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会話の質問がうまくなりたい人は「対談本」から学んでみよう

 人との会話を盛り上げていくうえで、自分が相手にどんな「質問」をするかはカギの一つ。なかでも、深い話にもっていくには、聞く側の質問力が欠かせません。

 とはいえ、どうやって「質問力」を上げていけばいいでしょうか。

 齋藤孝さんが40年にわたって続けてきたコミュニケーション講義のエッセンスを紹介した『「考えすぎて言葉が出ない」がなくなる』よりお届けします。

『「考えすぎて言葉が出ない」がなくなる』 サンマーク出版 齋藤孝
『「考えすぎて言葉が出ない」がなくなる』

対談本で「質問力」を鍛える

「質問力」を上げるのにはコツがあります。

 一つの練習として私がおすすめするのは、「対談本」を読むことです。

 私がこれまで読んだ本の中から、いくつか紹介しましょう。

 たとえば『小澤征爾さんと、音楽について話をする』(小澤征爾、村上春樹共著 新潮社)では、村上春樹さんがご自身の音楽知識をベースに、小澤征爾さんにどんどん質問をしていきます。

 村上さんは小説家ですが、大の音楽好きで、大学在学中にジャズ喫茶を開くなど、音楽に対してとても造詣が深いのです。その村上さんが、クラシック界の大家に対して、尊敬の気持ちを込めつつ話を聞いていきます。

 たとえば、村上さんの質問だけ引用すると、こんな感じです。

「小澤さんは先にニューヨーク・フィルでやってて、そのあとでベルリンに行ったんですか」

「ニューヨークにはどれくらいいたんですか?」

「出てくる音はがらっと違いますよね。当時のニューヨーク・フィルとベルリン・フィルとでは」

「しかし60年代前半のニューヨーク・フィルの音って、とりわけ硬質で攻撃的ですよね」

「ああいう音って、アメリカのリスナーに受けたんでしょうか」

 と何気ない話から入って、どんどんその分野の深い話に踏み込んでいきます。

 対談中の二人から対等な雰囲気がするのは、村上さんの膨大な知識量が、小澤さんにも刺激になっているということなのですよね。

 この対談を読んでいると、「これが知性の力だ」と感じます。自分の専門外のフィールドにおいてもこれだけ詳しくなっていると、その道の達人とも濃い話ができることがわかります。

「これぞ対話というものだ」という、対話の本質を感じたいなら、『ゲーテとの対話』(エッカーマン著 山下肇訳 岩波文庫)でしょうか。

 エッカーマンという30代の青年が、詩人である70代のゲーテに教えを請う。するとゲーテが、一生懸命それに対して教えていくというものです。

 エッカーマンの問いが、彼自身の関心に基づくものであるからこそ、それに応えるゲーテの人間としてのよさが見事に表れているように思います。

 私は若いときにこれを読んで、こんな対話の場に居合わせた幸せを感じました。生きた言葉のすごさ。まるで今、ゲーテが目の前で話しているような気持ちになりました。のちに哲学者のニーチェが「ドイツ語の最高の本」と評しています。

 対談や対話ものの本を読んでいくと、「これはこのように質問するんだ」とか「こういうことを聞きたいときは、こんなふうに持っていくのか」と、質問の仕方がだんだんとわかってきます。そして「自分もこんな対話がしてみたい。こんな対話ができる相手がほしいものだな」と思うわけです。

 実際に相手が見つかったら、それは一生の宝です。

 ずっと楽しく語り合える人がいる。それだけで、あなたの人生は素晴らしく豊かになるのですから。

ラジオでは「話がうまい人」の相手をしている人に注目しよう

 ラジオ番組もおすすめです。

 私は、安住紳一郎アナの「日曜天国」をよく聴いています。

 安住さんは、話すことについての才能も素晴らしく、もちろん話も面白いのですが、取材の勉強をするなら、アシスタントの中澤有美子さんに注目するとよいでしょう。中澤さんのリアクションは素晴らしくて、「こういうふうな会話をすると相手が話しやすいんだな」ということが学べます。

<本稿は『「考えすぎて言葉が出ない」がなくなる』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock

【著者】
齋藤孝(さいとう・たかし)
明治大学文学部教授

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