小説『コーヒーが冷めないうちに』100万部へカウントダウン!編集担当池田さんに聞いてみた!前編~BOOK TALK vol.7
Sunmark Web 「BOOK TALK」は、サンマーク出版のPR戦略室で働く新井俊晴と杉本耕亮が、「本の世界」で働く人たちの奮闘記をお届けする対談記事です!
前号では、現在映画も絶賛公開中の小説『もしも徳川家康が総理大臣になったら』について調査してまいりました。おかげさまで映画も大ヒットとなり、学生さんからご年配の方まで、多くの皆さんに楽しんでいただけているようです!
今回は『もし徳』と同様に映画化された、サンマーク出版を代表する大ヒット小説『コーヒーが冷めないうちに』の特集です!
『コーヒーが冷めないうちに』は現在、国内で94万部の大ベストセラーとなっており、いよいよ第1巻単体でのミリオンセラーへのカウントダウンが始まっております。世界ではすでにシリーズで500万部を超えており、誇張でなく「世界的なムーブメント」となっている作品です。
ほとんど小説を出したことのない出版社と著者が、どのようにしてこのような世界的ヒットを生み出したのか。最前線で挑戦し続けてきた、担当編集者の池田るり子さんにお話を聞いてきました!
それでは、BOOK TALKスタートです!
●「BOOK TALK」初ゲストは、超売れっ子編集者!
新井俊晴
みなさん、こんにちは!「BOOK TALK」へようこそ!サンマーク出版PR戦略室の新井です。
杉本耕亮
同じくPR戦略室、兼営業部、人呼んで”ハイブリッド営業マン”の杉本です!
新井 Sunmark Web「BOOK TALK」は、本の世界で働く人たちの奮闘記をお届けする対談です。書店さんや販売会社さん、著者さん、出版社のみなさん、そしてこれから出版業界を目指す方たちのお役に立てればうれしいです!
杉本 今回は「特別編」以外では、はじめてゲストを迎えてお送りします!
94万部突破の大ベストセラー小説『コーヒーが冷めないうちに』の担当編集者、池田るり子さんでーす!
池田るり子 よろしくお願いします!BOOK TALK初ゲスト、たいへん光栄です(笑)
新井 池田さん、よろしくお願いします!あらためていろいろなお話が聞けるの、とても楽しみです!ということで今回のお題は…
100万部目前『コーヒーが冷めないうちに』
世界的ベストセラーへの軌跡
です!
◎はじまりは舞台『コーヒーが冷めないうちに』との偶然の出会い
新井 『コーヒーが冷めないうちに』ついに94万部ですねぇ。いよいよ100万部目前になって、何か思うこととかあります?
池田 やっぱりミリオンセラーっていうのは、編集者として大きな目標としていたことですし、すごい意識はしますよね(笑)サンマーク出版では、これまで8本のミリオンセラーが出ているので、そこに並べられるっていうのも誇らしいし…。
新井 「ミリオンセラー」って、出版業界の人にとっては、すごい特別なものですよね。それこそ小説に限って言えば、しばらく単行本のベストセラーって出ていないんじゃないかな?
池田 そうですね。そこは私も気になって調べたりするんですけど、2015年の『火花』(又吉直樹著・文藝春秋)以来、単行本小説のミリオンセラーはないみたいです。文庫になったり、シリーズ累計では、いくつかありますが…。
杉本 『コーヒー』が刊行されたのって2015年の11月じゃないですか。ぼくは2021年にサンマーク出版に入社したので、当時は他の出版社っていう立場で見ていたんですけど、急にサンマーク出版が小説でベストセラー出し始めたと思いました(笑)
池田 それまであまり小説って出していなかったですからね。サンマーク出版に小説のイメージってなかったですよね。きっと。
杉本 そうそう!なんで急にそんなことになったんですか?
池田 偶然が重なって、っていうのがこの本のはじまりでした。わたしは子どものころから小説を読むのがすごい好きで、出版業界に入るときも「いつかは小説を」っていう思いはどこかにあったんですね。
でも、サンマーク出版が主に出していたのは、ビジネス書とか実用書だったので、あまりチャレンジする機会はなくって。で、あるとき学生時代の友だちと旅行に行くことになったんです。
新井 ふんふん。
池田 東京駅から友だちと新幹線で出発する予定だったんですけど、「新幹線乗るまえに、友だちが出ている舞台があるから観にいかない?」って誘われて。その舞台が、著者の川口俊和先生が脚本・演出をされていた『コーヒーが冷めないうちに』だったんです。
杉本 有名な舞台だったんですか?
池田 まだそのときは上演3回目くらいだったし、1回100名くらいの講演だったと思うので、すごく有名っていうことではなかったんです。でも、その舞台がものすごくよくって…。めちゃくちゃ感動して、号泣しすぎて、友だちにドン引きされました(笑)
新井 ドン引き(笑)。友だちも感動してても、それじゃあ泣けなかったかもしれないですね。
池田 そう言われました(笑)。それで舞台が終わってすぐにスタッフの方に「脚本家の方をご紹介してほしい」とお願いして、川口先生にお会いできたんです。
川口先生も、小説は書いたことがなかったんですけど、その場でOKをもらうことができて。でも最初はすごく苦労されたんです。脚本を書くのと小説を書くのってやっぱり全然違うことなので。書き始めたけどうまくいかなくって、2、3年音信不通になったりとか…。
新井 え!2、3年も!?
