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「君はこうするべきだ」と言わずに歩み寄ってもらえる話し方のコツ

 相手が自分の話に耳を傾け、自分を尊重してくれていると感じると、私たちはその相手を信用します。

 とはいえ、人は他人をたやすく信用しません。では、信用される人は何をしているのでしょう? 不可解な人間関係の謎を、最新の脳科学で解き明かし、スウェーデンで大反響を呼んだ『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』より、「一旦信じることの大切さ」を解説します。

『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』(サンマーク出版) 書影
『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』

「スイカ」を「ドラゴン」と言われても

 ここで、ある寓話を紹介しよう。何より信用がものをいう村の話だ。

「その昔、パタゴニアの山奥に小さな村があった。村人たちは飢えに苦しんでいた。というのも、畑にドラゴンが1匹いるのを見たため、誰も怖がって畑に寄りつかなくなり、作物を収穫できなかったからだ。

 そんなある日、旅人が1人、村にやって来た。その男は食べ物を分けてほしいと村人に頼んだ。村人は、畑にドラゴンがいるから何もやれないと答えた。すると男は勇敢にも、ドラゴンを退治しようと申し出た。ところが、男が畑に行くとドラゴンなどどこにもおらず、巨大なスイカが1つ実っているだけ。彼は村に戻って、その話をした。すると村人たちは怒り狂って、男をめった切りにして殺してしまった。

 数週間後、その村に別の旅人がやって来た。その男も食べ物を分けてほしいと頼んで、ドラゴンの話を聞かされた。この男も勇敢で、前の旅人と同じように、ドラゴンを退治しようと申し出た。村人は大喜びした。男が畑に行くと、やはり巨大なスイカしか見当たらない。彼は村に戻り、スイカをドラゴンと見間違えたのだろう、と村人たちに言った。スイカを怖がる必要はない。だが、この男も村人の怒りを買い、ばらばらに切り刻まれてしまった。

 ときは過ぎ、村人たちは絶望していた。ある日、3人目の旅人が村にやって来た。その男は村人が絶望しているのを見て、わけを訊いた。村人は悩みを打ち明けた。この男もやはり、ドラゴンを退治してあげようと申し出た。だが、男が畑に出てみると、例によって巨大なスイカがあるだけだった。

 男は剣を抜くと、まっすぐ畑に飛び込んだ。そして、そのスイカを粉々に切り刻んだ。それから村人たちのところに戻って、『ドラゴンは退治しましたよ』と告げた。村人は歓喜して躍りあがった。その後、旅人は数か月ほどその村にとどまって、ドラゴンとスイカの違いを村人たちに教えてやった」

 最初に村を訪れた2人の旅人と、3人目の旅人の命運を分けたものは何だったのか?

 はじめの2人は、自分のものの見方にもとづいて村人と接した。いっぽう、3人目は村人の見方にしたがった。これはまさにバリデーションだ。簡単に言えば、相手の話に耳を傾けて、その話を真剣にとらえ、こちらが理解したことが相手にきちんと伝わるようにすること。

 3人目の旅人は、村人の話を聞き、それを受け入れて、話を信じていることを示した。その結果、村人の信頼を勝ちとり、自分の話にも耳を傾けてもらえた。信用とは、相手の立場からはじめることで生まれるのだ。

 パソコンやタブレット、スマホを同期すれば、複数のデバイスを同時にアップデートできる。同期すると、すべてのデバイスの中身は同じになる。これと同じように、バリデーションをするとき、私たちは、自分を相手と同期させて相手のファイルを読み込んでいるのだ。それによって、相手の立場で考えられるようになる。

やわらかい要求

 聞き役になったり会話をリードしたりするのは、さまざまな状況で役に立つ。たとえば、話が行き詰まって進まないとき。

 建設的な方向にリードするには、こんな方法がある。「話がなかなか進まないですね……どうやら行き詰まってしまったようです。では、こうしてみてはどうでしょう……」

 最初の2つの発言は、自分と相手の考えが同じであることを示し、あとの発言は会話をリードするフレーズだ。

 つまり、いくつか「相手と同期する」発言をしてから、リードするフレーズを続けるのだ。こちらが相手と同じ考えであることを示してからリードする発言をすれば、双方が同じ立場にいることが伝わり、相手もすんなり受け入れてくれるだろう。

 ほんのいっときでも相手は自分が集団の一員で、真剣に考えてもらっていると感じる。その結果、こちらの言うことに耳を貸してくれるはずだ。

 また、会話をリードするには、相手に「オープンクエスチョンを投げかける」という方法もある。自由に答えられる質問を投げて、その問題に対する相手の考えを引き出すのだ。たとえば「私にできることはありますか?」「ベストな解決策は何だと思いますか?」など。

