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食後やたら眠い人は要注意…糖尿病からの病気連鎖を招きかねない「糖質疲労」の正体

朝はフルーツ。昼は「そば」。夜は「油を控えた」バランスの良い食事をとっている――。

いかにも健康そうな食生活を送っている40〜50代ぐらいの人の中で「30〜40代の頃は午後も元気だったのに、このところは昼下がりに眠気が強くなっている」ならば要注意。

それはいずれ時間を置いて糖尿病・肥満・高血圧症・脂質異常症という病気の連鎖につながっていくかもしれないからです。今年3月の発売から現在までに12万部突破のヒットとなっている『糖質疲労』(サンマーク出版)の著者で医師/北里大学北里研究所病院院長補佐 糖尿病センター長の山田悟さんにインタビュー。全3回でお届けします。

(聞き手・構成:武政秀明/Sunmark Web編集長)


ランチの後に眠くなる人は要注意

――本のタイトルにもなっている「糖質疲労」。どんな症状なのでしょうか?

山田悟(以下、山田):実はみなさんにとても身近な問題なのですが、自分のこととは思っていない人がほとんどだと思います。

ランチの後にしばらくして眠くなるとかだるくなるとか、または十分に食べたのにすぐに小腹が減ったり、集中力が途切れたり、イライラしたり、首の後ろがずんと重くなったり。こういう不快な症状をまとめて「糖質疲労」と名づけました。

――体の中では何が?

山田:具体的には「食後高血糖」と「血糖値スパイク」が糖質疲労を引き起こしています。

食後高血糖とは食後の血糖値(正常140mg/dl未満)が高いことを指します。誰でも食後には血糖値がある程度上がるのですが、その上がり幅が大きい状態です。そしてその後に遅れて分泌されるインスリンというホルモンの影響で、血糖値が急降下するのが血糖値スパイクとなります。

食後の眠気や疲労感については、睡眠不足や過労といった体調や睡眠時無呼吸症候群といった病気などが原因となる場合もあります。それらは除いてあくまでも食後高血糖や血糖値スパイクによって感じている食後の体調不良が糖質疲労だと私は考えています。

――糖質疲労は病気?

山田:まだ病気とはいえなくて、いますぐにお薬を飲む必要はありません。ただ、放置しておくと、いずれドミノ倒しのように糖尿病・肥満・高血圧症・脂質異常症に至る可能性があります。これを「メタボリックドミノ」と呼んでいます。最終的には長患いの原因になり、いのちを落とす原因になりえる病気のつらなりです。

健康意識の高い人やアスリートですら食後高血糖に

――恐ろしい話です。血糖値といえば一般的な健康診断で測る「空腹時血糖値」(正常110mg/dl未満)が思い浮かびますが、そういえば食後血糖値は測った記憶がありません。

山田:それが通常で一般的に健康な人が食後高血糖や血糖値スパイクについて知る機会はまずありません。ところが実際に測ってみると食後高血糖→血糖値スパイクを起こしている人は意外と多い。普段から健康意識の高い人やプロのアスリートですら当てはまるケースばかりなんです。中国人では食後高血糖は成人の2人に1人であると報告されています。きっと日本人でもそうなのだろうと思います。

空腹時高血糖が起こる10年ほど前から食後高血糖が生じますので、糖質疲労は異常の前触れと言えるんですね。

――食後に眠気を感じているならご用心と。

山田:その段階で気づけば対処ができます。1日でも早く手を打ってほしい。逆に気づかなかったら、ある段階から体の細胞や臓器に代謝上の記憶が刷り込まれて完治しなくなって後戻りできなくなる。

空腹時高血糖になって医者に診てもらう前に自分で予防ができるんだということを知ってほしいという思いで本書『糖質疲労』を書きました。専門用語となりますが「無作為比較試験」といって、個別の臨床研究の信頼度(どれだけ強く因果関係を示しているのか)が最も高い「科学的根拠(エビデンス)」にできるだけ基づいて記載をしています。


食べ方を変えれば糖質疲労から健康に立ち戻れる

――病気になる前の人たちをターゲットにした本ということですね。具体的にどうすれば糖質疲労を解消できるのでしょう?

山田:詳しくは本書で解説していますが、ご提案はとてもシンプルで、「食べ方を変えること」です。糖質をとる量を控えて、その分、タンパク質と脂質をお腹いっぱい食べて、食べる順番を意識します。

――糖質はご飯やパン、麺、そばなどの主食に多く含まれていますが、控えめにしたほうがいいんですね。

山田:果物にも果糖をはじめとする糖質が豊富に含まれていますので注意です。食べる順番でいくと、食事の最後に糖質をとるようにしたほうがいいです。これを「カーボラスト」と呼んでいて、血糖値の上下動がゆるやかで望ましい血糖値が保たれやすくなります。

――逆に糖質を食事の最初にとるのは良くない?

