「すぐやる脳」になって続けられる人が自分に向けてやらないこと
調達コンサルタントとして活動し、テレビ、ラジオなど数々の番組に出演、企業での講演も行っている坂口孝則さんはさまざまなジャンルにまたがって毎月30冊以上の本を読む読書家。その坂口さんによる『すぐやる脳』(著:菅原道仁、サンマーク出版)のブックレビューをお届けします。
「すぐやる」ためにはレッテル貼りの機会削減から
「自分たちの組織で『できない』ことはありますか?」
尊敬する同業者のコンサルタントにこう聞かれたことがある。
私は、例として以下の2つを挙げた。
l 優柔不断ですぐに決断ができない
l 原価計算の力が弱くて利益計算ができない
彼が続けた言葉に驚いた。
「それぞれの答えの次に『と自ら決めている』と書いてください」
どういうこと? 言われるがままに書いて自分でそれを読んだら、ショックを受けた。
l 優柔不断ですぐに決断ができない、と自ら決めている
l 原価計算の力が弱くて利益計算ができない、と自ら決めている
ガーン。そうかあ。決めているだけ、自分自身で選んだ道だったんだなあ。弱点とは、自分が定義した結果にすぎないかもしれないと思い直した。
まずは自己暗示をかける
『すぐやる脳』(サンマーク出版)を読んで同様のことを感じた。この本には「すぐやる」ための方法の本質が凝縮されている。
特に印象的だったのは次の一節だ。
これは自己啓発やノウハウ書に共通する重要な指摘だ。まずは既存の自己イメージから脱却しなければ、本当の改善は望めない。先ほどの「と自ら決めている」の罠と同じ構造と言えるだろう。
著者の菅原道仁さんは相当な社会的な立場(国立国際医療研究センター勤務で、脳神経外科医)であるにもかかわらず、どこまでも実用的であろうとする。弦楽的な知識はほとんどなく、全編にわたって現実的・実践的なノウハウが開陳されている。
たとえば、「すぐやる脳」を形成するための具体的なステップをこう示している。
「私は毎日あらゆる面でますますよくなっている」というフレーズを口癖にすると良いと紹介されており、具体的に「起床後や、就寝前のリラックスしたときに、約20回」と具体的すぎる解説がある。声に出して小さな目標を口にし、さらにその回数を増すことが自己暗示の最適法だ(①)。
また、作業興奮なる単語も説明されている。これは、とにかく、なんでもいいから小さなステップでも着手したら物事が進む。仕事ができない人は、やるまでの時間が異常に長いのだ。脳科学的にいっても<「とりあえず」「いきなり」始めるスタイルこそ、実は正解>(同書P54)とのことらしい(②)。
私は月に20本ほどの原稿執筆と日常的なコンサルティング資料の作成をこなしている。知人から「よくネタ切れにならないね」と言われるが、「ずっとネタ切れだから、ネタ切れに“なる”ことはない」と冗談で答えている。
ただ、私の書く原稿の質や面白さなどを保証できないので、せめて依頼した人が困らないように期限だけは守ろうと思っている。だから時間をかけてやるのではなく、とりあえず書き始めるスタイルをとっている。これは脳科学的にも証明されたようで安心している。
また、私は、10年以上前から、朝晩2時間ほど歩きながらiPhoneに思いついたことをメモする生活を続けている。
本書にもこうある。
これらの習慣が、本書の科学的知見からも裏付けられていることを知り、継続の意義を再確認できた。これからも続ければいいのか(③)。
強制的にやるためには「発表」を
本書の後半部分で、私が実感を伴って思わず「そうでしょー」と言いたくなるセクションがあった。
<続けるカギは「発表会」にあり>とする箇所だ。
なんと生きることにも飽きるとは!
私にはまさにこれに通じる実体験がある。私はサプライチェーンという分野の専門家が生業だ。しかし、仕事が忙しくなると、なかなか最先端の分野を勉強できない。そこで、私は有志と月に1回の「私塾」を開催することにした。15年も前のことだ。大々的に宣伝して、お客は企業で働くサプライチェーン部員らを集めた。
当然ながら、中途半端な内容だったら聞いてもらえない。古臭い内容だったら、そもそもバカにされる。私たちは、「勝ち抜き戦」という仕組みを作った。1カ月に1回の講義で3人の講師が登壇する。そして、一人が受講者アンケートで勝ち抜き来月も講義、残り1人は待機中の講師が登壇する。
この仕組みを考案した当初「受講者に媚びる講師だけが残るんじゃないか」という懸念があった。しかし、せっかくの時間を費やしてやってくる受講者たちだ。懸念は杞憂だった。やはり内容が優れた講義が大人気で、人が殺到した。
その「私塾」は全国から受講者が集まるようになり、金曜日の夜に開催していたが、地方在住者はその時間をめがけてわざと出張を予定した、というほどだった。
私たちは、その「私塾」という発表の場があったからこそ、さまざまなコンテンツを増やすことができた。その私塾で講義した内容をもとに書籍にもしたほどだ。講義を行った講師連中は、いまでは散らばったが、ほとんどは有名企業のサプライチェーン職で勤務している。強制的に発表の場があったからこそ、成長したのだ。
『すぐやる脳』に書かれているように、習慣化し強化したいものがあれば、ただちにSNSなどを使って発表会を告知すればいい。これほど汎用的な手段はあるだろうか? 大事なのは「すぐやる」ことだろう。
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by shutterstock
坂口孝則/調達コンサルタント
大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。
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