 またクローズドクエスチョン、つまり答えが限定される質問をする方法もある。「……というやり方があります。あるいは、……というやり方もあります。どちらがいいですか?」

 特定の方向に誘導する質問をすることで、相手は会話に参加し、自分の意見を言う。そうやって適切な方向に会話の舵を切るのだ。

イエスかノーで答えさせる

 究極のクローズドクエスチョンは、相手にイエスかノーで答えさせるものだ。この場合、答えは1つだ。たとえば「私が考えている提案を聞いてもらってもいいですか?」「1つ提案をしてもいいですか?」などだ。

 提案やヒントを出してもいいか許可を求めれば、相手はそれに答えざるをえない。質問に答えたり、会話の結果に影響を与えたりする立場になれば、こちらの提案に耳を貸してくれる可能性が増える。もし、あなたが「きみはこうするべきだ」と言ったら、相手はどんな態度をとるだろう? その場合との違いを考えてみよう。

 たとえば、みんなで食卓を囲んでいるときに「塩を取ってもらえますか?」と言う。これは、要求をやわらかい問いかけの形で伝えている。要求をやわらかく伝える言いまわしは、ほかにもある。「もしよければ……」「……してくれるとありがたいです」「……してくれたらうれしい」などだ。

こちらがやさしく接すれば相手も歩み寄る

 20年ほど前、私はある学校で学期末のイベントの司会を務めた。そのイベントには生徒が60人ほど参加していて、コース料理のディナーも含まれていた。生徒のほとんどは、長時間じっと座っているのに苦痛を感じたはずだ。

 イベントの進行が予定より遅れたため、私はディナーを中断して生徒たちに休憩をとらせることにした。とはいえ、生徒にしばらく席を離れて自由にしていいと言えば、すんなりまた着席させるのは至難の業だ。

 次のプログラムの準備ができると、私は、きっぱりと、しかし親しみを込めて言った。「さあ、みんな、席に戻りましょう」。私は身体全体を使ったボディランゲージで、生徒たちにどう行動すべきかを示した。すると全員がすっと席に戻り、またイベントを続けられた。

 イベントが終わると、校長と教頭が私のところに来て言った。「生徒がみんな戻ってきて、ちゃんと席に着くなんて、いったい何をなさったのですか」

 私は驚いて、2人の顔を見返した。

 2人とも、私が休憩をとってもいいと生徒に言ったとき、かなり気を揉んだという。生徒たちをもう一度スムーズに着席させるなんて、絶対に無理だと思ったようだ。

 私は、自分が何をしたのか振り返ってみた。あのとき私は、言葉やボディランゲージ、声のトーンによって自分の要求を明確に伝えた。実質的には「命令」だったけれど、あくまでも親しみを込めた、快活な口調で伝えた。それにより、どの生徒も、言われたとおりにしようと思ったのだ。

 やわらかい言いまわしや問いかけの形で要求を伝えれば、相手を威圧することなく、明確にメッセージが伝わる。

 相手が自分の考えを発言できれば、相手にとってそれは集団の一員だという証だ。

 また、要求は親しみを込めた言い方で伝えれば、相手を好意的に思っていることや、同じ集団の仲間であること、手助けしたいと思っていることが伝わる。

 心の受信アンテナは、他者が自分に好意的かどうかを常にチェックしているため、親しみのこもった言葉や口調に敏感に反応する。

 そのため、こちらがやさしく接すれば、相手は警戒を解き、歩み寄ってくれるだろう。

<本稿は『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 SUNMARK WEB編集部) 
Photo by shutterstock

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【著者】
レーナ・スコーグホルム(Lena Skogholm)
行動科学の研究者。講演家、教育者。年に80回近く講演や講義を行い、スウェーデンで最も人気のある講師100人の1人に選ばれた。温かさとユーモアにあふれる語り口と、明快でわかりやすい解説には定評があり、2021年には、スウェーデンのすぐれた講演者に与えられるStora Talarpriset賞を受賞した。25年にわたり研究を続ける脳科学にもとづいた人づきあいのメソッドは、職場や私生活で今すぐ役立つツールとして、高く評価されている。
本書『The Connection Code』(Bemötandekoden:konsten att förstå sig på människor och få ett bättre liv.)は、スウェーデンで発売と同時に売上ランキング上位に入り、ベストセラーとなった。国内外で話題の本となっている。

【訳者】
御舩由美子(みふね・ゆみこ)

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