山田:たとえば朝食がフルーツだけというのはヘルシーなイメージがありますが、糖質疲労の観点で見るとお勧めできない食事のとり方なんです。また、今のように暑い時期だと、昼食でタンパク質や脂質をほとんどとらずに、ざるそばとかそうめん、冷やしつけめんなどの糖質中心メニューだけで済ませてしまうってご家庭が少なくないと思うんですが、これだと食後高血糖を助長させる可能性があります。

――喉ごしもいいし、さっぱりしているからヘルシーかと思いきや…なんですね。逆にタンパク質と脂質のメニューならお腹いっぱい食べてもいいんでしょうか?

山田:たとえば唐揚げにマヨネーズをかけて食べてもいいんです。サラダチキンがヘルシーだと思って食べていらっしゃる方がいますが、それだとタンパク質はとれても脂質が足らないんですね。

本書を買ってくださった読者の方から直接お話を聞かせていただく機会がありますが、「目から鱗だった。『唐揚げを食べていいんだ』って夫が喜んでいる」と教えてくださった主婦の女性から寄せられた感想が印象的でした。

「バランスの良い食事」は健康によくない?

――カロリーは意識しなくていい?

山田:私が推奨する「ロカボ」(低糖質を意味するローカーボハイドレートを語源とし、大まかには1日の糖質量を70~130gにするという緩やかな糖質制限)という食べ方を実行する限りはそうです。カロリー制限は健康食の代表とされてきましたが、実行・継続が難しいケースが多く、私自身もリバウンドした経験があります。

余談ですが、20年前ぐらいに77歳のある糖尿病患者さんが喜寿のお祝いの席で家族みんながフレンチのフルコースなのに自分だけはワンプレートの食事だったことを担当医であった私に嘆いてきたことがあります。「なぜ自分は自分のお祝いの席で食事を楽しむことを許されないのか。そう思ったら本当に悲しかったよ先生」って言われて。カロリー制限しか知らなかった私は返す言葉がありませんでした。

これがカロリー制限の世界観なんです。何を食べてもいいけどどれも少なくしなきゃいけない。当時の私はこの患者さんに対して答えがなかったんです。医療は医学をベースにして患者さんの人生を幸せにするために提供するものなんだから、カロリー制限食って医学的には正しいのかもしれないけど医療としては完全に間違っているんだと思いました。

だから医学的にもちゃんとしていて医療としても患者さんに幸せを届けられるような食事療法が必要だと思ったから、その時からそういう研究を始めました。そして、その6年後に見つかったんです。

2008年に『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』という権威のある医学雑誌が発表された論文があります。糖質だけを控えてお腹が空いたら唐揚げを食べるというグループの人たちが、脂質を控えたカロリー制限食を食べるグループの人たちよりも体重の減量効果がよく、高脂血症も糖尿病も改善されたという研究結果です。
 
誰しもが気づいたら食べるだけで病気になっていたのが食べることで健康になっていけることを探し当てたんです。

――タンパク質はともかく、「脂質(油)をとりすぎてはいけない」という印象を持っている人は少なくないです。

山田:実は2015年にアメリカの食事摂取基準は脂質のトータルの上限量を撤廃したんです。脂質を控えることには何ら健康上のメリットはないと結論づけたからです。

――健康にいい、あるいは悪いと一般的に信じられてきた食事法の概念を変える話ですね。

山田:かつて厚生労働省が「1日30品目食べましょう」と旗を振ったことがありました。それを意識して私も「30品目バランス弁当」を食べた時があるんですが、自分の体を専門の医療機器で調べてみるとすさまじい食後高血糖になっていました。

30品目の中にお米はともかく野菜がたくさん入っていたとしても煮物になっていたり、かぼちゃやさつまいもといった糖質が豊富な野菜も含まれていたりします。一般にいうところの「バランスの良い食事」イコール「健康にいい食事」ではないんです。

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(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部、撮影:矢口亨/フォトグラファー) 

山田 悟(やまだ・さとる)
医師。医学博士。北里大学北里研究所病院院長補佐、糖尿病センター長。1994年慶應義塾大学医学部卒業。糖尿病専門医として多くの患者と向き合う中、2009年米医学雑誌に掲載された「脂質をとる食事ほど、逆に血中中性脂肪が下がりやすくなる」という論文に出会い衝撃を受ける。現在、日本における糖質制限のトップドクターとして患者の生活の質を高める糖質制限食を積極的に糖尿病治療へ取り入れている。著書に『糖質制限の真実』(幻冬舎新書)、『運動をしなくても血糖値がみるみる下がる食べ方大全』(文響社)など。「ロカボ」という言葉の生みの親でもある。

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