記憶力のいい人が脳の特性を巧みに使いこなす裏技
資格取得や昇級試験、語学など、大人になってからも勉強しなければならない場面はあります。そんな時、大事なのが学んだことの復習。できるだけ早く、それも勉強したテキストを最初からやり直すのではなく、真ん中あたりから始めるのがいいということをご存じですか?
『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』からお届けします。
復習するときはテキストの真ん中からスタートする
脳の特性の一つに学んだことの最初と最後が記憶に残りやすいということがあります。
逆に言えば、真ん中のことは記憶しにくいということ。
復習をする際は、真ん中からと意識的に順番を変えることで、知識をまんべんなく身につけていくことができます。
私のクリニックでは、脳診断の一環として患者さんに3行の簡単な文章を読んで覚えてもらうことがあります。試しに、あなたも挑戦してみてください。
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[記憶クイズ]
井口真史さんは、25年間勤めた飲料メーカーを脱サラし、東京を離れて、
故郷の福島県で念願だった蕎麦屋を始めた。
ある日、蕎麦屋の従業員が現金を持って銀行に行く途中、
ひったくりに遭い、12万3000円が奪われた。
犯人は2人組で、一人は黒い上着にグレーのスニーカーを履いていた。
突然のことで、従業員は転んでしまい、犯人を追えなかったが、
そのとき走り去っていくバイクのナンバー「11─26」を覚えていたので、
犯人は3日後に捕まった。
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どうでしたでしょうか。
ほとんどの方が、1回読むだけでは文章の最初と最後だけを覚えていて、真ん中はすっぽり抜け落ちてしまいがちです。
半年にわたって放送されるNHKの連続テレビ小説や、1年間放送の続く大河ドラマでも、過去の作品の始まりとエンディングはよく覚えていても、途中にどんなエピソードがあったかまで詳細に覚えている人は少ないでしょう。
実際に、真ん中の記憶がすっぽり抜けてしまうことは、実験心理学で証明されています。
行動心理学の用語で「初頭性効果」「新近性効果」と呼ばれるものがあり、最初の記憶と最後の記憶が短期記憶として残りやすいということがわかっています。
初頭性効果というのは、いくつかの項目を提示されたとき、最初に目にした項目ほど記憶に残りやすいというもので、1946年にポーランドの心理学者ソロモン・アッシュによる印象形成の実験によって明らかになりました。
2つのグループに、ある人物について次のように伝えます。
A「明るい、素直、頼もしい、用心深い、短気、嫉妬深い」
B「嫉妬深い、短気、用心深い、頼もしい、素直、明るい」
どちらも同じ形容詞が並んでいるのですが、最初に伝えられた言葉によってAのグループはポジティブな印象を抱き、Bのグループはネガティブな印象を抱きました。
新近性効果は、1976年にアメリカの心理学者N・H・アンダーソンによる模擬裁判の実験結果から提唱されたものです。
一つのグループは検事側→弁護側の順で証言を、もう一つのグループには最初に弁護側、最後に検事側の証言をまとめて述べます。
これにより、陪審員がどのような判断を下すかを見るというのが実験の内容でしたが、どちらのグループも最後に証言を提示した側が勝訴するという結果になりました。さまざまな議論を尽くしても、人は途中の経緯を忘れやすく、終盤の意見をより記憶してしまうのです。
勉強直後の「スマホで気分転換」がNGな理由
ビジネスシーンではプレゼンの順序を決めたり、顧客へ商品を訴求したりする際に、初頭性効果と新近性効果はセットとして活用される場面も多いようですが、こと勉強に関してもこの2つはセットで働いています。
勉強においても学んだことの最初と最後が記憶に残りやすいのです。
つまり、復習をするときは、記憶に残りにくい真ん中から始めたり、復習回数を増やすというのが賢いやり方です。
前日に1~10ページまでを勉強したなら、翌日は4ページあたりから始めれば、記憶の穴を効率よく埋められます。
脳の特性をよく理解した上で、強く定着したところを伸ばすだけではなく、弱い部分を補うように埋めていくというやり方で記憶力を底上げすることができます。
また、1966年に行われた記憶の仕組みを探るための実験に、もうひとつヒントがあります。
被験者を3つのグループに分け、15の単語を覚えてもらいます。グループAには覚えた直後に単語を回答してもらい、グループBは覚えた直後に10秒間、グループCは30秒間、数字を叫ぶという妨害行為を行った後に回答してもらいました。結果は、グループAは最初と最後の正解率が高く、グループBとCは最初の正解率が高くなりました。
最初は記憶するものが少ないので、すべてのグループにおいて記憶力が高い状態です。しかし最後に関しては、妨害行為のないAのグループだけ正解率が高くなりました。
あなたは、勉強直後に気分転換とばかりにスマホでニュースやツイッターなどを見てはいませんか? その行為こそが、後半で勉強したことが忘れやすくなる妨害行為なので気をつけましょう。
<本稿は『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
【著者】
加藤俊徳(かとう・としのり)
脳内科医、医学博士、加藤プラチナクリニック院長、株式会社脳の学校代表、昭和大学客員教授
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