池田 はい。でも、あるとき川口先生の昔からのご友人が亡くなられて、そのときに「自分は何かやり残したことはなかったか」と真剣に考えたそうです。そのときに「小説を書く」ことにもう一度挑戦したいと思われて、ご連絡くださったんです。
杉本 小説が生まれるまでにもドラマがあったんですね。
池田 そうなんです。それで原稿がほぼできあがってきた!っていうタイミングで事件がありまして…。
新井 じ、事件…?
池田 大事件です。じつはこの本、企画会議に通らなかったんです…!
新井・杉本 えっ!!!!!
◎はじめてだらけの「コーヒーチーム」始動!
新井 編集者が本を企画したら、まずはその企画を編集部の「企画会議」にかけるっていう決まりでしたよね?その会議で通らなかったということは…?
池田 そうです。「この本は出さないほうがいいんじゃない?」って言われたということです。
杉本 それはつらい…!
池田 でも、さっき杉本さんもおっしゃったとおり、当時のサンマーク出版は小説なんてほとんど出したことがなかったし、まして川口先生は小説を書くことも初めてだったので、「この企画は難しいんじゃない?」って言われた理由も今ではよくわかります(笑)
それでもわたしはこの本をどうしても読者さんに届けたかったので、「編集者特権」を行使して出版することにしました。
杉本 へ、編集者特権!あの…!
池田 そうです。「たとえ社長が反対していても、編集者が出したいと思えば出版できる」というアレです!
新井 でもこれを使うのって、編集者としては勇気がいるよね。100%自分の決断で出版を決めるってことだから…。
池田 そうなんです!だから絶対に売らなきゃいけないと思って、当時編集長だった黒川さん(現・社長)に相談したら、「部署を横断したチームをつくろうよ」って言っていただいて。それでわたしと黒川さん、それと営業部と宣伝部から一人ずつ加わっていただいて、「コーヒーチーム」をつくりました!
杉本 でた!伝説の「コーヒーチーム」!!
新井 伝説…(笑)
池田 宣伝部で入ってくれたのが新井さんですよね。営業部では、新井さんの奥さんの清水さんが入ってくれて(笑)
杉本 めっちゃ身内じゃないですか!
新井 あのときははじめてのことばっかりで何をやっていいかわからなかったです…!
池田 ほんとですよー!すごい長い時間打ち合わせしましたもんねー。やっぱり小説をほとんど出したことのない出版社が新人作家の小説をただ出しても売れる確率は低いし、なにか目立つことをやらなきゃって。
新井 そこで出てきたのが、本の横に置いてもらうための「カフェのメニューボード風パネル」でしたよね。
池田 そうです!「このパネルと一緒に置いてください」っていうチラシを黒板風のレイアウトでつくって書店さんにご提案したんですよね。そうしたら発売前に100店舗くらいのお店が手を挙げてくださって!
新井 本当にありがたかったし、驚きましたよね!……じつはあのとき結構焦ったことがあって…。
杉本 えっ!なんです!?
新井 パネルの試作を池田さんとつくっていたんだけど、そんなにたくさんの書店さんでやってくださることを想定していなくって、かなり凝ったつくりになってるんです。ベースのパネルに、本の縮小コピーとコーヒーカップのイラストを立体的につけて、さらにメインコピーの「4回泣けます」も別パーツで取り付けるみたいな…。
池田 そうでした!みんなでパーツづくりからやりましたよね!
新井 こんなにつくるってわかっていたら、もう少しシンプルなつくりにしたんだけど…。
杉本 でも、それがよかったのかもしれないですよね。手作り感というか。
池田 それは本当にそうかと!ある書店さんにお邪魔したときに担当さんが、「手作りなので出版社さんが用意したものではなく、私たち書店がオリジナルでつくったものと思われました」っておっしゃってて。量産では出せない味があったのかも(笑)。
杉本 それで実際に売れていったんですもんね。すごいなぁ…。
池田 最初は東北の書店さんで売れ始めたんですよ!それで何かわかるかなと思って、黒川さんと営業の清水さんと東北に日帰り弾丸出張に行きました。
そこである書店さんが「震災で大事な人を亡くした方が多いので、そんな方たちの後悔や無念の思いと、この本が共鳴したのかもしれないですね」っておっしゃっていて。すごく身が引き締まるような思いになったのを覚えています。
◎読者さんが出会った日が「その本の発売日」
新井 この本が刊行されてもう9年くらい経つわけなんですけど、いまだにこんなに売れ続けているのって、担当編集者としてはどうしてだと思います?
池田 まずは本当に長く店頭においていただいている書店さんに感謝しかないです!お店になければこの本を知ってもらえるきっかけもないので、それが一番ありがたいですし、大きいなと思っています。
あと、サンマーク出版では「発売日は何度あってもいい」って言われることがあるんです。
杉本 どういう意味ですか?
池田 本を出版するわたしたちからすると、あたりまえですけど発売日って出版したその日のことを言いますよね?でも読者さんにとっては「いつ出版されたか」ってあまり関係なくて、「読者さんが出会った日がその本の発売日」だと思うんです。
杉本 素敵な言葉!!
池田 素敵ですよね!だから読者さんと出会えるシーンをたくさんつくれるように、話題になるようなことをつくりたいなって。『コーヒー』は川口先生がシリーズ続刊を書いてくださっているのは大きいですね。
新井 ですね!9月に発売になる新刊『愛しさに気づかぬうちに』も楽しみです!
(後編につづきます!)
【お知らせ】
BOOK TALKの2人や編集部の池田さんも参加する
本の未来研究所「Book Lover LABO」
が9/1にオープンしました!
詳細は下記リンクよりご覧ください。
https://sunmarkweb.com/n/nfdb87d960b06