買って部屋に飾っておくが、韓国では花を1輪だけ買おうとすると、とても面倒だった。調べてみると、韓国の生花市場は冠婚葬祭用が中心だった。花の消費の約8割が冠婚葬祭用であり、個人消費は2割にもならない。
さらに私のように、ふと思い立って花を買う顧客は1.5%にもならないのだ。8割が個人客であるアメリカとは対照的だ。
そういうわけで、私は韓国にフラワーショップをオープンすることにした。本当に韓国人は花を買わないのか、あるいは流通市場のあり方の問題なのか。出店にあたっては、あらゆる観点において消費者の立場からアプローチすることにした。
たとえば、消費者が花に触ってみたければ触れるようにし、冷蔵庫をショーケース形式にして値札をつけた。
また小売店としては初めて、aTセンター(韓国農水産食品流通公社)から競売権を取得し、消費者が手を出しやすい価格設定にした。約2年経った現在、わが「スノーフォックス・フラワー」はソウル市内にすでに12店舗をオープンできた。自分たちこそが花だと思っている10代を除き、老若男女を問わず、あらゆる人がコンビニのように気軽に入店して花を買ってくれる。
これにより、韓国人は花が嫌いなのではなく、韓国の流通市場が間違っていたことがわかった。
従来の生花店は、花を特別なプレゼントだと考えていたから、私のようにただ花を買いたい人が花を買う場所がなかっただけだ。
現在、スノーフォックス・フラワーの総売上は、生花の小売店としては韓国で第1位になった。いずれソウル市内だけで300店以上をオープンできるだろう。ひょっとしたら上場も夢ではないかもしれない。
ふとした疑問から始まった挑戦が、有望な事業へと成長したわけだ。
どんな事業をしたらいいかわからないという人は、実現可能な事業のアイデアを見る目が足りないのだ。事業の種類は数限りない。もしそれでも見つからなければ、「国際」と名のつくすべての展示会に足を向けてみよう。そこに行けば、出展料の安い片隅のブースに、創業間もない外国企業の社長がひとりで座っているはずだ。
韓国での販売権を買うなり、アイデアを改良してやれば、それが新しい事業になる。やれることは無限にあるので、意欲のある起業家たちは目を大きく見開いてほしい。
<本稿は『お金は君を見ている 最高峰のお金持ちが語る75の小さな秘密』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
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