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「うつ」の手前で自覚できた人と誰にも気づいてもらえなかった人では何が違ってくるか

「あなたは深刻な『うつ』ではないが、『プチうつ』の状態。なんらかの対処が必要なレベルです」

 40代女性ライター・高木が心理カウンセラーの下園壮太先生に心の悩みをぶつけた『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』

 前回(全4回)までの対話を経て、高木は「プチうつ」だと下園先生から指摘されました。「うつ」ではない「プチうつ」とは、どんな状態なのでしょうか。

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『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』 サンマーク出版
『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』

心の状態は3つのゾーンに分かれる

下園:では、高木さんのメンタルが今どういう状態か説明しますね。

私は、メンタルヘルスの話をするときに、まず心の状態は3つのゾーンに分かれる、という話をします。「通常ゾーン」「プチうつゾーン」「うつゾーン」を示した次の図を見てください。

(出所)『とにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』より

今高木さんはこの図の2段階にある「プチうつゾーン」にいます。じゃあ、僕がさっき聞いた高木さんのお話の中から、「プチうつ」の証拠をいくつか挙げてみますね。さっきのお話は、うつのサインにあふれていましたから。

高木:あああー、そうだったんですか。プチとはいえ、「うつ」と言われたこと自体がショックです。

下園:まあ、そう言わず、事実を受け止めてみませんか。そのほうが、高木さんは結果的に早く、うつから卒業できますから。

高木:そうなんですか?

下園:もちろんです。まず、うつのサインの1つ目は、先週もお話しした「自分責めモード」です。2日目の「ボーッと過ごしたこと」や「流されるようにテレビを買ったこと」、「仕事が増えているのにコンスタントにアウトプットができないこと」への、自責の念。4日目の「私ってやっぱりダメだなあ」という自責の念。

5日目、トレッキング後の「仕事が山積みなのになぜ遊んでしまったのか」という自責の念。6日目、「トレッキングで仕事の能率が落ちたこと」への、自責の念。7日目の、「女医の同級生に嫉妬するなんて」という自責の念。そして8日目の「仕事もせずに怠けてしまった」という自責の念。

書き出してみるとよくわかりますが、高木さんは毎日、ご自分を責めているわけです。どう見ても責めすぎです。きっと心の中では、数分ごとの感覚で、自分を責め続けているはずですよ。

「老化」や「更年期」のせいではない?

高木:言われてみれば。もう先生のおっしゃる通りです。でも、自分でも不思議なんですよ。なんで、私はこんなに自分を責め続けているのかなあって。で、その根本には、仕事の能率がガクンと落ちていることがあるような気がしてならないんです。

下園:それは、仕事の能率が、数年前と比べて落ちているっていうことですかね?

高木:そうなんです。でも、私のような取材して書く仕事は、「慣れ」が大きくものをいうので、キャリアを積むほどスピードアップする側面もあるはずなんですね。原稿のフォーマットにも慣れてくるので。

なのに、速く書けるようになるどころか、机に向かっても他のことを考えてしまうというか、集中できないというか。これが「老化」ということなんでしょうか? つまり、年のせい? それとも、更年期とか?

下園:うーん、もちろん「老化」や「更年期」が影響していないとは言い切れません。体力と同じように脳も年齢を重ねると弱ってきます。ただ、仕事に集中できなかったり、能率が落ちたりする大きな要因として「プチうつ状態」が大いに関係しているでしょうね。

高木:「仕事に集中できない」「能率が落ちてきた」の要因が「うつ」だなんて、ちょっと信じられません。それに「仕事の能率が下がる」って、誰にとってもかなり大きな問題のはずですよね。でも、そんな情報、今までまったく聞いたことがありません。

下園:もちろん、仕事の能率が下がったすべての人が「プチうつゾーン」に入っているとは言いません。ただ、極端に仕事に対する集中力が下がった人に関しては、「プチうつゾーン」に入っている可能性があります。

心にまつわることは、当事者になってから、しかも病状がかなり深刻、つまり深刻なうつ状態になってから「調べる」、もしくは「主治医に教えられる」ということが多いんです。つまり予防的に、事前に教わるという機会がない。だから、高木さんが「まったく聞いたことがない」というのも仕方がない話です。

でもほんとうは、すべての人に、若いうちから、できれば学生のうちから知っておいてほしい情報なんです。早期発見、早期治療が理想的ですから。「うつゾーン」に入る前に知ってほしい。さらに言うと自分についても、相手や周囲の人についても、気付いてあげられると最高です。

自分が「うつ当事者」だと気付けない人も多い

高木:図に「うつゾーン」に入ると「死にたくなる」って書いてありますもんね。確かに、こういうことは学校でも教わらないし、職場でも注意を喚起されることなんてほとんどない。当事者になって初めて情報をかき集めるというわけですね。しかし自分が「うつ当事者」だと気付けない人も多いってことですか。

下園:そうなんです。体の病気であればともかく、まだまだ偏見が多いから自覚症状があっても声を上げにくいというか、大っぴらに相談しにくいというのはありますね。

高木:なるほど。その心理、とてもよくわかります。現に私だって、こんな状態にあることを、職場の人たちには隠していますから。

下園:でしょう? そうすると発見も遅れるし、治療も遅れるわけなんです。納得いただけたようなので、次は「うつが仕事の能率を下げる仕組み」について説明しますね。うつになると、実際、頭の働きは通常よりも悪くなります。

下園:つまり、先ほど高木さんがぶっちゃけてくださったように「仕事の能率がガクンと落ちる」ものなのです。でも、本人はその変化が「うつ」によるものだとは、まったく気付かない。高木さんのように「老化かな」「更年期かな」と他の原因を探し始める。もしくは、それほど致命的な問題ではない場合、問題を軽く見て、原因探しをやめてしまう。その状況が、いちばん危険です。

高木:確かに「仕事の能率」が下がっても、急に死ぬわけじゃないし、そのまま「同じような日常を送りたい」って思いますよね。

下園:そうなんです。人の脳は変化を嫌うようにできていますから。

(では、どうなってしまうのでしょうか? この続きは後日公開します)

<本稿はとにかくメンタル強くしたいんですが、どうしたらいいですか?』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by Shutterstock

【著者】
下園壮太(しもぞの・そうた)
NPO法人メンタルレスキュー協会理事長。元・陸上自衛隊衛生学校心理教官

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