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運のいい人は脳が飽きっぽいことを知っている

 人が何らかの目的や夢の実現に向けて動いているとき、長期的に見ると必ずマイナスとプラスの出来事が起きます。

 マイナスの出来事が続いた時、「運が悪い人はゲームをおりがち」と指摘するのは、脳科学者の中野信子さん。中野さんによると、運のいい人はマイナスの出来事が続いても簡単にゲームからおりず、次のチャンスに備えます。

 一方、どんなゲームでも、そのゲームをやめさせようとする敵が現れます。最大の敵が「飽き」。これに対して運のいい人はどう考えて振る舞うのでしょうか。中野さんの著書『新版 科学がつきとめた運のいい人』よりお届けします。

『新版 科学がつきとめた運のいい人』 サンマーク出版
『新版 科学がつきとめた運のいい人』

脳に常に新しい刺戟を与えつづけること

 人間の脳はもともと、ひとつの刺激に対してすぐ慣れてしまい、飽きてしまうという性質をもっています。

 よく「継続は力なり」といいますね。重々わかっているけれど、続けられない。

 その原因は、脳の飽きっぽさにあるのです。

 では、脳を飽きさせないようにするにはどうしたらいいでしょうか。

 そのコツは、脳内の報酬系をうまく活用することと、脳に常に新しい刺激を与えつづけることにあります。

 これを言語学習を例にして考えてみましょう。

 社会人になってから英語などの言語学習で挫折した経験はありませんか。

 言語学習は続けることが非常に重要ですが、同時に続けることがいちばん困難ともいえます。

 私は32歳のときに初めてフランス語の勉強を始めました。大学での第二外国語はドイツ語でしたので、フランス語はまさに一からの勉強。

 フランスのサクレー研究所での勤務が現実になる可能性が出てきて、フランス語習得の必要性に迫られたのです。

 フランス語を勉強しはじめてから実際に研究所に勤務するまでには約1年間ありましたが、この1年間で日常生活は何とかこなせる程度のフランス語を身につけることができました。

漠然と「話せるようになりたい」と考えたのではなく

 ではどんな方法で勉強を進めたかというと、まずはフランス語が話せると何ができるか、ということを具体的に考えました。

 たとえば、もしフランス語が話せたら、堂々とフランスのカフェにひとりで入って、気に入った飲み物とケーキを楽しめるな、現地の研究者と興味深い研究について論議もできる、ノーベル文学賞受賞時(1994年)の大江健三郎さんのようにフランス語でスピーチができたら格好いいな、などと考えました。そして「絶対、私もやってみせる!」と決めたのです。

 語学を勉強する人がやってしまいがちなのが、漠然と「話せるようになりたい」と考えてしまうこと。語学は所詮、コミュニケーションの手段のひとつにすぎません。なので、その手段を使って何をしたいか、どんな状態になっていたいかを具体的に考えるのが重要です。そしてそれを目標に、達成後の自分の姿を頭の中にイメージしつづけるのです。

 次に、ではその目標を実現するために、いまやるべきことが何かと考え、まずは発音の勉強から始めました。

 発音がわかると、それまで雑音にしか聞こえなかった音が急に意味をおびて聞こえてきました。これはなかなか感動ものです。

 次に文法を学ぶために、薄い文法書を一冊マスターすることを目標にしました。最初から厚い参考書に手を出すと、途中で投げ出してしまう可能性が高くなります。たとえ薄くても、文法書を一冊学び終えたほうが達成感がわきます。「やり遂げた」という感動も生まれます。

 そして基本がわかってきたところで、フランス人に手紙を書きたいと思うようになりました。フランス語で自分の思いや考えを伝えられるようになりたいと思ったわけです。

 そこでフランス人の「メル友」を探し、メール交換を始めたのです。これは生きたフランス語を学ぶとてもよい経験でした。

新しい刺激を与え、それを楽しみながらやる

 当時はあまり意識していませんでしたが、この勉強方法は脳の性質に合ったやり方だったと思っています。

 というのは、発音、文法、メールのライティングと、段階的に新しい刺激を脳に与えたからです。同じフランス語の勉強ですが、最初は発音、次に文法というように角度を変えていったことで飽きがこなかったのでしょう。

 また、発音がわかると言葉の意味がわかり、文法をかじると少し話せるようになるのがおもしろくてしかたがありませんでした。これはそのたびに、私の報酬系が刺激され、やる気のもとであるドーパミンが分泌され、「次もやってみよう!」という気にさせられたのだと思います。

 脳はある行動で快感を与えられると、その行動をきちんと覚えていて、再び快感を得ようと同じ行動を繰り返す性質があります。私のフランス語学習は、この脳の性質を利用した方法だったのです。

 目標や夢というゲームをおりないようにするにも、同じような方法が有効です。

 常に「もっとこんな工夫ができるのではないか」「こんな努力の方法もあるのではないか」などと新しいことを考えてみる。脳が喜びそうな新しい刺激を与える。そしてそれを楽しみながらやるのです。

 これが脳を飽きさせない方法であり、目標や夢に近づく方法でもあるのです。

<本稿は『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock

【著者】
中野信子(なかの・のぶこ)

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