転職エージェント任せにした人が「また辞めたい」となりかねない理由
転職活動において、転職エージェントや転職サイト、口コミサイトといった転職支援サービスに頼ったという人は少なくないでしょう。しかし、その便利さゆえに、何かを変えようと転職した人の中で、また「やめようかな…」とモヤモヤしてしまう原因を作ってしまうことがあります。
転職が孤独だということを解説した「社会人3〜4年目で転職に挑む人に知ってほしいモヤモヤの正体(7月5日配信)、「自己分析」や「自分探し」でますます自分がわからなくなることに触れた「転職後「また会社辞めたい」とループする人が入り込む迷路の出口」(9月10日配信)に続いて、『「会社辞めたい」ループから抜け出そう! 転職後も武器になる思考法』よりお届けします。
転職支援サービスが「便利すぎる」からこそ
転職支援サービスはどんどん便利になっています。ぴったりの求人を紹介してくれる「転職エージェント」。企業の魅力や課題を分析してくれる「転職サイト」。企業の実態が垣間見える「口コミサイト」。
うまく使えば「会社辞めたい」ループを抜け出すことができます。
しかし、使い方には注意が必要です。実は、これらの転職支援サービスが便利すぎるゆえに、私たちから本音と向き合う機会を奪い、嘘をつかせる原因、つまり「会社辞めたい」ループにはまる原因のひとつになっているのです。
中でも転職エージェントは、使い方にもっとも注意がいる転職支援サービスです。忙しく働いていて「ひとりで転職活動をする余裕がない」人に支持されています。だからこそ「転職エージェントには危うさもある」と知り、本音磨きの機会を失わないでほしいのです。
どうして「普通に考えればすぐにわかる」 ものがわからなくなるのか?
外資系コンサルティング会社に新卒で入社したコンサルタントのAさん(女性・20代後半)も、転職エージェントを利用していました。
平日の残業が多く、休日も仕事をしていたので、ひとりで転職活動をする時間も、紹介された求人を吟味する時間もありません。Aさんは、転職エージェントに紹介されたIT企業の選考を、違和感がありながらも受けていました。内定が出たときに転職エージェントから「内定を受諾するのかの回答期限は週明けです」と急かされ、ようやく「ちょっと言いなりになりすぎかも」と考え直し、行動に移ります。
そこでAさんは、知り合いをたどって、2年前までこのIT企業に在籍していた人に話を聞きました。すると、転職エージェントから聞いていた「この企業は女性も子持ち社員も活躍していて、Aさんの今後を考えるとぴったりですよ」とは全然違う反応でした。「仕事が生きがいになっている人しか残れない過酷な職場」だと言うのです。
Aさんはずっと違和感はあったそうです。面接官は挨拶もアイスブレイクもなく「なんでうちに入りたいの?」とタメ口で話し、最終面接では社長が30分遅れて面接室に入ってきたにもかかわらず何の詫びもなく「忙しいので端的に話して」と最初に宣言されました。
「冷静に考えればおかしかったです」
Aさんはそう振り返ります。でも、どうして考えられなくなっていたのでしょうか? Aさんはコンサルタントという仕事柄、自分で調べてよく考えることはいつもしています。
転職活動は「自炊」だ。「コース料理」じゃない
Aさんもまた、便利すぎる転職エージェントに頼りすぎて、本音と向き合うことを忘れていたのです。転職エージェントは求人紹介だけでなく、履歴書や職務経歴書の添削、企業や業界の分析、年収交渉までするとアピールする会社もあります。それでいて、料金がかかるわけではありません。「慣れているわけでもないから、転職活動は任せてみよう」と考えるのも無理はありません。
忙しすぎる毎日と、転職エージェントの過剰な便利さ。この2つが合わさったときに、転職エージェントは「嘘をつかせている原因」に姿を変えます。
転職エージェントはどんな存在なのでしょうか? 前述したサービス内容の充実度と無料というこの2点から、転職エージェントは「一流シェフ」のように見えます。予約するだけで自宅まで出来上がった高級料理を運んできて、後片付けまでしてくれます。しかも無料で。
そうなると、転職活動自体も「コース料理」かのように思えてきます。
でも、あまりにも手厚くしてくれて転職活動のはじめから「任せていいな」と思ってしまう、それが危ないのです。転職エージェントを使うタイミングは「転職活動のステージ1以降」です。
転職エージェントは「一流シェフ」ではありません。いい素材を運んできてくれることは間違いないですが、それが自分の身体に合うかの判断をするのも、どんな料理をつくるのも、自分です。転職エージェントは「八百屋」であり、転職活動はどこまでいっても「自炊」です。
すべての転職支援サービスが絶対にできないことがある
転職支援サービスがくれるものは、すべて二次情報です。
たとえば口コミサイトの情報も玉石混淆です。中には真実が語られている書き込みもありますが、確かめようがありません。悪い辞め方をした人が鬱憤を晴らすように書き散らかしている場合もあります。また、口コミを見るためには口コミを書いてポイントを稼ぐ必要があるサイトもあり、単にポイント欲しさに適当に口コミを書き込む人もいます。
私たちは転職サイトを無料で使えます。なぜかというと採用企業が転職サイトの運営会社にお金を払って広告を出しているからです。ということは、そのページには「私たちが本当に知りたい内情」よりも「企業が載せたい広告」があると考える方が自然です。
もちろん「転職サイトに載っている情報は嘘ばかりだ」とは言いません。労働大臣の許可を得て設立された公益社団法人全国求人情報協会が求人広告についての苦情相談を受け付けていたりもします。求人サイトは企業の嘘を隠すような露骨なことはできません。それでも私が複数の求人サイトを運営していたときには、広告を出稿する企業から「この文言は消してください」と言われたら要求を飲まざるを得ないことがありました。
この「お金を払っている企業に有利な情報が掲載される仕組み」は転職エージェントも同じことです。転職エージェントによっては紹介手数料を多く支払ってくれる企業の求人を優先して求職者に紹介する会社もあります。
転職エージェントの本質は「代行サービス」です。私たちの代わりに「自己分析」も「企業分析」も「面接対策」も「年収交渉」も行う。しかも無料で。でも絶対に代行できないことがあります。それはあなたの転職後の仕事や生活であり人生そのものです。
転職支援サービスは確かに便利です。自力で調べても得られない情報もたくさんくれます。それでも「転職支援サービスがくれるものはすべて二次情報」という事実を忘れないでください。
「面接や企業とのメールや電話のやりとり」で浮かんだ感情つまり一次情報の方がはるかに大切です。その一次情報を逃さないために本音磨きがあります。
<続きの記事は後日公開予定です。本稿は『「会社辞めたい」ループから抜け出そう! 転職後も武器になる思考法』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>
(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)Photo by Shutterstock
【著者】佐野創太(さの・そうた)日本初かつ唯一の「退職学®︎(resignology)」の研究家/生成AIを活用した情報発信のパートナー