過去は大切、でもずっととどまっていてはいけない
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「今」に集中する
私はめったに後ろをふり返らない。うっとりと過去の思い出にひたることは絶対にない。一日中、昔の写真を眺めるなどもっての外だ。そもそも、今この瞬間に完全に集中しているので、写真を撮ろうとも思わない。
私がときどき思うのは、ほとんどの人は過去にとらわれているということ。彼らは自分の人生を過去形で生きている。目の前の瞬間を楽しむのではなく、スマホでその瞬間を写真に収めることに熱中している。
私なら、レンズを通した人生を生きるよりも、いつでも今この瞬間を楽しんでいたい。もちろん、正直に告白すると、私だって100%今だけを生きているわけではない。それができないこともある。
しかし、今だけを生きようという意図はいつも忘れていない。それに、過去に戻りたいという気持ちは一切ないので、だいたいにおいて成功しているのだろう。今を生きることが楽しくてしょうがないので、過去を生きる暇などない状態だ。
だからといって、家族写真を一切撮らないわけではない。ただ、スマホを片時も手放さず、後で見返しもしない写真を撮ってばかりいるような生き方はしないというだけだ。
ここで考えてみよう。あなたには、思い出をふり返る時間がいったいどれくらいあるだろう? 写真、動画、書類、卒業証書、記念品など、過去を思い出させてくれるものを、あなたはどれだけ持っているだろう?
それでも、大切な思い出だから手放せないというのなら、私がきっかけをあげよう。
過去に属するものをたくさん所有していると、それが「今を生きる」ことの妨げになる。
過去をふり返る唯一の意味
過去をふり返ることに何か意味があるとしたら、それは過去から何かを学ぶときだけだ。私が日記をつける理由もそこにある。私は定期的に日記を読み返し、その当時の自分の思考プロセスを理解しようとしている。特に、何かが思い通りにいかなかったときは、日記を読み返せば理由を理解するヒントになる。
たとえば、2017年の私は、ブログを定期的に書くようになって2年がたち、ニュースレターの購読者も2万2000人を超えていた。そこで、有料の会員制ウェブサイトを始めることにした。
実際にサイトを立ち上げる前に、私が考えていたのはこんなことだ。
「会員が1000人で、1人あたりの会費が月に5ドルなら、このサイトの運営だけで生活できる。有料会員は、会員限定のコンテンツを受け取ることができる。これで会員も、5ドルの会費の元は取れるはずだ」
これが私の当時の思考プロセスだ。1000人という数字を想定したのは、雑誌『ワイアード』の創刊編集長として有名なケヴィン・ケリーが書いた記事を読んだからだ。それは「1000人の真のファン(1000 True Fans)」というタイトルの記事で、大きな話題になった。それに加えて、他のブロガーが運営している会員制サイトも研究した。
紙の上では、すべてが完璧に見えた。さらに私には、数多くのオンラインセミナーを販売してきた実績もある。私の仕事の価値は、多くの人にわかってもらっているはずだ。
しかし、期待した通りにはならなかった。サイトの立ち上げから1か月後、会員になってくれたのは78人。そして6週間後、私はサイトの閉鎖を決めた。
友人や同僚の多くからは、あきらめるのが早すぎると言われた。有料会員の中にも同じことを言う人がいた。もしかしたら、彼らが正しいのかもしれない。
しかし私は、ちょっと壁にぶつかったらすぐにあきらめるようなタイプではない。たとえば、私は6年半をかけて2つの学位を取ったが、その間に学校を辞めようと思ったことが何度もあった。また、生計を立てることが困難だったので、家族経営のビジネスを辞めようと思ったことも何度もある。そのどちらでも、私は途中で投げ出したりはしなかった。
しかし、だからといって今回の決心が変わることはない。私が会員制のサイトを閉じることにしたのは、事実と結果に集中する明晰思考を実行したからだ。
「このペースで会員が増えるとしたら、1000人になるまでに12か月かかる。それに加えて、最初の1か月で6人がキャンセルした。つまり、キャンセル率も考慮すると、1000人に到達するまでもっと時間がかかる。また、この6週間は、会員に特別なコンテンツを提供しなければならないという思いがずっと頭の中にあった。
会員になってよかったと思ってほしかった。それが大きなプレッシャーになり、サイトのコンテンツづくりに時間を取られ、家族のビジネスやコーチング業のほうがおろそかになっている。以上を考慮すれば、会員制サイトは私にとって正しい戦略ではなかったと判断できる」
目標は1000人で、現在は78人だから残りは……と単純な計算をするのではなく、私はさらに現実面で考えを進めた。
長く会員でいてもらうにはどうすればいいだろう? そのために必要な仕事量はどれくらいか? 別の方法で目標を達成することは可能だろうか? 人々の助けになる方法は他にもたくさんある。それに、私が生活費を稼ぐ方法だって他にもある。
そこまで考えたからこそ、私は6週間で有料会員制サイトを閉じることに決めた。物事がうまくいかなかったからといって、それで世界が終わるわけではない。
思い切って決断して、その決断を実行し、そして前に進む。後ろをふり返るのは、何かを学ぶときだけだ。
会員制サイトを始めるという実験を今からふり返ると、ずいぶん多くの時間を消費したことがわかる。
会員専用のコンテンツをつくったり、宣伝コピーを考えたりするのにおよそ3か月かかった。それに始める前から、会員制サイトの運営にはかなりの時間がかかることもわかっていた。「細部」についての章を覚えているだろうか? きちんとした仕事がしたいのなら、細部をないがしろにしてはいけない。
この会員制サイトのケースでは、何もしないのが私にとって正しい行動だった。なぜなら、当時の私には、家族のビジネス、記事や本の執筆、オンラインセミナー、コンサルティング業など、他にもやることがたくさんあったからだ。
今ふり返ると、私があの経験から学んだことがわかる。それは、人生の同じ時期に取り組める大きなプロジェクトは1つだけということだ。
過去をふり返るのはもちろん大切だ。しかし、ずっと過去にとどまっていてはいけない。人生は、今この瞬間に起こっている。
<本稿は『まっすぐ考える 考えた瞬間、最良の答えだけに向かう頭づくり』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
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