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疲れやすい人が見落としているかもしれない悪循環の正体

「疲労」と無縁で過ごせる人はなかなかいません。逆に、うまく疲労を抜いて、回復できるようになれば、快適な生活を送れるはずです。

 その疲労は「体」だけの現象なのでしょうか。

 在籍している多くの学生選手が世界レベルで活躍するスタンフォード大学のスポーツ医局による「疲労予防」と「疲労回復」のメソッドをまとめたロングセラー『スタンフォード式 疲れない体』よりお届けします。

『スタンフォード式 疲れない体』
『スタンフォード式 疲れない体』

結局、何が疲れを引き起こすのか?

「疲労とは、体だけでなく、脳からも生じる現象」と、私はかねてから考えています。

 もう少し正確にいえば、疲労とは、「筋肉と神経の使いすぎや不具合によって体の機能に障害が発生している」状態のこと。つまり、筋肉だけでなく「神経のコンディションの悪さ」が疲れを引き起こすというのが、最新のスポーツ医学の見解です。

 神経を「自律神経」と「中枢神経」に分けて、簡単に説明しましょう。

① オンとオフの切り替えを担う「自律神経」

 私たちの体の〝脈拍〟〝呼吸〟〝消化〟といった「意識しないで行われていること」は、自律神経が担っています。

 自律神経には昼に活発になる「交感神経」と、夜に活発になる「副交感神経」の2つがあり、日中は活動するための「交感神経」が優位、夜間は休むための「副交感神経」が優位というのが、体に本来備わったシステムです。

 ところが、過度のストレスがかかるなどして自律神経のバランスが崩れると、交感神経と副交感神経がうまく交替しなくなります。すると、眠れなくなったり、体温調節がうまくいかなくなったり、血圧が上昇したり、呼吸が乱れたりすることに。

 自律神経の乱れは、まず「病気ではないが不調」という状態で現れます。おのずと疲労感を伴うのですが、これを放置したまま悪化させると、本当に病気になってしまうこともあります。

② 体の動きを統制する「中枢神経」

 中枢神経は、手足を動かす際の「動作の指示出し」など、体の様々な部位に指令を出す「司令塔」のような役割を担う神経です。

「手や足を動かす」というのは、骨と腱と筋肉が勝手に動いているわけではなく、脳と脊髄にある中枢神経と、手足にある末梢神経のチームプレーのたまもの。

 ところが、後述するように体が歪んだりすると、「中枢神経→末梢神経」の連携がうまくいかなくなります。これは、「脳からの指令が体の各部位にうまく伝わらない」状態なので、体は思うように動きません。

 すると、思うように動かない体の「なんだか重い」「だるい」という感覚が、脳にフィードバックされます。やがて、脳が体の「だるさ」を感知し、あなたの意識に「疲れている」という感覚がのぼります。

こうして「人体の司令塔」が〝自動的〟に疲弊する

 疲れを感じている人の多くは、「自律神経」と「中枢神経」の2つの神経のコンディションが悪くなっている状態です。神経の司令塔は脳ですから、2つをまとめて「疲労の原因は脳にある」というわけです。

 この「脳疲労」を防ぐために、私がとくに注意しているのは、「体の歪み」です。

 体が歪んでいる人は、中枢神経からの指令が体の各部位にうまく伝わりません。体の歪みをかばうために無理な動作をし、ちょっとした動きにも必要以上に負担がかかります。無理な動作を続けると、ますます体は歪んで姿勢が悪くなり、中枢神経からの指令も体の各部により一層伝わりにくくなることに。

 この状態が続くと、「座っているだけで腰がだるい」「ちょっと歩くと足が上がらない」という状態を招きます。それで無理に筋肉を使えば、体の各部に余計な負荷がかかって、さらなる体のダメージにつながる。まさに悪循環です。

 そこで私は、「疲れやすい体=歪んだ姿勢の体」と定義しています。

 あなたがもし、「姿勢が悪いことくらい、どうってことない」と考えているなら、認識を改めましょう。体の歪みは、中枢神経を乱すトリガーとなる危険な状態です。そして、体の歪みと密接に関係しているものこそ「体内の圧力」です。

 詳しくは『スタンフォード式 疲れない体』1章で迫っていますが、あなたももしかすると、体内の圧力に原因があって、姿勢が歪み、体の動きが崩れているかもしれません。

 動作に負荷がかかり、いらぬ疲れを引き寄せている可能性も高いのです。

 アスリートの場合も、ケガの予防のためには、中枢神経にアプローチして動作をスムーズに矯正しなければならない──。

 そこでアスレチックトレーナーが用いるトレーニングや治療の大部分は、「筋肉や関節をケアする」というものから、「中枢神経の機能を正しく整えて、動作をスムーズにする」という方向に変わってきました。

 だからこそ、私はこう考えるのです。

「パフォーマンス低下やケガの原因となる『疲れた体』にならないためにも、まずは中枢神経にアプローチしよう」と。

体力がありそうに見える「マッチョ」の本音

 スタンフォードのスポーツ医局の壁には、大きなアメフト選手のイラストが2体描かれていて、一方に描かれているのは、防具を身にまとったアメフト選手。もう一方もアメフト選手ですが、こちらはヘルメットの中の脳が透けて見えたイラストです。

「マッスルだけではなく、ブレインも鍛える」

 アメフトのように強靭な肉体が求められるスポーツにおいても、頭脳が非常に大切だということですが、同時にこれは、今のスポーツ医学の象徴でもあります。

 スポーツ医学において大切なのは、「疲れが最小限になるように予防すること」、「試合中に最高のパフォーマンスを発揮できるようにすること」、そして「試合後のダメージの回復を最大限にすること」です。

 それをスポーツ医局では、次の3サイクルで行っています。

① 中枢神経を整えることで体に余分な負荷がかからないようにし、疲れを予防する。
② 筋肉を鍛えて、パフォーマンスを上げる。
③ リカバリーメソッドを実践して効率よく回復を図り、体と脳の疲れを取る。

 日頃から「筋トレ」をして鍛えていれば疲れないのかといえば、そんなことはありません。筋トレはむしろ2番目の、パフォーマンスの部分に影響するアプローチです。

 鍛え抜かれた体を持つアスリートも、「100%疲れない」というのは不可能。

「筋肉量が多い=疲れない」というわけではないのです。

 だからこそ、適切に予防と回復を行えるかどうかが、「疲れない最強の体」を実現する鍵を握っているといえます。

<本稿は『スタンフォード式 疲れない体』(サンマーク出版)から一部抜粋して再構成したものです>

(編集:サンマーク出版 Sunmark Web編集部)
Photo by  Shutterstock


【著者】
山田知生(やまだ・ともお)
スタンフォード大学スポーツ医局アソシエイトディレクター、同大学アスレチックトレーナー

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