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「努力は面白くない」のに続けられる人だけが知る『究極の鍛錬』の真実

 調達コンサルタントとして活動し、テレビ、ラジオなど数々の番組に出演、企業での講演も行っている坂口孝則さんはさまざまなジャンルにまたがって毎月30冊以上の本を読む読書家。その坂口さんによる『新版 究極の鍛錬』(著:ジョフ・コルヴァン、サンマーク出版)のブックレビューをお届けします。

鍛錬によって人はアウトプットを最大化する

 アメリカのコメディアンは舞台に一人で立つ。いわゆるスタンダップコメディと呼ばれる形態が多い。

 私は芸人ではないものの、企業に呼ばれて講演をする機会が多いので、舞台に一人で立っていかに聴衆を巻き込むのが難しいかを知っているつもりだ。そんな私はこの数年間、動画配信サービスなどでアメリカのスタンダップコメディをよく観ている。

 中でも、舞台の見事さに舌を巻くコメディアンがいる。ステージ上を右から左に縦横無尽に歩き回り、1時間ほぼ休みなくジョークを発射し、そして観客を笑わせ続ける。観客の様子を見ながら次々にテーマを変えたり、少し落ち着いたトーンに抑えたかと思えば、次の瞬間には感情を爆発させたりする。

 なんという舞台さばきだろうか。「笑いの天才だ」と思った。彼の名はクリス・ロック。おそらく、日本では「スタンダップコメディの名手とか」「お笑いの天才」と紹介するよりも、「アカデミー賞の受賞式でウィル・スミスから平手打ちを食らった黒人男性」といったほうが通じるかもしれない。

 とにかくこのクリス・ロックの話術のすごさを見て、私は「アメリカはすごい。才能ある人材が多い」という認識を持つようになった。

 しかし、たまたま手に取った書籍『新版 究極の鍛錬』を読んで、この考えを修正するに至った。もしかすると、クリス・ロックは才能の人ではなく、努力と鍛錬の人なのかもしれない。そして、この書籍『新版 究極の鍛錬』がもっともモデルケースとして描きたかった人物像に近いのではないかと思うに至った。

 その人物像とは、「努力を重ねることで、他の誰もが追随できないレベルに達する人間」だ。

「究極の鍛錬」を生む6つの要素

  私は本書の表紙に掲げられた「努力が面白くなる!」というフレーズがあまりに気になって『新版 究極の鍛錬』を買い求めた読者の1人だ。

『新版 究極の鍛錬』
『新版 究極の鍛錬』

  おそらく多くの人にとって、努力は苦痛で避けたいものであるはずだ。それが面白くなる? ほんとうにそれが実現できれば最高じゃないかと、私は思った。

  本書が明らかにするのは、意外な事実だ。まず世の中で偉人とか達人とかいわれている人たちの能力はきわめて平均的であること(!)。しかし、それでもなお努力を死ぬほど繰り返したことが多くのエピソードとともに語られる。

 多くの科学者や作家は20年もしくはそれ以上の時間を献身的に捧げて初めて、輝かしい最高の業績を上げたという事実が判明してきたのだ。

(P137より)

 というのだ。といっても、まったく無意味な努力を勧めているわけではない。ここは非常に参考になるので引用しておきたい。

究極の鍛錬にはいくつかの特徴的な要素がある。そして、それぞれが検討に値する。その要素とは以下の通りだ。
①しばしば教師の手を借り、実績向上のため特別に考案されている。
②その鍛錬は練習者の限界を超えているのだがはるかに超えているわけではない。
③何度も繰り返すことができる。
④結果に関し継続的にフィードバックを受けることができる。
⑤チェスやビジネスのように純粋に知的な活動であるか、スポーツのように主に肉体的な活動であるかにかかわらず、精神的にはとてもつらい。しかも、
⑥あまりおもしろくもない。

(P144~145より)

