見出し画像

我慢強い人ほど耐えきれず「うつになる」という逆説

 「これさえやれば最強のメンタルを手に入れられる」と言われるようなことを求める人こそ、どんどんメンタルが弱くなっていきます。

 逆にどんどんメンタルが強くなるのは“大人の心”を持っている人。メンタルが強いというと、我慢強かったり忍耐強かったりをイメージするかもしれませんが、それは“子どもの心”の強さです。

 子どもの頃に大人から“人間とはこうあるべき”と植え付けられて、それを守って頑張れば結果が出た時代もありました。ところが、社会に出ると努力や我慢だけではうまくいかないことも出てきます。相手ありきの恋愛がまさにそれ。そしてビジネスも先の読めない時代に入っています。

 そんな中でもメンタルを保てる“大人の心”とは?

 豆腐メンタルという自覚のある40代女性ライター・高木が、元自衛隊メンタル教官で心理カウンセラーの下園壮太先生に率直に心の悩みをぶつけた『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』

 ライター・高木の「とにかくメンタル強くしたいんですがどうしたらいいですか?」という質問に下園先生が答えた「メンタルがどんどん弱くなる人と強くなる人の差」(4月15日配信)に続いて、本書の一部をお届けします。

◎前回はこちら


『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』(サンマーク出版) 下園壮太
『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』

【「子どもの心」とは】
・〝我慢強い〟〝忍耐強い〟
・大人から植え付けられた〝人間とはこうあるべき〟
・昭和の時代に合った価値観
・硬い心。ポキンと折れてしまうことがある

不慮のダメージを受けたとき、本能は「休め」と指令を出す

高木:相手に振り向いてもらおうと思っても、相手がすでに誰かと付き合っていたら、パートナーに選んでもらうことなんて難しい。一般論ですが。

下園:恋愛以外の局面でも、「絶対評価」ではなく「相対評価」になってしまうことが増えてきます。これはたとえ話ですが、職場でがんばって評価を積み重ねていても、後から優秀な人が多く入ってきた場合、突然リストラ候補になる可能性だってゼロではないわけです。「人事異動で上司が代わって急にパワハラを受けるようになった」ってことも起こります。

高木:はい、よくわかります。

下園:リストラにならなくても、新型コロナウイルスの流行みたいなことがあって、急に売り上げがガタ落ち。「航空業界を目指していたのに、採用試験がなくなった」なんてこともありますよね。東日本大震災やリーマンショックのときも、内定取り消しになった例は少なくありません。

さらに言うと、いくら仕事が順風満帆でも、体調を突然崩したり親の介護が必要になったりして、仕事を休まざるをえなくなることもある。不慮のダメージを受けたとき、本能は「まずは休め、休んで態勢を立て直せ」と言ってきますから。

高木:へえ、本能が「休め」と指令を出すわけですか?

下園:そうなんです。疲れた体を休ませようとして、疲労感が強くなったり、うつっぽくなったりするんですよ。でも「子どもの心」が強すぎると、その人はせっかく発せられている自分のSOS信号をスルーしてしまうんです。「こういうときこそ!」とがんばろうとし「ひとりで切り抜けよう」と人の援助を受けるチャンスを逃します。

高木:あちゃー、ちょっと自分と被るところがあって耳が痛いお話です。

子どもの心は「固い」、大人の心は「柔らかい」

下園:もちろん、がんばること、努力することは、大事です。ただ、この「子どもの心」だけを持っていると危険です。もし高木さんの友人がSOSを発していたらどうしますか?

高木:もちろん、助けます!

下園:ですよね。でも、子どもの心の強さって、自分のSOSに対して「もっとがんばらなきゃ!」「まだまだできる!」と突き放すようなことをしてしまうんです。子どもの心は自分に厳しい。

高木:それはひどいですね。逆に先生の言う「大人の心」を持っているとどうなるんですか?

下園:大人の心を持っている人は、自分の身体が発するSOSをちゃんと汲み取って、いたわります。先ほど高木さんは、友人がSOSを発していたら、助けます、とおっしゃいましたが、大人の心を持った人はまさしく友人に接するように自分にも接します。

高木:なるほど。でも先生は先ほど、大人の心を持っていると「心がどんどん強くなる」とおっしゃいました。SOSを汲み取ると確かに、そのときは回復すると思いますが、どんどん強くなることはないですよね?

下園:もう少し大人の心について詳しく説明しますね。子どもの心は〝こうあらねば〟という固定観念で凝り固まった「固い心」です。それに対して大人の心は「柔らかい」。

高木:柔らかい?

下園:はい。大人の心は柔軟な心です。メンタルの一時的な強さを目指すのではなく、長期的な強さを目指すのであれば、この「柔らかさ」が大事になってきます。固い心っていうのは、強そうに見えるのですが、意外と簡単にポキンと折れてしまうんですよ。周りから見て、とてもメンタルが丈夫そうなエリートが、ある日突然会社に行けなくなり「うつ」と診断された、ということはよくあります。

高木:あ、その話は聞いたことあります。以前勤めていた会社でも〝なんであの人が〟と思うような人がうつになったことがありました。

うつで破綻するのは、心が強い人

下園:高木さん、ちなみに、うつになる人って心が強いと思いますか? 弱いと思いますか?

高木:え、そりゃ、弱い人じゃないんですか?

下園:実は、強い人がなるんですよ。正確には「子どもの心」が強い人ですね。

高木:なるほど。大人の心ではなく、子どものほうですね。

下園:心が強い(我慢強い)からこそ、たくさんストレスを抱えてもうつになるまでがんばれるんです。抱えきれないストレスがたまって、体調が悪くなって会社を休んだり、そのストレスの発散先として、行動に出る人もいます。異常な行動をとり、犯罪を犯してしまう人もいます。

人間関係が破綻してしまう人もいます。でも、うつになる人は、体調も悪くならず(悪くなっても無視しているケースも多いですが)、異常な行動もとらずに、我慢して(できて)、最終的にうつになる。うつになるのは、心が弱いからではなくて、心が(子どもの心という意味で)強いからだと思ってください。

高木:なるほど。

下園:たとえばですが、会議で自分の意見が理不尽に否定されたとき。誰でもイヤな気分になり「こんな話し合い、もうやめてやる!」とすぐに会議室を出ていきたくなるでしょうが、そんな気持ちを完全に抑え込んでしまうのが子どもの心です。

高木:え、それって大人ですよね!?

下園:そうですね。正確に言うと子どものときにイメージする「我慢する(できる)大人」です。それに対して「ああ、そうですか」とまずは柔らかく受け止めて、自分とは異なる価値観があることを認め、自分を許し、いたずらに自信を失うことなく自分を励ましていくことができるのが「大人の心」です。

高木:あっ、私がほしいのは、それです。「大人の心」です。

◎続きはこちら

<本稿はとにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock


【著者】
下園壮太(しもぞの・そうた)
NPO法人メンタルレスキュー協会理事長。元・陸上自衛隊衛生学校心理教官

1959年、鹿児島県生まれ。82年、防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊入隊。陸上自衛隊初の心理幹部として、自衛隊員のメンタルヘルス教育、リーダーシップ育成、カウンセリングを手がける。大事故や自殺問題への支援も数多く、現場で得た経験をもとに独自のカウンセリング理論を展開。2015年に退官し、その後は講演や研修を通して、独自のカウンセリング技術の普及に努める。主な著書に『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新聞出版)などがある。

◎Kindle版購入ページはこちら(紙版も購入できます)

『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』(サンマーク出版) 下園壮太