4人以上の場で「言葉が出ない」がなくなる2つの方法
「3人までだと話しやすいけど、4人になるとなんか話しにくい」
そう感じるのは、あなたが口べただから、ではありません。
たとえば、3人だとみんなで一緒に話したり、行動したりするのに、4人になるとしれっと2人ずつに分かれることってありませんか? これってなぜなのでしょうか?
ロングセラー『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』よりお届けします。
誰も「人が増えること」を望んでいない
脳はかなりワガママ。自分が処理する量をなるべく減らすように行動をとらせようとします。
つまり、「3人までなら処理できるけど、4人になると処理が追いつかないので、処理しやすいよう少人数に持ち込もう」と脳は考えるのです。
4人以上だと話しづらくなるというのは、僕の「グループインタビュー」の経験からいっても、ほぼ間違いありません。
これまで、4人以上のグループインタビューやワークショップを、延べ1000人以上の方におこなってきました。そして、3人だと話してくれるのに、4人以上になった途端、沈黙が広がる。こういう苦い場面に、何度も遭遇してきたのです。
グループインタビューでは、ときどき遅刻する方がいます。仕方がないので3人のままスタートするのですが、こういうときのほうが会話は弾み、参加者同士のディスカッションも順調に進みます。
そこに、遅れていた人が到着し、4人になった途端、今までよく話していた方たちが、まったく話さなくなってしまうのです。
最初のころは、あまりにピタリと会話が止まるので、「当初の3人は偶然知り合いで、後から来た人は気まずいのかな」と勘ぐってしまったほど。
さりげなく、「今日はお知り合いの方はいらっしゃいますか?」なんて聞いてみると、いつも決まって、まったくの初対面。
遅刻した人が到着して人数が増えれば場が盛り上がるかと思いきや、かえってシーンとしてしまうのです。
こういう経験から、個人差はあるものの、どうやら「人間の脳は3人のコミュニケーションまでは処理できる。けれど、4人になると多くの人が処理能力を超え、『3』と『4』の壁にぶつかってしまう」という結論に至りました。
原因に見当がついたなら、次は「対策」です。
「脳が原因なら」と、それまでの研究で得た知識をフル動員して対策を練り、グループインタビューで試してみました。
するとシーンと沈黙することがなくなり、最後は僕が何もしなくても、みなさん言いたいことが次々と出てきて、ディスカッションが終わらない。そんなうれしい悲鳴をあげるようになったのです。
「言葉が出ない」がなくなる2つのアプローチ
では、そのとき、僕は何をやったのかというと、これには2種類のアプローチがあります。
そのひとつが、「脳を活性化させて、話せるモードにする」という方法。
「脳を活性化?」と思ったかもしれませんが、これにはある理由があります。
複数での会話が苦手なのは、脳の処理能力が原因だとお話ししました。
だとすると、脳の会話領域、すなわち会話脳を刺激することで、処理能力を高めて「複数いると話せない」は克服できるのではないか。そんな仮説を立てたのです。
これに思い当たったのは、ある経験からでした。
そもそも僕が脳に関心をもったきっかけ、それは愛娘の交通事故にさかのぼります。
2000年の2月、生後2か月の娘が交通事故にあい、脳に大きな損傷を受けてしまいました。医師によると、脳は「一度壊れると修復できない臓器」とのこと。今後普通の生活はできないし、後遺症が残ると言われました。
でも僕は「そんなことは絶対にない、何か方法があるはず」と思って、独学で脳について勉強、そして、たどり着いた答えが「脳は刺激することで活性化される」というものでした。
それを娘のリハビリに応用するうちに、なんと動かなかった娘の左手が動くように。そしてピアノも弾けるようになり、今ではクラリネットも吹けるようになりました。
僕はこれを、シーンと黙り込んだグループインタビューのなかでも試してみることにしました。
「脳を刺激する」といっても、脳を手でマッサージするわけにはいきません。
僕は脳について勉強していたときに、ある特定の方法で身体を動かしたり、声を出したりすれば脳の会話をつかさどる領域が活性化することを学んでいました。
その知識を応用し、グループインタビューの前にみなさんにエクササイズをしてもらったり、自己紹介をしてもらったりしたのです。
すると、しゃべれなかった人の口数が増えだすなど、効果てきめんでした。
そしてもうひとつ、「脳が処理しやすいようにする」というアプローチも試しました。
脳には「左側からの情報のほうが得やすい」という特徴があります。これを応用して、「座る位置」や「話を振る順番」「視線のもっていき方」などを工夫すると、インタビューを受ける人の脳が情報を処理しやすくなり、4人でのディスカッションでも盛り上がりやすくなったのです。
この脳の仕組みを使ってある特定の人に話を集まりやすくしたり、その人の印象度を上げたりすることにも成功しました。
グループインタビューの前は脳にエンジンをかける時間をつくり、グループインタビュー中は脳が処理しやすいように話を振ったり、座る位置を変えたりする。
この方法を取り入れてから雰囲気がガラリと変わって、インタビューやディスカッションの最中、ダンマリを決め込む人はほとんどいなくなりました。
「雑談力」を上げても雑談できないわけ
結局、会話脳を刺激しないと話せないままなんです。
「話し方」や「話題の選び方」を工夫しても、4人以上の複数コミュニケーションで話せるようにはなりません。だって、いくら技術を磨いても、会話脳が活性化していないと、「脳が話そうとしないまま」だから。
雑談力を磨いても、話せなければせっかくの鍛錬も効果がなくなってしまうのです。
でも逆をいえば、脳を「しゃべれる」状態にできれば、複数の場で「しゃべらない、存在感薄いやつだ」とは思われなくなり、その場での「コミュニケーション能力最下位」を抜け出すことができるということ。
脳の特性を利用したコミュニケーションをとることで、仕事でもプライベートでも、「なんか自分だけ声かけられていない」なんて孤独な場面はなくなるのです。
会話脳の特性を踏まえれば、あなたがいちばん話していないということも、いちばんつまらないやつだと思われることも、いちばん印象に残らないやつになることもなくなります。
そして、相手の脳の仕組みに応じたコミュニケーション戦略をとることで、「感じがいい」と思ってもらえるポジションを獲得でき、「なんとなく声をかけたくなる」人になれるのです。
もちろん、5人でも、6人でも、10人くらいまでなら、脳からすると「4以上はほぼ同じ」なので攻略できます。
<本稿は『なぜ僕は、4人以上の場になると途端に会話が苦手になるのか』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock
【著者】
岩本武範(いわもと・たけのり)
1975年、静岡市出身。静岡産業大学准教授、博士(工学/京都大学)。人の行動データ分析、ウェルビーイング、心の余裕の追究などを研究の専門領域としている。
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