 このすべての説明は、もちろん本書に譲る。私が解説したいのはこのうち2つだ。個人的な見解を紹介する。

見たくないものを見てフィードバックを受ける必要がある

  一つ目。「④結果に関し継続的にフィードバックを受けることができる」が心に刺さる。

 すべての仕事はカスタマーファーストである。すべての粗利益の源泉は顧客にある。しかし、多くの会社員はそれを失念して、つい組織や自己のやり方を優先する。そしてもっとも大事にしなければならない対象=お客の顔を見ずに好き勝手やってしまう。逆に言えば、どこまでもお客のことを考えて、結果についてフィードバックを受け続けていたら成長するのだと思う。

 同書にはこのような表現はされていない。ただ、私が書き換えるのであれば、これはビジネスでもっとも重要な「見たくない事実を見る」態度だ。こんな簡単なことなのに、多くの人は「見たくない事実を見る」ことができない。

 仕事を進める際、「このままじゃうまくいかない」とわかりつつ、ずっと同じことを繰り返す人が多い。たとえば「今の仕事を続けても同士がいる。それは変化を起こしたくないからだ。だから「見たくない事実を見る」あるいは「現実を受け止めて、少しでいいから変化を起こす」ことが重要だ。

 同書を読み進めていくと、冒頭で紹介したクリス・ロックの記述にぶつかった。

どんなに有名になろうとも、クリスは一人のコメディアンとしてのハングリー精神を依然もちつづけている。
(中略)
鍛錬の過程で行った高い頻度での繰り返しには、とくに驚かされる。出演のたびに何度も台本を見直す。ロックの仕事の場合、幸いにもフィードバックを受けることは簡単だった。大切な客の反応を即座にかつ継続的に得ることができるからだ。そしてお客の反応は残酷なまでに正直なものだ。ロックは技を磨く作業を徹底的に集中して行った。

(P161~162より)

 非常に驚いた。クリス・ロックの笑いは、きわめて重層的な練習と検討と努力に支えられていたのだ。ノリや才能ではなく、ひたすら鍛錬の人であることは、深い感銘とともに、凡人の私に勇気をくれる。

つまらないから努力しよう

  二つ目は「⑥あまりおもしろくもない」だ。つまり、本書の表紙に書かれている「努力が面白くなる!」というフレーズはミスリードするものだと本文で告白している。あまりに正直に書いているのも本書の魅力なのだろう。

 以前、私が通っていた地方の県立進学校から東京大学に進学した先輩がいた。その人は「勉強法として苦しかったら正解」といっていた。多くの人は自分が解ける問題ばかりを解く。だから成長しない。でも、わからない問題をやるから意味がある。だから勉強が苦しかったら正解なのだ、と。

 だから「⑥あまりおもしろくもない」というのは、出版社が表紙に「努力が面白くなる!」と書いて書籍を売ろうとしている態度とは真逆の真実なのだろうと思う。そして「④結果に関し継続的にフィードバックを受けることができる」に立ち戻ると、フィードバックを受けて改善を続けていかねばならない。自分をぬるま湯に浸からせるのではなく、常に克己するからとりあえず苦しい。

  これについて本書はかなりユニークになぐさめている。というのも、「努力がそんなに嬉しく楽しいものであれば、誰もが努力してしまうでしょう」と。だから「努力が卓越した結果をもたらすと知ったあなたは幸運ですね」というのだ。これは末尾に「(笑)」とでもつけるのが必要かもしれない。でも、私には一抹の真実があるように思えるのだ。

 ひたすら自分の仕事の至らないところを見つけ、努力を重ねて以前の自分を超えていく。たったこれだけのシンプルなことなのに、他の人はやっていない。自分だけでも実践することで頭一つ抜きん出る。

 これは一度味わった人にとっては「努力が面白くなる!」ということなのかもしれない。だから一周まわって表紙のフレーズは真実なのだろう。

  ただ努力の一歩を踏み出さねばならない。どうやって? そう本書を読んで興奮することによって、となる。その意味で、なるほど本書の構成はなかなかうまくできている。

 努力は面白くない、だからこそ面白くしたい人に読んでほしい。

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部) 
Photo by shutterstock


坂口孝則/調達コンサルタント
大学卒業後、メーカーの調達部門に配属される。調達・購買、原価企画を担当。バイヤーとして担当したのは200社以上。コスト削減、原価、仕入れ等の専門家としてテレビ、ラジオ等でも活躍。企業での講演も行う。

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